第7話 グラの初戦闘と、定番のモンスター
「【
杖を構えた僕が誘引を使うと、どこにいたのかと聞きたくなるような数のモンスターが、一気に襲いかかってくる。見たところ、全部ネズミ系のようだ。
流石に、まだここまではバスガル由来のモンスターも、辿り着いていないらしい。
「ふッ!!」
グラが
どうやら何体かは僕が作ったものだったようで、地面にはバラバラと魔石が散らばった。
「とはいえ、大雑把な攻撃じゃ全部を倒し切るのは不可能か」
グラの背後から飛び出し、小剣
まぁ、もしも下水道で僕だけ襲われないなんてバレたら、一大事だしね。
ある程度モンスターを相手にしたら、僕は再び後ろに下がる。そのタイミングで、グラから【魔術】が放たれる。
「【
いくつもの氷柱が、ネズミたちに襲いかかる。実にスタンダードな魔術師っぽい。
スイッチして後ろに下がった僕ではあるが、もう出番はないだろう。だがまぁ、一応幻術の【睡魔】を準備しておこう。
だが、予想通り残り数匹になったネズミは、なす術なくグラに屠られていった。
「どうだい、初戦闘は?」
「なかなか、思うようにはいきませんね。初撃で全滅させられたら良かったのですが」
「流石にそれは欲張りすぎでしょ。ただ、僕らの場合、僕が【誘引】を使うから、まず前衛にはグラがいた方がいいようだね」
「そのようです。今回は使いませんでしたが、ショーンはその後【睡魔】を使い、ある程度のモンスターを脱落させるのがいいでしょう」
うん。僕もそれは思った。ただ、気付いたときには、既にグラが豹紋蛸を振るったあとだったんだよ。そこから理を刻むのは、時間的に無理そうだと思ったので、スイッチしたわけだ。
「そうだね。ただ、グラの武器って大きいからさ、一度振ったら懐に入られて大変じゃない? ちゃんと近場の敵に対処できる?」
「近付かれた際には、盾と
「オーケー。その際には、【睡魔】はなしで別の【魔術】を用意して。僕の処理能力は、グラ程高くないだろうし」
「了解です」
ひとまずは、基本的な連携を確認し、僕らは下水道を奥へと進む。
あれから何度か【誘引】を使ってモンスターを呼び、撃退しを繰り返した。誘き出されるモンスターに、何匹かトカゲが混じるようになってきた頃、僕らの眼前にバスガルへと続く扉が現れた。
「この先が、バスガルですか……」
「そうだね。だけど、今日は絶対にその奥には行かないよ? いいね?」
「……はい。既に開戦した相手のダンジョンに、ダンジョンコア本体が乗り込むというのは、あまりに危機意識に欠けています」
そうだね。まぁ、それを言ったら、以前僕が依代で乗り込んだのだって、おおいに危機意識の欠けた行動だった。まぁ、あのときは保身というものを、そもそも考慮していなかったわけだが……。
バスガルに続く鉄扉の前を通り抜け、なおも奥へ奥へと進む僕ら。既に、屠ったモンスターの数など把握できない。
ぶっちゃけ、グラの身体能力と【魔術】におんぶに抱っこで、僕はほとんどモンスター誘引装置と化していたといっても過言ではない。ちょくちょく大王烏賊で斬り捨てたりもしていたが、その能力を使ったりはしていなかった。
いやさぁ、水の触手って使い勝手はいいんだけど、ここで使うと下水が溢れたり跳ねたりしそうで、嫌なんだよねえ……。
「おや?」
グラの声にそちらを見れば、前方を見ていた。僕もそちらに目をやれば、そこは明るくなっていた。どうやら、下水道の出口へと到着したようだ。
「下水道の出口か。初めてきたな」
「そうですね」
特に用がなければ、くる必要のない場所だ。
僕らはたまに襲ってくるネズミやトカゲを斬り捨てながら、一回は見ておこうかと出口を窺う。窺ったが、後悔した。
下水道の出口には鉄柵が設けられているのだが、そこに漂流物が引っかかって、下水が堰き止められているのだ。一応、向こうには流れていっているのだが、出口付近の足場はひどい事になっている。
これでも、割と頻繁に清掃の人足が雇われてドブ浚いをするらしいのだが、それでもすぐにゴミが溜まるそうだ。
きっと、臭気もひどい事になっているだろう。臭気結界を張ってくれたグラに感謝しつつ、ここらで引き返そうかとグラに提案する。
「そうですね。目ぼしいものも特にありませんでしたし、それがいいでしょう。最後に、この辺りで【誘引】を使ってから、引き返しましょう」
「ああ、そうだね。まぁ、これまで通り、ネズミやトカゲばかりだろうけど……」
そう言って僕は、手の平に魔力を溜めると、そこに理を刻む。もはや慣れたものだ。それから、詠唱をする。
「【
途端に、そこかしこから足音が聞こえてくる。小さなものから大きなものまで。まぁ、大きなものといっても、以前の大ネズミ程度のものだ。それ程心配は——
「ショーン、注意してください。新顔です」
「新顔?」
グラが警戒していたのは、あのゴミが滞留していた辺りだった。そのゴミとドブの混ざった場所から、もぞもぞと蠢く影がこちらへと向かってきているのが、僕にも確認できた。
「あれは粘体?」
「はい。ヘドロスライムですね。汚水に含まれる有機物などを分解し、養分とする粘体ですが、小型の生き物も食らいます」
「ええ……。ダンジョンのエネルギーにもなる有機物を吸収しちゃうの? なんでそんなモンスターを作ったんだよ……」
「ダンジョン内の清潔さを維持できます。地上生命は所構わず汚物を垂れ流すので、その清掃は彼らの役目です」
「ああ、なるほど……」
老廃物からも多少のエネルギーは吸収できるのだが、この下水道のような大規模な施設は別として、ダンジョン内の汚物を処理する手間や時間は、得られるDPを思えば面倒と言わざるを得ないものだ。
だが、そんな汚物だらけのダンジョン。人間としても嫌だろうし、ダンジョンとしても嫌だろう。
そんな彼らにとっての救世主が、このヘドロスライムというわけだ。せっせとダンジョンをお掃除してくれるうえ、死んだらDPとして戻ってくる。しかも、自分でエネルギーを吸収する為、DP効率はかなりいいときた。
うん、やっぱりダンジョンにはスライム必須だね。
「ところでさ、どうしよグラ」
「どうしました?」
「スライム対策の砂、忘れた……」
スライムはまず砂をかける。それが、冒険者のセオリーだ。だから、この下水道にもぐる者は、絶対に一人一袋の砂をもってなかに入る。でないと、意外と厄介なスライムに、あちこち溶かされかねないからだ。
そんな砂を、僕は今日持ってきていない。なんたる事だ。これだから、なんちゃって冒険者は……。
「はぁ……。まぁ、スライムは水分を減らさないと、物理攻撃があまり効きませんからね。とはいえ、それ程厄介な敵ではありませんよ」
「そうなの?」
「ええ。【魔術】には覿面に弱いですから」
そう言ったグラが、ヘドロスライムを一瞬で凍らせる。それだけで、もうスライムは動かなくなった。
どうやら、終わりらしい。
「それよりも、他のモンスターが迫ってますよ? 【睡魔】の準備はできていますか?」
「忘れてた!」
僕は慌てて幻術の用意をする。グラが盾を構えて、モンスターの群れをいなしていく。薙ぎ、弾き、潰し、突き刺していく。
僕と交代すれば、すぐさま属性術の準備をし、敵を一掃する勢いで殲滅する。前衛も後衛もこなせる、まさに魔法剣士って感じだ。いや、この世界だと、魔術剣士になるのか。
こうして、グラの初戦闘は実に無難に終わりを告げた。なんというか、実に危なげない戦いぶりだった。
……僕の初戦闘とは、大違いである……。
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