第2話 開戦の日
〈2〉
あの宣戦布告から、あと数時間で十日。そう、開戦の日である。
できれば、もう少し有力冒険者を投入して向こうのリソースや意識を、人間側に向けさせたかった。残念ながらそこは、有名な一級冒険者パーティである【
しかも、そんな【
ただし、彼らはあくまでも斥候であり、彼らだけで中規模ダンジョンを攻略する事は不可能らしい。ダンジョンの攻略には、明確な戦力としての人材が必要なのだ。だが、その戦力が全然足りていない。
セイブンさんはギルドに常駐していて、いまも忙しく動いているのだが、その他の面子の到着が遅れている。たしかシッケスとィエイトとかいう戦士。それから、遠距離攻撃ができる魔術師のサリーという人。
流石に、セイブンさん一人では戦力として不足するとの事で、【
どうしようか……。ぶっちゃけ、防衛戦力というものは一切用意していない。それまでに、冒険者を動かして、向こうの対応能力を削いでしまおうと思っていたからだ。
その点、ここまでギルドや領主側のフットワークが悪かったのは誤算だった……。
「仕方ありませんね。防衛は、私が直接担いましょう」
そう言ったのは、姉のグラ。
彼女の声は、僕の頭の頭に直接聞こえる。いまは依代にいるというのにだ。
あの日——僕が自分に、生きる事を義務付けた日の翌日に、僕らは再び依代を作った。またも、勝手に僕の意識は依代に宿り、生命力を消費して自動的に肉体を構成するのは、やはり苦痛だった。
とはいえ、流石は正式採用の依代。苦痛の度合いは格段に軽くなり、回復も早かった。身体能力的にも、ダンジョンコア程ではないが改良されていたし、これでもうギルドの扉を開けないという事もないだろう。
使える生命力の量こそ減ったものの、依代は食料を食べれば回復する。まぁ、回復する生命力はその端からモンスターにして下水道に放っているので、最近はダンジョン的にも得られるDPが増えている。
「仕方ないね。僕も、できる限り応戦するよ。早く人間側が、バスガルの攻略に本腰を入れてくれないと、ジリ貧になるな、これは……」
バスガルのダンジョンと僕らとでは、地力に差がありすぎる。というのも、侵略戦争において最重要となるのが、ダンジョンが生み出したモンスターなのだ。
彼らは侵略を防ぐ城壁であり、相手の領土を占領する為の兵士でもある。そんな城壁と兵士が、僕らのダンジョンには皆無なのである。
戦記物とかでは、多勢に無勢の状況を逆転するというのが定番な流れではあるが、流石にそんな物語でも、兵数〇で大軍を退けた、などという話はないだろう。あったとしても、それは現実離れした与太話の類だ。
僕らがおかれている状況というのは、まさしくそれなのだ。
とはいえ、勝算がないわけではない。むしろ、一級冒険者パーティを向こうに差し向けられたという点においては、僕らはかなり有利に事を運んだといっていい。
問題は時間だ。【
「よし……。モンスターを作ろう」
「いいのですか?」
僕らがこれまでダンジョンにモンスターを配置しなかったのは、人間たちにここがダンジョンだと知られぬ為だった。だがしかし、ここまで切羽詰まっている状況においては、そんな事を言っていられる余裕はない。
「状況が片付いたら、生き残ったモンスターがいても全部処分する。それで、露見の可能性は下げられるはずだ。それに、配置するといっても【
「つまり、二階層にモンスターを配置すると? そこは、私の作った迷宮ですね」
「加えて、この三階層にもモンスターをおこうと思う」
「研究室、資料室、実験室、ベッドルームはどうします?」
「四階層に移そうと思っている。ただし、重要なもの以外は三階層に残し、三階層は廃墟風のダンジョンにする予定だ」
「なるほど」
三階層の内装が決まらず、むしろ僕らの都合で部屋を次々と増やしていった事が、この場合は幸いしたといえるだろう。病院や研究所の廃墟とか、もうそれだけで否応なく恐怖心を煽れて最高だ。
幻術の罠を用意するには、うってつけの舞台といえる。
問題は、四階層がまだまだ完全に更地な事と、ここにも生活用の空間が必要であるという事だ。もしかしたら、四階層まで廃墟エリアになるかも知れない。
まぁ、四階層についてはまだ考える段階じゃない。むしろいまは、配置するモンスターの種類に頭を悩ませるべきだろう。
病院や研究所風の廃墟……。血塗れの看護婦……。……ボロボロの白衣の男……。……狂った患者……。
うん、ショットガンが欲しくなるね。
そうこうしているうちに、開戦の朝となった。僕の耳に届いた第一報は、ジーガの焦った声。
「やべえぞ、旦那。カベラ商業ギルドから、借金の督促がきた!」
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