第52話 探索二日目
翌朝……といえるのかどうか、相変わらず地獄のような空間で僕は目覚めた。寝起きに目にするには、最悪の光景だ。
石の地面で寝たせいで、非常に体が痛い……。体感的にも、生命力は万全とはいえない。とはいえ、夜番を免除されたおかげでそれなりには回復している。
「おはようっす」
僕が身を起こすと、既に起きていたフェイヴにあいさつをされる。僕も挨拶を返してから、乾いた手ぬぐいで顔を拭う。せめて濡れタオルが欲しいところだが、残念ながらこの状況で、飲み水も魔力も無駄遣いはできない。せっかく、グラが水を生む装具を作ってくれたんだけど、それはもっぱら飲み水を供給する為に使っている。
「夜はなにもありませんでしたか?」
「んー、まぁ俺っちが夜番している間は、二、三回モンスターが奇襲かけてきたくらいっすね」
「気付きませんでした……」
「ショーンさん、冒険者資格持ってんすよね? 流石に、寝てても異常があったら起きれるくらいにはしといた方がいいっすよ」
「精進します」
でもなぁ……。そこまで冒険者に比重を傾けたくないんだよねえ。グラが不眠不休で研究を続けている横で眠るのに、ちょっとした物音で目覚めるようになるというのも、いろいろ不便だ。
「そろそろ、中級冒険者は足を踏み入れてないところまで進んでると思うっす。まぁ、町中に出入り口があるダンジョンで、まだ見付かったばかりともなれば、泊まり込みで探索するのは負担と危険が多いだけで、デメリットが多いっすから」
「未踏のエリアを探索して、新発見とかあわよくばダンジョンの主を討伐しよう、なんて人はいませんか?」
「まぁ、いない事もないっすけど、五、六級の中級冒険者は結構手堅いんすよ。リスクを冒すなら、十分な装備と情報を準備してから、満を持して動くっす。そうやって、上級冒険者を目指すんす。行き当たりばったりなのは、七級くらいまでっすよ」
「なるほど」
流石にプロは違うようだ。やっぱり僕は、いまの七級くらいでいた方が、悪目立ちしなくていいと思う。まぁ、ダンジョンに入りたくもあるので、六級くらいならあがってもいいだろうが、まともな中級冒険者って、パーティ前提みたいなところがあるからなぁ……。
「あ、でも勘違いしちゃダメっすよ? なんにでも例外ってのはあるもんす。特に、六級とかだと、まだただの荒くれが混ざってる事もザラっすから」
「以前、ウチに侵入した連中みたいな、ですか?」
僕がそう問い返すと、フェイヴの表情が苦る。
「まぁ、そうっすね……。っていうか、その話はもう水に流してくれたんじゃなかったっすか……?」
「ええ、その通り。ですからあなたがそこにいた事に関しては、言及しなかったでしょう? 僕はただ、六級くらいにはまだまだチンピラゴロツキが混じっているんだなぁと思って確認しただけですよ?」
「はぁ……。……ホント、このお方には、口では絶対に勝てないっすね……」
肩をすくめて身支度を整えるフェイヴにくすりと笑い、僕も荷物を片付け始める。といっても、それ程散らかしていたわけでもないので、毛布替わりの防寒着をとさっき顔を拭った手拭いをバッグに詰め直すだけだが。
「おや、ショーン君も起きたのかい? じゃあ、とっとと朝飯にしようかね」
そう声をかけてきたのは、この環境では唯一といっても過言ではない目の保養である、外見だけは美少女のフォーンさんだ。右肩にピッケルを担ぎ、左手で魔石を弄んでなければ、その登場に癒されたかも知れない。どうやら、またも人知れずモンスターを退治してきたらしい。
代り映えのしない保存食を齧りつつ、今日の予定を確認する。といっても、方針は昨日と変わらない。このダンジョンの調査、ここがバスガルのダンジョンであるのか否かの検証、大まかな目的はこの二つだ。
「方角は見失ってないですよね?」
「当然っす」
「そうだね。ただ、やっぱり地下だからね、磁石はあまり役に立たないし、星が見えるわけもない。体感の方向感覚ってのは結構狂いやすいから、あまりアテにし過ぎるのも禁物だよ」
「それでも、おおまかな東西南北くらいは間違いないんですよね?」
「まぁ、そうだね。このダンジョンがバスガルに向かって延びているのかどうかくらいは、間違いなくわかると思うよ」
僕がどうして、方角を気にしているのかはお見通しらしい。
「僕の場合、工房を呑み込まれる危機感から、バイアスがかかっていると思いますから、お二人には別の可能性や懸念に関しても、探索中は留意してください。まぁ、僕ごときが言うまでもない事ではありますが」
「いやいや、ちゃんと口頭で意識共有してくれるのはありがたいよ。細かい意思疎通の齟齬から、重大な失敗につながる事もあるからね。あちしらも、そういうトコを怠らないよう、普段から注意してんだけどね。やっぱり、万全とはいかないさ」
なかなか含蓄のある言葉だ。とはいえ、この二人の場合は、言うまでもない事や、既に事前確認が済んでいる事柄の方が多いのだろう。なにより、なんでもかんでも確認取ってたら、煩わしくて仕方がないと思う。
「それじゃあ、今日も頑張りましょうっす!」
最後にフェイヴがそう締めて、僕らは二日目の探索を始めたのだった。
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