第14話 現状確認
〈5〉
必要なものを取り寄せたり、加工に時間がかかったりするので、杖作成はいったんお預けとなり、僕らは直近の課題を片付けるべく話し合いを設けていた。
「バスガルからの干渉はどうなってる?」
「相変わらず、小手調べ程度の弱いモンスターを放つだけです。あまり積極的な攻勢にはでていません」
「意外だな。てっきり、初日からガンガンくるタイプだと思っていたんだが……」
これでは、『ガンガンいこうぜ』どころか『いのちをだいじに』ですらない、ただの日和見ではないか。
こっちとしては、冒険者ギルドと【
だが、どこか不気味だ。
なんでバスガルは、攻勢にもでないのに、ダンジョンを広げるような雑事にリソースを注いでいる? こちらを侮り、短期決戦を想定しているのなら、戦後に必要な作業を前倒ししているとも考えられる。だが、それなら小手調べは不自然だ。
侵略戦争において、自分の領域を広げるメリットは、相手の
まぁ、もともとこちらは、冒険者からの情報が入ってくるので、開戦前から前哨戦を行っているようなものだが……。
それでも、せっかく広げた地形を、こちらの斥候に調べられてしまえば、あまりに費用対効果が悪すぎる。領域を広げるなら、積極的に攻勢にでて、互いに戦力をぶつけ合うような殴り合いにならねば、意味が薄いのだ。
「ダンジョンコアとして、向こうの動きに関しての見解は?」
「わかりかねます。私から見ても、バスガルの行為はあまり効率的とは思えません。律儀に宣戦布告まで行って、これ程までに消極的な姿勢を見せるのも不自然に思います」
「だよなぁ……」
あの宣戦布告といい、ギギさんの態度といい、向こうのダンジョンコアはたぶん結構な武闘派だ。それも、人間たちに追い込まれた武闘派という、かなり行動予測の立てやすそうな相手だった。
だが、いざ蓋を開いてみると、意味のわからない行動にでて、こちらは混乱しきりである。もしも撹乱工作の類なら、なかなかの戦果といえるだろう。意味はあまりないけどね。
「……ダメだ。考えてもわからないから、この件は後回し」
「大丈夫でしょうか?」
不安そうなグラの声に、僕も自信なさげに頷く事しかできない。
僕としても侵略戦争なんて初めての事だし、あまり確信をもってなにかを断言できないんだよねえ。もしかしたら、丹念に小手調べをするのが相手の流儀なのかも知れないし、ダンジョンの領域を広げるのも、いつもやっているルーティーンだからという可能性もなくはない。
そうだとすると、変に動いて、こちらに有利な状況を崩したくないのだ。こっちの目的は、あくまでも時間稼ぎなのだから。
「次。えーっと、カベラの件か。まぁ、借金問題はどうとでもなる。問題は、その後のギルド支部の乗っ取りだ」
商業ギルドというのは、特権商人の特権にあやかる為に大規模化した、商人たちの寄り合い所帯だ。カベラ商業ギルドもまた、服飾関係の特権をいくつか有する交易組織である。
この町にあるのは、あくまでもカベラ商業ギルド支部だ。その支部の幹部たちが、いまこの町から逃げようとしている。
まぁ、逃げる事そのものについてはどうでもいい。借金についても、前述の通り問題はない。が、そのギルド支部を牛耳るとなると、それなりに手間が生じるわけだ。
「私はそちらにはノータッチにならざるを得ないのですが、大丈夫ですか? いまの状況で、雑事に煩わされるのは時間の無駄では?」
それこそ、バスガルの行っているような真似ではないかと、グラは指摘してくる。そうだね。だからこそ、バスガルのあの行動も、僕らのやっている事とおなじような、彼らにとっては必要だけど、僕らとの争いには関係のない行動かも知れないのだから。
「大丈夫。そっちはジーガと、ウル・ロッドに任せるから。あ、あとスィーバ商会もか。ともあれ、僕らはあまり手を煩わされる事はない」
「はぁ。ウル・ロッドというのは、以前に攻めてきたあの愚か者連中の事ですよね?」
グラは相変わらず、ウル・ロッドに対していい感情は抱いていないらしい。まぁ、当然か。ウチを攻めた連中だもんね。
いまはある程度共闘関係にあるんだけど、そういう経緯から、グラは連中に対して警戒心を崩さない。まぁ、僕だって別に、全幅の信頼をおいているわけじゃない。
「彼らには彼らで、使い道があるのさ。ジーガにカベラを乗っ取らせれば、僕らが【鉄幻爪】シリーズで気を使う相手はいなくなるといっていい」
「ほう、それはたしかに朗報ですね。たいした手間ではありませんが、だからといって人間どもにいいように使われるのは業腹です」
「だからさ、乗っ取ってからこっちがいいように、カベラ商業ギルドを使ってやろうと思ってる」
「ふむ。なかなか魅力的な話ではありますね。具体案が気になるところです」
うーん、教えてもいいけど、グラって人間社会に疎いからなぁ……。『全部叩き伏せて、いいなりにさせれば良いのです』みたいな、原始人のような理屈を振りかざしかねない。
「具体案は、これからジーガと詰めていくよ。気になるなら、グラも同席する?」
「いえ、そこまでの興味はありませんね。私になにか手伝える事はありますか?」
やはり、気になるといっても、そこまで強い関心ではなかったらしい。とはいえ、手助けしてくれるつもりはあるようだ。
だったら、アレの作成をお願いしよう。僕がやるつもりだったのだが、できるかどうかまだ全然見通しが立ってないものだ。しかも、完成させるにはかなり繊細な作業が必要になる。
「え? うーん、じゃあもしかしたらできないかも知れないんだけど、作ってもらいたいものがあるんだ」
「ふむ。できないかも知れないという前置きが少々気に入りませんが、わかりました」
「材料はガラス、金、銀、その他」
金や銀は、【鉄幻爪】シリーズがアクセサリーとして売り出される為に、結構手元にあるのだ。しかも、今回の計画で使用する量はそれ程多くない。
「なにを作ればいいのです?」
「聖杯」
僕は事もなげに、現代地球でもたった一つしか現存していない代物の作成を依頼する。
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