第22話 ようやく本来の目的を達成!

 一通りの事を聞きおえ、いよいよダンジョンについての情報収集に移る。


「ダンジョンについてですか? ここアルタンの町から一番近い場所にあるのは、中規模ダンジョンの【バスガル】となりますね。ここからシタタン方面に、馬車で二日といった距離にあります。もし【バスガル】をメインに活動されるなら、シタタンの町を拠点にした方がよろしいかも知れませんよ? あそこからなら、徒歩半日程度で通えますから」

「いえ、ダンジョンには興味がありますが、攻略がしたいわけではありません。そうですね……、ダンジョンに関する資料とかって、冒険者ギルドで売っていたりしませんか?」

「資料ですか?」


 これまで柔和な笑顔を一切崩さなかったセイブンさんが、初めて表情を困惑に染めた。


「失礼ですが、ショーンさんはその資料をどうするおつもりで?」

「興味があるので調べたいだけです。そうだ! ダンジョンを探す方法とかって、ありませんかね? こういう、マジックアイテムみたいな?」


 そう言って、提灯鮟鱇を見せる。その姿を見て、ただの興味本位と判断してくれたのか、セイブンさんは困ったように苦笑する。


「ダンジョンを探知するマジックアイテムは、ない事もありません。ただ、非常に高価なものですし、この町全域くらいの広さを調べるのにも、かなりの費用が必要になります。個人での使用は、おすすめできませんね」

「なるほど……」


 やっぱり、ダンジョンを発見する方法はあったのか。しかも、それなりに費用がかかるとはいえ、町全域を調べられるような手段らしい。


「それでも、結構探知できる範囲が広いんですね?」

「町に住む我々からすれば、広く思えるでしょう。ただ、使うのは大抵町の外ですからね。広い世界から見れば、針の穴より狭い範囲でしょう」

「ほ、ほぉ。大抵は町の外で使うんですか。ダンジョンが見つかる事は、多いんですか?」

「とても浅いものであれば、それなりに見つかります。ただ、先程も申したように、費用がかかりますからね。それ程頻繁にはできません。普段目にしないモンスターなどが発見された場合、ダンジョンの誕生や、最悪氾濫スタンピードの可能性も考慮して使用される事もあります」

「次はいつくらいになりそうですか?」

「おや、どうしてそのような事を?」

「ぜ、是非見学をさせていただけないかと!」


 やべ。ちょっと食い付きすぎて、不自然だったかも。もし本当に使用するタイミングがわかっても、ダンジョンコアのまま見学なんてしたら、身バレする危険もある。焦って余計な事を言ってしまった。


「そうですね……。前の観測からそれなりに時間も経っておりますし、近々行われるかも知れません。ただ、こればかりは領主様の懐事情次第という面もありますし、十級冒険者では警護の依頼は受けられないでしょう。せめて六級くらいにまで昇級していたら、こちらからお声がけしますよ」

「ハハ、お願いします……」


 ギルドから信用を得て、より深く情報を探りたいとは思っているので、階級は上げたい。ただ、六級など先の先だろう。できれば、次にそのマジックアイテムが使用されるタイミングと、場所を知れるくらいの信用は得たい。


「ショーンさんはそれ程ダンジョンにご興味が?」

「はい。できれば、ダンジョンを専門に調べてみたいと思っています。まぁ、どこまで理解できるかはわかりませんし、挫折して普通の冒険者になるかもですけど」

「なるほど。ダンジョンの攻略を求められる中級冒険者であれば、ダンジョンの情報に精通する事は必ず役に立つでしょう。もし志半ばで諦めようと、知識はあなたを裏切りません」

「そうですよね。じゃあ、ちょっとダンジョンを詳しく勉強してみたいと思います」

「はい。頑張ってください。それと資料ですが、冒険者ギルドが集めた情報を、閲覧する事はできますよ」

「本当ですか!」

「ええ。ただ、閲覧を許可されるのは、中級冒険者からになります。それも、七級では少々難しいでしょうね。ですが、ショーンさんであれば、許可がおりるかも知れませんね」


 なるほど。ダンジョン探索で戦力になるとみられているのが、中級からだからな。下級や、とりあえず下級から抜け出しただけの七級じゃ、資料を見る事すら許されないのか。妥当ではある。

 ただ、僕には許可がおりるかもしれない、という言葉の真意は不明だ。まぁ、ただのリップサービスかも知れない。


「より詳しい資料を閲覧するには、さらに上の階級が必要になります。ただ、ダンジョン探索の諸注意を記した冊子でもよければ、本日差し上げる事もできますよ?」

「え? 本当ですか!?」

「ええ。中級に昇級した冒険者に対して、ギルド職員が口頭で注意を促す為の資料ですが、それでよろしければ」

「お願いします!」


 それは、僕らにとっては、値千金のお宝に等しい。なにせ、侵入者がなにを気にするのか、どこに着目するのかが書かれているという事なのだから。


「わかりました。では、少々お待ちください」


 そう言って席を離れるセイブンさん。僕は彼を、上機嫌で見送ったのち、心中でグラに話しかける。


「上々だったね」

「ええ。随分と、得難い情報を得られました。特に、すぐにダンジョンを探知するマジックアイテムとやらが使われる心配はない、というのは重要な情報です」

「それを使う為に、かなりの費用が必要だってのもいい情報だね。上手く誘導できれば、町から離れた場所で使わせられる」

「なるほど。それは思い付きませんでした。もしそちらで使わせられれば、再びこの町の付近で使われるまでには、さらに時間がかかるという目論見ですね」

「ああ。まぁでも、十級のままじゃ、そんな情報操作は無理だ。そのアイテムが使われるまでに、階級を上げないとダメだね」

「あとは資料とやらに、なにが書かれているか、ですか」

「まぁ、そこで情報を得ても、僕らのダンジョンにはしばらく、冒険者は来ないだろうけどね……」


 声に出さず、そう気楽に述べた僕は、まさかその日のうちに、冒険者が侵入してくるとは知るよしもなかった。



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