第8話 いつも通りの冒険者ギルド
帰り道はモンスターに遭遇する事もなく、すんなりと戻る事ができた。入り口の職員に、それなりの数のモンスターを駆除した旨を伝え、ヘドロスライムやトカゲ系のモンスターの種類についても報告しておく。
「やはり、トカゲ系のモンスターが増えていますか……」
「そのようです」
不安そうな顔の職員さんに頷く。彼もまた、動きを見せないギルドの対応に、やきもきしている人間の一人なのだろう。まぁ、こんな場所でダンジョンのへの侵入規制をやらされてる身としては、当然の反応だろう。もしもモンスターが氾濫すれば、真っ先に命を落とす立場だからな。
「大丈夫ですよ。どうやらセイブンさんが、お上の尻を叩いて、ギルドを動かしてくれるそうですから」
「そうですか。なら少し安心です……」
多分に強がりの混じった苦笑を湛えた職員に別れを告げ、僕らはギルドへと向かう。ついでに、今回手に入れた魔石を提出し、グラの実績にしておこうという腹積もりだ。
町を歩くと、やはり人垣が割れるように道ができる。とはいえ今日は、いつもと違って、グラの装備が目立つのが大きい。戦乙女もかくやといった華やかな姿のグラは、ただでさえ目立つ。そして、それ以上に目立つのが、彼女の武器だ。
十字軍末期とまではいかないが、見るからに少女といったグラが、二メートルはあろうかという突撃槍――閉じたパラソルのようなシルエットだが、それを掲げて歩く様は、どうしたって目立つ。
いや、別に掲げているわけじゃない。肩に担いでいるだけなのだが、一四〇センチに届かない身長のグラが、二メートルの槍を胸にかけると、自然と掲げているように見える。
ちなみに、胸にかけているというのは、胸甲の
ただでさえ、常日頃から遠巻きにされている僕らの内の片方が、そんな重武装で歩いているのだ。マフィアだって道をあけるだろう。……冗談でもなんでもなく。
そうして、スムーズに冒険者ギルドに到着した僕らは、先程職員にしたのと同じ報告をしてから、今日狩ったモンスターの魔石も提出する。
普段魔石を入れているポーチがいっぱいになったので、途中でネズミの皮から作った皮袋を二つ、まずカウンターに乗せる。次に、僕とグラのポーチに入れていたヤツだ。
グラはちょっとだけ、勿体なさそうに魔石を積んでいく。人間にくれてやるのが惜しいのだろう。まぁ、気持ちはわからないでもない。
だが、これで討伐の証明ができ、グラの実績になる。その分、ギルドからの信用を得られるのだから、潜入工作的には安い出費である。
あと、受肉していたモンスターは下水に放棄してきたので、そちらはあとで吸収すれば、それなりのDPも得られるだろう。ここにあるのは、すべて僕が生んだモンスターの魔石だ。
「お、多いですね……。これは本当に、今日だけで?」
受付のジーナさんが、カウンターのうえにずっしりと鎮座する皮袋と、積まれた魔石の量に冷や汗を垂らしながら聞いてきた。
「ええ、ついさっき。一応往復して、モンスターが出てこなくなるまでやりましたので、下水道内のモンスターはかなりスッキリしたと思いますよ」
まぁ、それでも討ち漏らしはいるだろうけどね。ただ、それも微々たるものだろう。間違いなく、トカゲは掃討できたはずだ。
「セイブンさんはいらっしゃいますか?」
「申し訳ありません。現在セイブンは外出しております。いつ戻るかは未定です……」
「そうですか」
どうやら、忙しく駆け回っているらしい。まぁ、それだけ本気になってくれているというの事なのだろう。であれば、今日の成果としては上々だ。
「であれば、お約束は果たしましたと伝言をお願いします。それでは今日はこの辺で……」
「ちょ、あの、報酬は?」
「え? ああ、忘れてました。そうですね。持って帰ります」
お金を稼ぐのが目的じゃなかったから、報酬という観点がなかった。ぶっちゃけ、小銭は嵩張って重いので持ち歩きたくはないのだが、よくある物語のように、冒険者ギルドは銀行業なんて営んでいない。
まぁ、完全に職掌外だし、どこにどう投資し、どう資金回収するのかが不透明なのに、金を預けるなんて不安すぎる。まさか投資もしないのに、タダでこちらの財産を守ってくれるわけもない。警備や施設にだって、莫大な費用が必要なのだから。
「わ、わかりました。それでは少々お待ちください」
ジーナさんが何度も往復しつつ、えっちらおっちら魔石を奥へと運んでいくのを眺めながら、僕らは受付の前で待機する。時間がかかりそうなら受付から離れた方が良さそうだとも思うが、魔石の換金時は普通、ここで待つしなぁ。でもなぁ、ここで待ってると、いつも問題が起きるんだよなぁ……。
「ああッ!? このガキが!」
……ほらぁ。まったく治安が悪いところなんだから。
僕とグラが同時に振り向いた先には、誰もいなかった。いや、誰もいなかったというのは語弊がある。
視線の先には、大男の姿があった。ただ、思っていたよりも随分と距離があり、僕らから見えるのはその背中だった。
「このクソガキ!? もっぺん言ってみやがれ!?」
僕らからは大男の影になって見えないが、どうやら彼の向こうでは、彼とトラブっている人がいるようだ。絡まれたのは僕らではないらしい。
「何度でも言おう。貴様らのような薄汚い地上生命にたかられたくない。吾輩から十メートルは離れて這いつくばれ、下郎。我が道を阻むなど、不遜であろう」
ものすごい尊大な言葉が聞こえたが、僕らにとってはそれどころではなかった。
地上生命? え、もしかして、ダンジョンコア?
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