第43話 昇級
実験の結果が芳しくなかったので、下水道をダンジョンとして繋げる事は見送った。ただし、せっかく通風孔を繋いだのだから、情報収集はしておこう。
そんなわけで僕は、いつものダークブルーで統一された革鎧ではない、モッフォとかいう六級冒険者の姿を参考にした、普通の冒険者っぽい装備に着替え、さらにローブも羽織って通風孔を進む。
あ、さっきのネズミだ。プスっとな。ああっ、血がかかった!? こんな狭いところでやるんじゃなかった。っていうか、この血糊べったりの通路を進むの?
後先を考えないバカの尻拭いをグラにしてもらい、僕はようやく下水道に降り立った。
「まずは冒険者ギルドかな」
「それ以外に、情報源になり得る繋がりがありませんからね」
「そうだね。もう少し、多角的な情報源が欲しいけど、リスクも大きいからなぁ」
「そう、ですね……」
あまり人間と関係を持ちすぎると、僕らがダンジョンの主であるという事が露見するリスクが増しかねない。そうでなくても、関係を続けていくうちに、吐かなければならない嘘が増えていってしまい、そのうち整合性が取れなくなりそうなのだ。
人間と関わるときに、僕らはまず「人間だ」という嘘を吐かないといけないのだから。その嘘を取り繕う為に、さらに嘘を重ねる必要もでてくる。
幾人かの冒険者や浮浪者とすれ違いつつ、久々に太陽の光を拝んだ。
「太陽ですか。所詮はただの天体でしょうに、地上生命はなんだってあの恒星をありがたがるのでしょう」
「まぁ、ある意味命の育み手ではあるからねぇ。神様になるのも仕方ないよ。僕らだって、太陽で育った食物を食らった生き物を食らっていきてるんだから、やや間接的ではあるけど、太陽の恩恵を受けているといえるだろう? 地中生命的には、太陽は好きじゃない感じ?」
「星に好きも嫌いもありません。太陽は月と同じくらい好きですし、北極星と同じくらいに好きです。隕石と同じくらい嫌いですし、ブラックホールと同じくらいには嫌いです」
「いや、せめて隕石よりは好感度あげとこうよ。あれ、地中にも影響及ぼすでしょ?」
「む。それはたしかに。では、評価を改めておきましょう」
そんな与太話をしながら、気楽に町を歩く。アルタンの町は、一週間前と同じく姦しくも楽しそうな喧騒に包まれていた。とても、五〇人以上の人間が一夜で行方不明になって、一週間とは思えない姿だ。
やがて、もはや見慣れつつある冒険者ギルドのドアが視界に入ってきた。
「さてはて、情報は集まるのかね?」
「気を付けてください。もしかすれば、元凶がこのギルドとやらである可能性もあるのです」
「なるほど。僕らが繋がりを持っているのは、この組織くらい。だとすれば、無関係な組織が狙ってきたと考えるよりは、多少可能性は高い、のか?」
「わかりません。だからこそ、十二分に警戒を怠らぬように。少しでも違和感があれば、真っ先に逃走をしてください」
「うん、了解」
この体は、グラのものでもある。だったら、石橋を叩いて渡るくらいに慎重にこの身を守ろう。
「いらっしゃいませ。おや、ショーンさん」
「こんにちは、セイブンさん。魔石を納めに来ました」
いつもの柔和な笑みを湛えたセイブンさんに、僕は懐から取り出した袋に入った魔石を渡す。
「そうですか……。ふむ、これは……」
「三九個あります。間違いなく、この一週間、あの下水道で狩ったモンスターの魔石ですよ」
「ほぅ……。ですが、ショーンさんはそれなりに目立ちますが、下水道に通う冒険者の方からは、あまりお話を聞きませんでしたが……」
買ったものと思われているのか、少々探るような表情でセイブンさんが訊ねてくる。なのでここは、正直に答えておく。
「そう頻繁には通ってません。ですが、一度に大量に狩れる手段がありますので」
「なるほど」
チラリと、僕の耳にあるイヤリングを確認したセイブンさんが、軽く頷いて魔石を数えていく。前回していなかった装飾品を、意味もなくつけているとは思わないだろうし、マジックアイテムだとわかったのだろう。
こちらとしても、ある程度大きな役が手札にある事を向こうに伝える目的だったので、問題はない。小分けにして納入する予定だった魔石を、一度に全部放出したのもそういった理由からだ。
やがて魔石を数え終えたセイブンさんは、報酬を取りに一旦扉の奥へと戻っていったが、そう間をおかず皮袋を盆に乗せて戻ってきた。その報酬を、中身も確認せず懐に入れる。
「今回の依頼の達成をもちまして、ショーンさんの貢献度が一定以上と認められました。本日より、ショーンさんは九級冒険者として認められます。おめでとうございます」
「そうですか。ありがとうございます」
正直、十級と九級でなにが違うのかといわれても、よくわからない。精々、ペーペーは卒業という証明になるのかも知れないが、そういう意味では僕は、紛う事なきド素人なのだ。経験も技術もないので、分不相応といえる卒業証書かも知れない。
ただまぁ、もらえるというのなら、その資格はもらっておこう。目標である六級冒険者に向けて、着実な一歩を刻んだのだ。
「それで、ちょっとセイブンさんにお聞きしたい事があるのですが……」
お礼もそこそこに、僕はそう切り出した。さて、本題である。
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