第13話 お手軽な永遠の輝き

「木材は、幻覚作用のある実をつけるケシファナの枝がいいでしょう。ジーガに取り寄せさせます。あとは、タイマ油とカコインコのくちばし……は、たぶん取り寄せに何日もかかるでしょうね……。仕方がありません。ダンジョンで作って、嘴だけ受肉させてから潰しましょう」


 忙しそうに、グラが僕の杖に必要なものをリストアップしていく。僕もまた、どの素材にどういう効果があって、どういう加工をするのかを、資料に目を通して勉強しつつ、グラの手際を観察する。


「いつもみたいに、光の糸に変えてから再構築ってできないの?」


 ふと疑問に思って聞いてみると、グラはゆるゆると首を振ってから答えた。


「ステッキならばそれでもいいのですが、ロッドではやらない方がいいですね。徒にリソースを削ぎ落としてしまうだけです」

「なるほど」


 生物本来の形を変えすぎるのは、リソースを削ってしまうという事だろうか。でも、だったら、ステッキというのは、杖としては完全に悪手ではないのだろうか。

 その辺もグラに訊ねてみると、彼女はまたも首を振った。


「ロッドとステッキを製作する際に用いられる技術というのは、根本からして種類の違うものになります。ロッドは生命体本来の、魔力に適した体組織を最大限残しつつ利用するのに対し、ステッキは魔力に適応する形に加工するのです。だからステッキにしたからといっても、そこまでロッドに劣る代物にはなりませんよ」


 ふぅむ。まぁ、ダゴベルダ氏が持っていたような杖では、たしかに取り回しは悪そうだし、あれで戦うというのはなかなか想像できない。その点、ステッキならある程度は戦うビジョンも見えやすい。


「そこまで加工するのであっても、木材や骨材ってのは、無機物に勝るのかい?」

「そうですね。費用と手間に目を瞑れば、木材や骨材を用いたステッキと同レベルの金属ステッキを作る事はできるかも知れません。が、どう考えても費用対効果は良くありません。同レベルでいいのなら、わざわざ金属で作るメリットはない、といったところでしょうか」

「なるほど。でも、近接戦闘用と思えば、木材よりも金属とかの方が安心なんじゃない?」

「気休め程度にはそうですね。鈍器として用いるなら、どのみちステッキは重量不足であまりダメージを見込めるものではありません。それはロッドも同様でしょう。ですのでショーンには、己の身を守る事を主眼においた闘い方を身に付けてもらいます」

「なるほど。了解した」


 あくまでも、戦士が応援に駆け付けるまで、防御に徹する為の杖術という事だろう。ネットゲームはあまりやらなかったけど、僕に求められているのは、そこでの後衛職のような立ち回りなのだ。

 要は、チョロチョロせず、後ろから飛び道具を放ってろという。とはいえ、幻術ってのは、そういうゲームでありがちな、ドカンと一発系の【魔術】じゃないんだよなぁ……。モンスターに対しても、あまり効果が見込めるものじゃないし。

 このままだと、単にグラに守られるだけのお荷物になりかねない。己の身を守る事は了承したが、さりとて優先順位が変わったわけでもない。僕は僕の命よりも、グラの身の安全を優先する。

 だがこれでは、本末転倒だ。なんとかして、僕自身戦える手段を模索しないと……。


「ふむ……。どうしましょうか……」


 僕が自分のこれからの戦闘スタイルに悩んでいると、グラもまたなにかを考えているようだった。


「どうしたの?」

「我々の属性を考えて、ロッドの先に地に属す触媒を取り付けたいのですが、あまり良いものは手元になかったと思いまして……」

「触媒? どんなの?」

「宝石です。できれば金剛石ダイヤモンドがいいのですが、触媒にするならそれなりの大きさが必要です。流石にハリュー家の財政状況では手がだせない代物でしょう。鉄電気石ショール黒玉ジェット、いえ、それでは流石に格が低すぎますね。できれば水晶クリスタル電気石トルマリンの大きなものを取り寄せましょ——……な、にを、してるんです……?」

「え? ダイヤ作ってただけだけど?」


 グラが恐る恐る見つめる先は、僕の手のひらのうえ。そこには、これまで貯めに貯めてきた土砂から抽出した炭素を光の糸に変えてから、カットするまでもなくブリリアントカットに整形されるダイヤモンドが、半ばまで作られていた。

 ぶっちゃけ、ダンジョンコアの力があれば、ダイヤを作るのなど造作もない。なにせ、単一元素の宝石であるのに加え、その元素もそこらじゅうに転がっている炭素である。にわか知識しかない僕にだって、酸化還元反応を使って炭素を抽出するくらいは簡単だ。

 多少構造に気を配る必要こそあるものの、それだって僕にとっては布の方が余程難易度が高く思える。

 そうこうしている間に、不純物の一切ない拳大のラウンドブリリアントカットのダイヤが……。うん? ちょっと違うか? ああ、違うんじゃない。カット面が不揃いで、輝きがいまいちなのか。その辺、あまり意識しないで編みあげちゃったからなぁ。

 もう一回やろう。


「ああ……っ!?」


 もう一回光の糸に解いたところ、どうしたのかグラがお気におりのおもちゃでも壊されたかのような、切なげな悲鳴をあげた。


「どうしたの?」

「い、いえ……。ショーン、ダイヤを作れるのですか?」

「え? うん。っていうか、たぶんグラも作れるよ。超簡単だから」


 あくまでも、ダンジョンコアとしてならという注釈は付くが、間違いなくグラにだって作れるだろう。もしかしたら、属性術での応用もできるかも知れないが、僕はまだそちらの造詣には深くない。


「も、もしかして他の宝石も?」

「うーん……。たぶん無理、かなぁ。あ、でも水晶は、石英の単一元素だっけ。だったら、もしかしたらいけるかも知れない。でも、その他の宝石類は、構成元素や構造をあまり覚えてない。その他は……」


 たしか青玉サファイア紅玉ルビーがコランダムなんだっけ? 青玉がクロムや鉄、紅玉が三価クロムなんだよな。なお、コランダムは勿論、クロムだって抽出法がわからないので、僕にこの二つを作るのは不可能だ。

 もしかしたら、グラならいずれ他の宝石を作る事もできるかも知れないが、僕にはもうこれ以上の引き出しはない。

 できれば、掘削した土砂類を元素別に分けたいんだけど、僕にはどう抽出すればいいのかもわからない。グラと一緒に、分類法法を考えておこう。

 そんな事を考えているうちに、この世界初の人工ダイヤモンドが完成した。うーんブリリアント!


 なお、僕作ったダイヤはグラに没収されたうえ、その後彼女が簡単に作ってみせた、トリリアントカットのブルーダイヤが僕の杖に使われる事になった。

 どこからホウ素取ってきた?



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