第25話 資料室での独り言

 翌日。僕は三日連続で冒険者ギルドを訪れていた。

 昨日、二日連続でギルドを訪問していた事から、今日はこないだろうと思っていたらしい受付嬢が「ひぇぇ……」と涙目になっていたが、無視してギルドの資料室まで案内してもらった。


「ショーンさんが、三日も続けてギルドに顔をだすなんて珍しいですね」


 今日はセイブンさんはお休みらしく、別の顔馴染みの職員さんにそう言われ、僕は取って付けただけの言い訳をしておく。


「昨日、持って帰った資料に関して、早急に調べたい事項ができたもので。それと、この周辺のダンジョンの情報を集めに。僕も一応、七級ですからね。いずれはダンジョンに潜る予定もあります。あとはまぁ、趣味の一環です」

「それはそれは……。では、本日は資料整理を手伝ってはくれないので?」

「いえ、周辺ダンジョンの情報であれば、むしろ積極的に見せていただきたいですね。その情報を整理するというお仕事であれば、むしろ僕の方からお願いしたいくらいです」

「まぁ、それはありがとうございます」


 コロコロと笑ってそう言ったのは、お上品な感じの老婦人だ。彼女は資料室の司書のような仕事を担っている。当然ながら、僕と同じように情報の整理も仕事の範囲である。驚いた事に、この町の冒険者ギルドには、資料を編集、編纂する人材は彼女しかいない。

 どうやら本当に、ギルドという場所は人材難らしい。



 四時間程資料を眺めて、僕は一つの結論に至る。


「……やっぱり、バスガルだな……」


 僕らに宣戦布告してきたダンジョンは、まず間違いなくバスガルのダンジョンだ。

 近郊に小規模ダンジョンの発見報告はない。もしかしたら、探せば近場に小規模ダンジョンができている可能性はあるが、ギルドが発見していないという事は、当然人間側から攻勢をかけてもいないという事になる。

 あと、小規模ダンジョンは保持しているであろうDPから考えて、そう簡単にダンジョンを横に伸ばそうとはしないだろう。

 つまり、敵は人間に発見されている、中規模ダンジョンという事になる。その条件に合致するダンジョンで、最も近いところにあるのがバスガルなのだ。次に近い、ゴルデスケィルの海中ダンジョンという中規模ダンジョンも候補の一つにはあるが、こちらの可能性はかなり低い。

 なにせ、アルタンの町からシタタンの反対側にあるウワタンの港町の近郊にあるダンジョンで、アルタンとの間にウワタンもあるような遠さだ。ダンジョンを掘削するのにも、そこをダンジョンとして取り込むのにも、相応のDPが必要になるのに、わざわざそこまで遠くにあるアルタンを狙ったりはしないだろう。

 勿論、だからといって完全に候補から外すという事はないが、ひとまず、敵はバスガルであると仮定していいだろう。


「えーっと……、バスガルバスガル……」


 バスガルに関する資料は多い。なにせ、ここから一番近い場所にあるダンジョンだ。集まっている情報は、それこそ山積している。


「なになに……」


 ダンジョンの主は、どうやら竜のような姿らしい。彼に挑んだ四級冒険者パーティの生存者が、その姿を語っている。上級冒険者からの情報があるという事は、一度ならず討伐計画が持ち上がり、失敗したという事なのだろう。

 バスガルのダンジョン。比較的スタンダードな構造のダンジョンで、洞窟タイプ。罠は単純かつ単調な代物ながら、モンスターの数と種類に気を取られると、命取りになる。

 モンスターは、爬虫類系のものが多く、最深部付近には竜系のものもいる……、これはギギさんの事かな。虫系はどうなんだろ?

 現在は、探索できる冒険者パーティを六級以上に限定し、着実にダンジョンの力を削いでおり、三級以上の冒険者パーティ、もしくは斥候に秀でた特級冒険者に、ダンジョンの主の様子を探るよう、依頼がされている……、と。

 もしかして、ダンジョンの主の弱り方次第で、近々ダンジョンの討伐を計画する予定だったのかな……? そして、なりふり構っていられないといった様子のバスガルのダンジョンコアの様子から、着実にその効果は発揮されていた。

 だとすれば、もう少し早く着手して欲しかったなぁ……。僕らと関係のない場所で、勝手に決戦してくれてれば、こんな面倒事に巻き込まれる事もなかっただろうに……。

 とはいえ、愚痴っていても仕方がない。いまは少しでも多くの情報をかき集め、相手ダンジョンの弱点を探ろう。


「といってもなぁ……」


 バスガルのダンジョンは、構造そのものは単純だ。罠もそれ程多くない。障害となるのは、モンスターの単純な物量と種類。いわば、スタンダードなダンジョンだ。

 ぶっちゃけ、こういうのが一番厄介なのだ。なにかしらのギミックで成り立っている防衛機構であれば、それを攻略してしまえばいい。以降も、特に脅威にはなり得ない。ウチのように……。

 だが、モンスターの大群という相手を無力化するには、単純に殲滅するしかない。面倒だし、僕らのダンジョンにその能力はほとんどない。

 ウチは、対人向けの罠しか用意しておらず、モンスターに対する有効性はあまり期待できない。対ダンジョンコア戦に使えるとも思えない。


「どうするかなぁ……」


 ここはやはり、こちらもモンスターを解禁するか? いや、それをやっちゃうと、今後町の冒険者を相手にするのがなぁ……。バスガルに勝っても、むしろ危険が増えるんだよなぁ。それでは、本末転倒だ……。

 だからといって、このままじゃ手詰まり感が強い。


 僕がうんうん唸っていたら、ギルドが騒がしくなっているのに気付いた。どうやら、下水道にできているバスガルの扉が発見されたようだ。

 さて、それじゃあ冒険者ギルドはどう動くのか、じっくり観察させてもらおうか……。



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