第15話 動き出した乗っ取り計画
翌日。
とうとう、【
僕に直接関係ないというのに、なぜかギルドの使いがきて、報告してくれた。いやなんで?
「ジーガ、例の件はどうなってる?」
そんな一級冒険者パーティの事はおいておいて、僕は食堂で朝食を摂りながら、ジーガにカベラ商業ギルド乗っ取り計画の進捗を聞く。食堂にいるのは、僕だけだ。グラはこういう場には、あまり顔をだしたがらない。
「スィーバ商会はすぐにでも、旦那と会いたいそうです。予定は旦那に合わせると言っています。今日でもいいとの事ですよ。よっぽど、こちらと繋ぎを作りたいんでしょうね」
「じゃあ今日でいいよ。準備しといて」
「了解しました」
ジーガも最初こそ驚いていた計画だったが、話を詰めていくうちに積極的になってきた。
「ウル・ロッドとは話を付けた?」
「まだですよ。そっちは、ファミリーのうえにアポを取りたいと打診した段階です。こっちの目的についても、まだ知りません」
そりゃあ、あちこちで吹聴していたら、向こうだって警戒してしまうだろう。ウル・ロッドが計画の全容を知るのは、もはや足抜けできない段まで首を突っ込んでからだ。
「まぁ、雄弁は銀、沈黙は金か」
「違ぇねえ」
たまに見せる、ジーガの粗野っぽい口調に、僕もニンマリと笑みを浮かべた。最近、他の使用人もいるからと、全然砕けた態度を取らなくなったんだよね。まぁ、仕方ないんだろうけどさ。
「ただですねぇ、カベラ商業ギルドの看板に傷を付ける事は難しくないんです。なにせ、町を捨てて逃げるんですから。向こうも、立つ鳥跡を濁しまくりで、既に周囲から白眼視されています。ですが、やはり乗っ取りともなると、旦那が正面切ってギルドにケンカ売る事になると思うんです。面倒な事になりますよ?」
まぁ、特権商人たちとのケンカとか、想像するだけでゲンナリするよね。だが、その心配はない。
「大丈夫だ。ギルドにケンカを売るのは、この状況でなりふり構わず、町を捨てるこの町の支部の幹部どもだ。ウル・ロッドがいれば、そういう風に誘導するのは、造作もない」
「なるほど。ですが、そいつらと一緒に旦那が恨まれる可能性はありますよ?」
「たしかに。だが、僕らはどちらかといえば、彼らの信用回復を手助けする立場だ。むしろ、感謝されて然るべきだろう。もしそれでも敵対するというのなら、それはつまり、カベラはこの町の儲けを完全に切り捨てるという判断を下す事に他ならない。君の目から見て、あのギルドはそれ程愚物揃いだったりするのかい?」
「いやまぁ、そんなわきゃないんすけど……」
それでもちょっと、自信なさげな態度のジーガ。まぁね、正直僕らのなかでカベラ商業ギルドの株は底値だ。本当に、そんな愚行に走らないなどと、断言できる程の自信はない。
それに、ジーガだってプレッシャーはあるのだろう。今回の計画をシンプルに要約すると、特権商人と一家の執事とが、正面切って殴り合いの商戦をするというものなのだ。普通にやったら、まず勝ち目はない。
だが、向こうには落ち度があり、こちらには使える手札がいくつかある。現時点でも勝機は十分にあり、聖杯が上手くいけば勝利は間違いない。
「でもですね、一度カベラの看板をメタメタにするなら、その再建にはやっぱり元手がないと無理ですよ。それは、いくらウル・ロッドがいたって、どうにもなりません。彼らはあくまでもマフィア。商いという戦場においては、門外漢もいいところですからね。当然、当家の財布を逆さにしたって、全然足りません」
それはそうだろう。僕は所詮、一回アタリ商品を開発しただけの、アクセサリー職人に過ぎない。それが、この世界だとそれなりの値段になるうえ、ジーガが資産管理をしてくれるから、いまはそこそこ羽振りはいい。だが、それだって小金持ちという程度に過ぎない。
特権商人のギルドという看板が、そんな安値で売っているわけがない。そんな廉価で販売されていたら、間違いなく曰く付きだと判断して、むしろ誰も手をださないというレベルである。
だから僕は、彼らの失地回復の為の布石を用意しておくつもりなのだ。その為に、カベラはジーガを無視できなくなる。そんな計画なのだ。
「それなんだが、いまのうちにブルネン商会とイシュマリア商会に話を通しておいて」
「ブルネンとイシュマリアですか? どう話を通しておけば?」
「近々、奴隷を大量に購入する予定がある。注文するまで、あまり数を減らさないで欲しい、とでも」
「え?」
思いがけないところで、思いがけない話を聞いたとばかりに、ジーガはキョトンとした顔をする。
「もしかしたら、正規の職員として、両商会の本来の商品を求めるかも知れない。ただし、こちらはどうなるかわからないから、言質は取られないように」
「は、はぁ。旦那、なにをするつもりです?」
思っていたよりも話の規模が大きかったからか、ジーガの声は震えていた。なにせ、カベラ商業ギルドの看板を立て直すだけの資金はないと言ったのに、それ以上の資金が必要になるであろう、なんらかの計画の話をされたのだ。ビビって当然である。
「大丈夫。お金については、アテはあるんだ。まぁ、僕らの財布からでていくお金じゃないから、安心しなよ」
「だ、誰の財布をアテにしてるんです? ちょ、ちょっと怖いんですけど」
大丈夫大丈夫。向こうもたぶん、大喜びで財布の紐を緩めてくれるから。
あ、でも、そういえばダンジョンを探知するマジックアイテムを使ったとかで、いま結構散財してるんだっけ——この町の領主って。
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