第48話 迎撃準備

「ダンジョンの二階層はどうしようか?」

「問題は、タワータイプのダンジョンにすると、落とし穴という罠に制限が生まれる点でしょうね。というか、現在ある元【一呑み書斎ワンイーター】の吊り橋はどうするんです? 下手をすると、単なるショートカットですよ?」

「む、それもあったね」


 というか、そろそろその吊り橋やミラーハウスにも、名前を付けないといけない。今後、吊り橋や鏡を使ったギミックを用いる際に、混同してしまう恐れがある。

 まぁ、それは後回しでいいだろう。いまは二階層の構想についてだ。


「どんなのがいいかな?」

「一階層のミラーハウスで、敵の多くを遅滞させられるとみて、分散した侵入者を着実に潰していく、というのはどうでしょう?」

「お、グラにはなにか名案が?」

「名案という程のものではありません。単に、迷路を作って道々に罠を張り巡らせ、着実に潰していくといった程度のものです」

「ふぅむ。たしかに、ここらで一旦、スタンダードな迷路に立ち返るのも悪くはない。ミラーハウスで上手く分散できるなら、迷路を人海戦術で攻略される心配も薄いだろう」

「ありきたりでつまらない意見です。ショーンの、この世界の知的生命らしからぬ、思考の飛躍を期待されても困ります」

「いや、僕別にそこまで特別なものは考えてないでしょ」


 書斎にしたって貯蔵庫にしたって、この世界にある【魔術】が元となった、いわばファンタジーならではの仕掛けだ。しかも、その使い方は捻りのない、どストレートな利用しかしていないと思う。


「そもそも、コミュニケーションを前提とした罠など、ダンジョンコアは考え付きもしませんよ」

「それは単に、君たちダンジョンコアが人嫌いってだけじゃないの?」

「そうとも言えます。ですが、この世界のダンジョンコアは、ダンジョン内にはモンスターを配するのが常識であり、それを完全に排したダンジョンというものは、常識の埒外なのですよ」

「それは単に、僕らの生まれた場所が悪かったってだけだよね」


 変に僕を持ち上げようとするグラに、ちょっと辟易としてしまう。なんというか「お使いできて偉いね」と、褒められているような気になってくるのだ。

 別に僕じゃなくたって、この状況でモンスターを生むのは危険だとわかるし、だったらモンスターのいないダンジョンを作るだろう。当然の論理ではないか。

 しかも、結論としては『ダンジョンはスタンダードが最適解』だからなぁ……。

 だが、僕のそんな思いを、グラは介してはくれなかった。


「いいえ。モンスターを配すのが危険だとわかっても、私ならモンスターを生み、受肉しそうなものを間引いていくという結論に至るでしょう。それが、我々ダンジョンコアにとっての先入観でした」

「あー、じゃぁまぁ、そういう事でいいよもう」


 居た堪れないんだか照れくさいんだかわからなくなって、僕は強引に話を切り上げた。


「じゃあ、二階層はグラの提案通り、スタンダードな迷路って事で。そうだなぁ、一回グラのお手並みを拝見したいな」

「私の手並み、ですか?」

「そうそう。ダンジョンコアとしてのグラが、理想とするダンジョンを見てみたい。もしかしたら、僕とはまったく違うコンセプトがそこにあるかも知れないし、面白そう」

「あのですねぇ……。いまは命のかかった状況だというのを、忘れているのではありませんか?」

「そんなの、生まれてこの方ずっとじゃないか。もう慣れちゃったよ」

「まぁ、言われてみればそうですね。では、ショーンの体を借りて、私がダンジョンを手がける、という事でよろしいでしょうか?」

「うんうん。僕も、中から見学させてもらうよ」


 といっても、まだまだ二階層部分は狭い。グラがダンジョンとして手を出せる領域は限られている。


「そうそう。例の吊り橋部分の落とし穴は、そのまま三階層にも通じる落とし穴にしたいから、そのつもりでいてくれると助かる」

「わかりました。さらに落差を作るのですか。ショーンはなかなか残酷ですね」


 まぁ、落下時間が長いって、落ちてる人間からすれば、悪夢以外のなにものでもないだろうけどね。とはいえ、別に侵入者を甚振る目的で、落とし穴を深くしたいわけではない。


「いや、ショートカット対策としてさ、【魔術】なんかで浮遊されるパターンを想定して、ちょっと大規模な罠、というかモンスターを配置したいんだよね。三階層に」

「モンスターですか。大丈夫でしょうか……?」


 まぁ、受肉したら大変だという意見もわかるし、ここがダンジョンだと露見するリスクを抱え込むというのもわかる。さらにいえば、外に放流したら、町中にモンスターが現れるという事であり、それはそれで面倒になるというのもわかる。

 それでもまぁ、まだ先の話だ。三階層の前に、まずは二階層に専心するべきだろう。


「しかし、最近はDPを消費する一方だな……」

「誰も入ってきませんし、誘い込むのも難しい状況ですからね」

「そのうえ、横にも縦にもダンジョンを延伸させようとしている。DP消費が激しいったらないね」


 DPの安定供給を目論んだ下水道の取り込みも、モンスターのDP吸収仮説が曖昧なままなので、手を拱いている状況だ。まったく、ままならない。


「そんなショーンに朗報がありますよ」

「朗報?」


 なんだろう? ここんとこ、敵の対処とお勉強に忙殺されていたのだが、それはグラも同じだったはず。なにかあったとすれば、外的要因ではないだろう。


「実は、ダンジョンツール(仮)の理論が、そろそろ完成します」


 マジで? はっや。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る