第12話 杖の種類
〈4〉
「杖を作りましょう」
ダンジョンに帰ってくるなり、グラはそう言った。
まぁ、ダゴベルダ氏の指摘通り、身の安全を考えれば使い勝手のいい杖はあった方が便利だという判断からだろう。
僕の場合、運動神経は並の域をでないのは明白だ。いくら依代の性能を向上させたとて、運動部では万年補欠の僕程度では、活用にも限度がある。運動というものは、単にスペックが高ければ記録が残せるという程、単純なものではない。
その点、【魔術】は知識と慣れがものをいう。いや、そちらも生命力から魔力を生成する速度や、効率的に魔力を操る技能が求められるが、それらは依代の性能をいじればなんとでもなる。
その点、僕には戦士よりも魔術師の方が、性に合っているといえるだろう。グラもまた、そう感じているようで、剣の素振りよりも幻術の勉強を優先する方がいいと言っていた。
とはいえ、二度死んだ事もあって、いざというときに剣を振れた方がいいという考えから、素振りは続けている。おかげで、少しはまともに剣を振れるようになってきたと思う。
「それを踏まえて、ショーンの近接戦闘技能として、これからは剣術ではなく杖術をメインにしていこうと思います。異論はありますか?」
「あ、ないです……」
どうやら、これまでの努力は、グラ視点からすればあまり実りがあるものではなかったようだ。いやまぁ、僕自身わかっていた事ではあるが……。
「……? ……っ! いえ、なにも剣術をやめる必要はありません。以前に比べれば、ショーンの腕は間違いなくあがっています。それは今日、確認したので間違いありません!」
肩を落とす僕に気付いたのか、一度首を傾げてから僕の内心を察したのか、すかさずグラがフォローを入れてくれる。でもなぁ、それってつまり、あの初戦闘に比べればマシって事だよね? あれから進歩がなかったら、グラに言われる前に辞めてる自信がある。
「ショーン、別に我慢する必要はありませんよ? やりたい事は、私やあのローブ男に気兼ねせず、あなたが決めていいのです。私はあくまでも、提案をしているだけなのですから」
「ああ、うん。わかってるわかってる。グラやダゴベルダ氏が言ったのは、僕の戦闘スタイルから一番合っているものを提案しただけで、強制されているわけじゃない」
やるもやらないも自由だし、杖を作ったあとでもしっくりこなければやめればいい。最終的には僕自身の身の安全につながる事だし、その分武器選びというのは自己責任だ。
単に、うすうす感じていた自分の才能のなさを目の当たりにして、ちょっと気落ちしただけだ。そんな事で、気を使われるというのも情けない。気を取り直して、僕はグラに笑いかける。
「じゃあ、どんな杖にしようか?」
「……本当に大丈夫ですか? 強がってませんか?」
「ちょっとは強がってるかもね。でもまぁ、ちょっと強がらせてよ」
「……わかりました。杖についてですが、短杖と長杖のどちらにするか。また、長杖にするにしても、ロッドにするのかステッキにするのかですね」
「
「そうですね。ですので今回は、長杖を作りましょう」
短杖と長杖のなにが違うのかといえば、それは術式を刻み込めるリソースだ。木材や、モンスターの骨などで作った杖は、理を刻む為のリソースが大きい。まぁ、そうでなければわざわざ戦闘時に杖を装備する意味なんて、ほとんどない。
理由はたぶん、どちらも生物の一部だからだ。石や金属、その他の無機物はあまり杖には向かないらしい。それは、魔力と親和性の高いものであってもそうらしい。
勿論、リソースの多いものを選ばねばならず、木や骨ならなんでもいいなどという事はない。また、加工にも結構手間がかかる。
まぁ、その辺はグラがやってくれるらしいので、僕はいまはノータッチ。いずれは、自分の杖くらいは自分で作れるようになっておきたい。
「ロッドかステッキって言われてもなぁ。どう違うの?」
「ロッドは、かなり元の素材のままです。勿論、使い勝手のいい形に整形や加工も施しますが、できるだけ木材本来の形を維持する為、加工してもあまりリソースが減りません」
要は、わかりやすい魔法使いの杖って感じか。節くれだった大きな木の杖。
ああ、さっきダゴベルダ氏が持っていたものと、ほぼ同じものだと思っておけばいいだろう。
「ほう。そう言うって事は、ステッキはそうではないと?」
ロッドがなにかを理解してから、僕はグラにステッキについて聞く。久しぶりにグラが、教師らしく胸を張って教えてくる。
「はい。ステッキは取り回しのしやすさを優先する為、使いやすいようにだいぶ加工します。いい素材を無駄なく加工すれば、短杖よりはリソースは多いでしょう」
ふむ。たぶん、僕が知ってる老人用の杖とか、あとは昔の映画なんかで紳士が持っているようなものを、ステッキというのだろう。
つまり、リソースは多いが使い勝手の悪いロッドか、取り回しはしやすいがリソースが削られるステッキか、という選択だろう。
「じゃあ、一択だね」
「どちらです?」
「ロッドだね」
「まぁ、そうだろうと思いました」
ぶっちゃけ、ステッキを選ぶなら、いまも使っている短杖でいい。まぁ、短杖は杖術には使えないだろうが……。
そんなわけで、僕の新しい武器は、魔法使いっぽい杖になった。ちょっとだけ、紳士っぽい杖にも惹かれてるのは秘密だ。いずれ、自分の杖が作れるようになったら、そっちも作ろう。
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