第21話 新米冒険者のお仕事

「冒険者の階級について、説明をいたしましょうか?」

「それは以前きた際に聞きました。下級、中級、上級、一級ですよね?」

「一応、枠外の階級として、特級冒険者という資格もあります」

「え? じゃ、じゃあ、その特級についてお願いします。あ、なら上級冒険者についても、改めて説明していただきたいです。以前は、その説明を受けている最中に邪魔が入ったので」

「なるほど。わかりました」


 セイブンさんの話を要約すると、上級冒険者が期待されているのは、ダンジョンを討伐する実力だそうだ。

 一応は戦闘のプロフェッショナルである冒険者ではあるが、中級冒険者では、ダンジョンの最奥に潜むダンジョンの主を討伐する事は、難しいと考えられている。それが可能だと思われる人材を、上級冒険者として手厚く遇しているそうだ。

 四級で、浅いダンジョンの主の討伐が可能。三級で、中規模ダンジョンの主が討伐可能。二級で、ある程度大規模なダンジョンの主の討伐が可能だと見られている。

 そして一級冒険者は、実際にその偉業を成した英雄がそう呼ばれる。


 ダンジョンの主ってのは、たぶんダンジョンコアの事だろう。なるほど、グラが忌々しいと言っていたのがわかる。僕としても、自分を殺しにくるとわかっている存在を、英雄やそれに準ずる者として語られるのは、ちょっと嫌な気分になった。

 ただ、特級冒険者はそういった戦闘のプロフェッショナルたちとは、毛色の違う人材らしい。一見すると、特級は一級の上かと誤解してしまいがちだが、そうではない。

 前述の通り冒険者の評価基準は、戦闘能力である。しかし、冒険者のなかには戦闘能力は然程高くないものの、ギルドにとって有益な技能を有する人材もいる。そういう才を、戦闘で磨り潰すなど愚の骨頂だ。特級の資格を与えて、上級冒険者待遇で囲っているらしい。


「勿論、戦闘能力に優れた者が、特級に選ばれる場合もあります。例えば、指揮能力に優れたパーティリーダーなんかですね。他にも、飛び抜けて斥候能力に優れた者、情報収集に長けた者、教導能力に長けた者です。こういった人材は、冒険者としても大成する事が多いので、特級資格を与える意味はそこまでありません」

「だったらなんで特級にするんです?」

「人材管理の面で便利なのですよ。誰がなにを得意としているかという情報を、ギルドで共有し、緊急事態に際し、迅速に人員を配置できます。情報収集、斥候に関しては、申し上げるまでもないでしょう?」

「まぁ、わからなくもありません」


 ぶっちゃけ、その二つの違いがわからないという意味では、説明をして欲しくもあった。ただ、話の腰を折るつもりはない。緊急時の情報収集が大事だというのは自明だし、ニュアンス的には言葉通りわからなくもない。


「冒険者というのは、本来個人主義的で、最大限でもパーティ単位でしかまとまれません。しかし、緊急事態に際し、現場で指揮がとれる人材がいると、とても助かるのです。いない場合など、冒険者の損耗が激しくなりますから」


 淡々というセイブンさんに、ちょっとひく。やっぱり、冒険者ギルドにとって、冒険者なんてものは消耗品扱いなんだろうか。

 この人に指揮させればいいんじゃない?


「その他の特級となりますと、類稀なる運搬能力を持ったポーター、モンスターの巣から卵を盗ってくる能力に長けた斥候、生命力の理である【回復術】を修めた、あるいは魔力の理である【神聖術】を修めた回復術師、特別な知識を有する研究者、誰もが魅了される歌声の吟遊詩人、同じような理由で踊り子等ですかね。例をあげ始めたら、キリがありません」


 っておい。後半のやつは、冒険者なんてやめて本職になれよ。どうやら、冒険者のイメージをよくするのに、吟遊詩人や踊り子は重宝するらしい。いや、だから、本職に任せようよ……。

 特に、回復術師は緊急時に召集される事が多く、下級や中級冒険者と一緒に戦闘に参加して、命を落とされたくないそうだ。

 それでも、現場の冒険者たちから反発が強く、中級、もしくは下級冒険者とともに行動している回復術師も多いらしい。

 まぁ、どっちの言い分もわかる。現場は死にたくないだろうし、ギルドとしては貴重な人材を、むざむざ危険に晒したくはないだろう。


「なんだか、斥候が多く特級に認定されている印象を受けましたね」

「それは仕方がないでしょう。冒険者は、鬱蒼とした森林や、罠の張り巡らされたダンジョンを探索する仕事だというのに、その評価基準が戦闘一辺倒になりがちです。そうなると、斥候が不遇な扱いを受ける場合が、それなりにあるのですよ」

「なるほど」


 たしかに、戦闘を専門にする職と、斥候は評価の基準が噛み合いにくそうだ。


「まぁでも、まともな冒険者なら斥候の重要さは理解していますよ。腕のいい斥候がいないパーティは、寿命が短いですから」


 あー……。なんでにこやかに言いますかね、そういう事。この人、ホント怖い。

 話題を変えたかったので、セイブンさんに十級冒険者の主な依頼について聞いた。

 十級冒険者の仕事は、繁殖力の強いモンスターの駆除であり、魔石の供給だ。といっても、所詮は駆け出しか胡乱な連中。モンスターの根絶まで期待されているわけではない。精々が、ある程度間引ければ、捨て扶持を与えてやる意味もあるか、程度の期待だ。


「繁殖力の強いモンスターには、いくつかの種類があります。この辺りでは、ウサギ系、ネズミ系、昆虫系、粘体系、鬼系のモンスターですね」


 資料も見ずに、テキパキと説明するセイブンさん。なんというか、デキるビジネスマンといった雰囲気だ。

 外見は普通のおじさんなのに、実に強キャラ感がある。いやむしろ、外見が普通だからこそ、凄みがあるように思えるのだろうか。


「十級冒険者に依頼されるのは、基本的には角ウサギ、牙ウサギ、剛毛ウサギ、脚長ウサギ、大ネズミ、赤ネズミ、長毛ネズミ、舌ネズミ、脚長ネズミ、毒ネズミ、■■ネズミの駆除となります」


 お、おおぅ、齧歯類スローター……。そしてなんという安直ネーミング。

 最後の聞き取れなかった部分は、グラに訊ねたところ、どうやら『擬態』らしい。周囲の色に同化するタイプの体毛を持つネズミなんだとか。カメレオンネズミ? ちょっと見てみたい。

 先程と同じく、資料も見ずにそらんじたセイブンさんは、表情を変えず説明を続ける。


「依頼の最中に、他のモンスターに遭遇するという状況も多々あります。そうなると、戦闘を避けられない事もあるでしょう。ギルドとしては、下級冒険者が身の丈以上のモンスターと戦う事は推奨できません。ですが、現場には現場の判断もあります。戦う事そのものは、禁止していません」

「まぁ、そうですよね」


 下手に厳命すれば、逃げに徹するあまり、背中に食い付かれかねない。倒しても評価されないとなれば、骨折り損だ。怪我人や死者がでていた場合、ギルドに対する不満も高まるだろう。

 そもそも、ギルドが下級の冒険者の保護を、そこまで熱心に考えているとも、僕は思っていない。


「駆け出しの方の場合、遭遇した相手が、単独の昆虫モンスターや小鬼であれば、討伐してもいいでしょう。昆虫系は種類にもよりますが、小型のものであればそれ程苦もなく倒せるでしょう。問題は、群れていた場合です。極力戦闘は控え、逃げられるなら絶対に逃げていただき、ギルドに情報を持ち帰っていただきたいのです」

「群れた昆虫系モンスターや、小鬼は厄介なんですか?」

「はい。そういったモンスターの対処は、パーティを組んだ中級冒険者向けの依頼となります。複数人で役割分担をし、複数の敵に対処する技量と経験が必要となります。下級冒険者は単独ソロの方も多く、また技量、経験ともに不足している為、生還はほぼ絶望的と思われます」


 な、なるほど。うん、怖いから僕も、昆虫や小鬼にはノータッチでいこう。相手が単独であっても、近くに群れがいる可能性が〇というわけではないだろうし。


「ただ、そういった不意遭遇の戦闘でモンスターを倒した際にも、ギルドはその実績を評価します。きちんと討伐証明を提示していただければ、実績として記録いたします」

「実績があると、昇級しやすいんですか?」

「はい。ノルマ以上の魔石の納入、戦闘能力の証明、ギルドに対する貢献などが実績として評価されます」

「それって、大量に魔石を購入してギルドに納入すれば、すぐに中級になれるんじゃないですか?」

「可能です。ただし、こちらとしても、そういう方法で昇級した人材として見ます。また、魔石の小売価格から考えて、わざわざ七級冒険者の資格を得る為にそこまでの費用をかけるくらいなら、その資金を元手に商売でも始めた方がいいでしょう」

「なるほど」


 でも、僕の場合、魔石は自由に作れる。費用の面から考えれば、そこまで負担じゃない。情報収集の為に、ある程度階級を高めておくという観点からなら、その方法もありだな。

 なにより、一週間で最低四体、昇級も考えるならそれ以上の魔物を討伐しなければならないのはキツい。勉強もしたいし、幻術の練習もしたい。ダンジョンについての調べ物もある。

 うん、やっぱり冒険者は腰掛けだな。さっさと魔石を納入して、昇級しとこう。


 いやまぁ、それでもやっぱり、一度はきちんと戦闘を経験しておくべきだとは思うけどね。



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