第56話 一級冒険者パーティ
セイブンは既に、答えがわかっていたのだろう。あえて聞いてきたのは、それだけ俺っちたちに対して、憤りがあるという事だ。それはそうだ。俺っちたちは、依頼に失敗した。しかも、依頼人の死亡という形でだ。それは、【
俺っちが言い淀んでいると、師匠が先んじて口を開いた。
「……あちしらが情報を持ち帰る為に、囮になった。【誘引】を使って、すべてのモンスターの標的になりつつ、あちしらを逃がした……」
「あなたたちの探索の目的は、ダンジョンの調査。そして、一緒に調査をするショーンさんの護衛だったはず。そんなあなたたちが無傷で、依頼主であり護衛対象であるショーンさんが、命を落としたと?」
「そうだよ」
「危機の事前察知もできず、護衛対象を守り切る事もできず、依頼主にして護衛対象を見捨てて、おめおめと逃げ帰ってきたと?」
「……ッ!?」
いくらなんでも無神経な言い方に、俺っちは噛み付こうとした。だが、そんな俺っちを、師匠が手で制す。
「その通りさ。あちしらは、護衛対象に逆に守られたまぬけだ。でもね、だからこそショーン君の意思を継いで、あのダンジョンは潰す。ショーン君の工房と、彼の姉を守ってやる。たとえ、ワンリーやあんたがやらないと言っても、あちし一人でもバスガルは潰す。何年、何十年かかっても、ね」
ペッシムアピステッレストリスの話を聞いたあとだと、師匠の宣言に込められた言葉の重みを実感できる。とはいえ、だからってその言い方はないだろう。
「一人ってのは、流石にないっしょ、師匠。俺っちだって行くんすから」
「うっさい。師匠が動くときは、弟子だって動くのは当然さ。わざわざ勘定に入れるはずないだろ。師弟三原則さ」
「その三原則、ずっと増えてないっすか……?」
やれやれと苦笑してから、強い視線でセイブンを睨む。それでもジッと俺っちたちを見ていたセイブンは、やがて大きくため息を吐くと天井を仰いだ。
「なるほど、これが冒険者ギルドの受付の苦悩ですか……。気に入っていた冒険者の死……。冒険者側にいた頃とは違う無力感を感じますね……」
年齢相応の疲れた声音に、ようやく俺っちにもセイブンの刺々しい態度の理由がわかった。ウル・ロッドファミリーとショーンさんが揉めた際に俺っちを派遣したのは、セイブンだった。俺っちよりも前から、ショーンさんとの付き合いがあるセイブンにも、彼の死に思うところがあったのだろう。
セイブンが冒険者ギルドの仕事をしているのは、将来的に彼を幹部に取り立てたいという、ギルドの意向を受けてのものだ。セイブンとしても、年齢的にそろそろ引退が近いという事もあってそれを了承しており、ギルドの様々な職に携わっている。
まぁ、いまの受付業務を任されているのは、ショーンさんという問題児がいたかららしいが……。
「……勝手に盛りあがっているところ悪いですが、当然私もダンジョンの討伐には参加しますよ。あなたたち二人だけでは、戦力が不足しているでしょう。ワンリーは、いまは国の要請で動けないはずです。シッケスとィエイト、あとはサリーにも声をかけましょうか。来られるかどうかはわかりませんが……」
セイブンが【
「ノイン君とトゥヴァインは呼ばないのかい?」
「ノインはいま国外です。なんでも、高名な魔術師とようやくアポイントメントが取れたとかで、知見を得られると大喜びだったみたいです。トゥヴァインは、まぁ……、呼びたければ呼んでも構いませんが……」
「いや、あちしもできる事なら、トゥヴァインとは顔を合わせたくない」
セイブンと師匠は、同じような顔をして、お互いに視線を逸らした。どうやらこの二人も、あの姉さんは苦手らしい。まぁ、俺っちも苦手だが……。
「ジューとエレベンは呼ばないんすか?」
「私はジューの動向を把握していません。フェイヴが知っているのなら声をかけましょう。エレベンも、呼びたければ呼んでも構いませんが、彼はあなたと同じ五級ですし、あなたと違って戦闘以外に長けている能力もありません。今回の件に、どうしても必要な人間ではありません」
セイブンの言い分に、まぁもっともだと肩をすくめた。
エレベンは、俺っちが師匠の弟子であるのと同じように、ワンリーやセイブンなんかの後継として育成されてはいるが、当然ながらまだまだその領域には達していない。いれば戦力の足しにはなるだろうが、どうしてもいて欲しいという人材ではない。あと、個人的にちょっと苦手なヤツでもある。
ちなみに、ジューの動向は俺っちも知らない。
「となると、集まれるのはあちし、バカ弟子、セイブン、シッケス、ィエイト、可能性は低いがサリーってところかい? ……ちょっとだけ、トゥヴァインを呼びたくなってきたね……」
やはり、サリーさんがいないと完全に前衛近接戦パーティだ。師匠が悩んでいるのも、その点が大きいだろう。せめてノインかジューがいれば……。
あと、トゥヴァイン姉さんを呼んだところで、あの人も遠距離攻撃手段なんて持ってない。むしろ、真っ先に敵に突っ込んでいくタイプだ。まぁ、その分実力の保証だけはあるので、師匠が彼女を呼びたくなったという言葉の意味は、戦力的な不安の裏返しだろう。
「魔術師で、思い当たる人がいない事もないんすけど……」
「うん? ウチのメンバー以外でかい?」
「はい……。ただ、すんごく気乗りしない話っす」
口が重い俺っちに対し、視線だけで先を促す師匠とセイブン。たぶん、事情を知れば手を貸してはくれるだろう。本人も、たぶん乗り気になってくれるとは思う。
だが、本当に気が乗らない……。
「勿体ぶらずに聞かせなさい」
なおも言い淀んでいたら、セイブンにそう言われ、俺っちは渋々その名を口にした。
「グラさんっす。ショーンさんのお姉さんの……」
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