風の王子様と私
雨世界
1 こんにちは。なにしてるの?
風の王子様と私
プロローグ
君は、いつも風の中で笑っていたね。
本編
こんにちは。なにしてるの?
大切なものをなくしてしまったの? なら、僕と同じだね。(泣いている私に、風の王子様はにっこりと笑ってそういった)
私が風の王子様と出会ったのは、私が小学校四年生のころだった。
風の王子様は、いつも高いところにいた。
風の王子様は、(その名前の通りに)いつも透明な風の中にいた。
その風の中で、首元で締めて、背中に羽織ったマントを使って(子供用の青色の毛布ともいう)いつも、空を飛ぼうと一生懸命、頑張っていた。
ある日、とても強い風が私たちの暮らしている小さな田舎町の上に吹いた。それは、本当にとても強い風だった。
みんなはその強い風に迷惑をしていたのだけど、風の王子様だけは違った。
王子様はその強い風の中で、今度こそ、本当に空を飛ぼうと一人でこっそりと作戦を考えていたのだった。
その作戦は、残念ながら失敗した。
でも私は、風の王子様がそのままどこかとても遠い場所に(きっと、風の王国とかに)行ってしまうのではないかと、心配していたので、風の王子様の作戦が失敗してすごく嬉しかった。
でも、私と風の王子様はやっぱりそれからすぐにお別れをすることになってしまった。
風の王子様が引越しをする日、私は王子様に会うために街の中を一生懸命になって走った。
私は、走った。
息がきれるくらい。
心臓が痛くなるくらいに、頑張って、全力で走った。
風の中を。
大地の上を。
王子様と一緒に遊んだ、駆け抜けた、あの清らかな風の中を、汗をかきながら、一生懸命、全力で走った。
「風くん!!」と私はいった。
その声を聞いて、車に乗っていた風の王子様は、お母さんに守られながら、車の窓から顔を出して、ゆっくりと私のほうに振り向いてくれた。
「ばいばい!! 桜花ちゃん!」と風の王子様は笑顔で私に言った。
「うん! ばいばい!! 風くん!!」と泣きながら、風の中で私は言った。
そうして、風の王子様は私の前からいなくなった。
風の王子様がいなくなって、私はその日、一晩中、泣いていた。
その次の日から私は、風の王子様の愛した町の風景をよく観察した。
風の王子様が愛した風景を、自分の中にずっと止めておこうと思った。
でも、私が成長するにつれて、その大切な思い出は、風景は、どんどんと私の中から消えていってしまった。(きっと、風の中に飛んでいってしまったのだと思う)
私は、今もときどき、いなくなってしまった風の王子様のことを思い出す。
いなくなってしまった風の王子様と、それから、きっと風の王子様と一緒にいなくなってしまった、小さな私のことを、……思う。
(そしてときどき、一人ぼっちの夜に、泣いたりするのだ)
風の王子様が今、どこでなにをしているのか。
私はなにも知らない。
知りたいとも、あまり思わなかった。
だって、風の王子様は、きっともう、あの人の中には、いないのだと、……そう思ったから。
あの子たちは、今も、幸せそうに笑って、風の中を全力で、遊んでいるのだと、そう思ったから。
風の中を走る。あなたと一緒に、……どこまでも。(……きっと、いつまでも)
風の王子様と私 終わり
風の王子様と私 雨世界 @amesekai
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