ウワサの魔法使い・シャイニング!

鳳亭風流

第1話 ウワサの魔法使い

番宣:


娘N アナタは自分の住む町にある不思議な噂話、いくつ知ってる?

   私の町にはこんなウワサがあるの。

それは『この町には正義の魔法使いがいる』

婆マ 平和なボクたちの町に突如現れたナゾの軍団『ダークマター』

爺マ 『ダークマター』は、彼らのエネルギーとなる絶望を集めるために大暴れ!

婆マ そんな時、町を守る正義の使者が現れた!

    ボク、バーニング・サンと

爺マ 私、シャイニング・ソル!

婆爺 新番組『ウワサの魔法使い・シャイニング』

    希望の光は、ココに在る!



OP:


娘N アナタは自分の住む町にある不思議な噂話、いくつ知ってる?

    二つ?三つ?…七つ知っている人も居るのね。

    どこの町にも『七不思議』って言うのがあるけど、それを全部知ってしまった人は呪われる、って話もあるんだけど、それも知っているのかしら?

    私の住む町の噂話は、七つよりもたくさんあるの。

    その中でもとびっきりの話、教えてあげる。

    『この町は、魔法使いがいてみんなを守ってくれている』

    あ、申し遅れました。

    私は光ヶ丘中学二年生で、新聞部の日向アカリ。

    新聞部として町のウワサを調べ始めたんだけど、これがもー大変!

    先輩たちのからもらった情報を調べていくと、カッパの住む沼や、夜中になると数が十三体になる首なし地蔵、町はずれにある怪しい洋館…。

    七つどころか、両手両足でもまだ足りないくらい不思議なウワサがあるの!

    その中で、私が注目しているのは、さっきの魔法使いのウワサ。

    オバケや妖怪が居るなら、宇宙人や魔法使いが居ても良いのかも。

婆  アカリさーん、お洗濯物干すの、手伝ってくれないかしら?

娘  はーい、アサヒさーん、今行くー。

婆  今日はいいお天気だからお洗濯、うんと頑張ったのよ♪

娘  うゎぁ、こんなにたくさん…。

爺  おーいアサヒ、行くぞー。

婆  はーい、ミツテルさん。

   …さて、アタシたちはお散歩に出かけて来るわね。

娘  うん、行ってらっしゃい。

娘N アサヒさんとミツテルさんは、私のお婆ちゃんとお爺ちゃん。

   幼馴染みどうしで結婚したから、今でも名前で呼びあってるんだって。

   二人は決まって毎週日曜日の朝、お気に入りの杖を持ってお散歩に出掛けるの。

   アサヒさんは、がっしりとしたかしの木の杖。

   ミツテルさんは、細身のカーボン製の杖。

   すっごく使い込まれていて真っ黒なんだけど、買い替えたりするつもりは無いみたい。

   『だって、長年連れ添った相棒ですもの。木の杖だけに』

   なーんて冗談も言ってたっけ。

娘  気をつけてね。

婆  ミツテルさんも一緒だから大丈夫よ。それに…。

娘  『もしもの時は正義の魔法使いが助けてくれる』?

婆  そう♪

娘N 正義の魔法使いって、日曜日の朝とかにやってるアニメじゃあるまいし…。

   そう思ってはいたけど、調べてみると魔法使いのウワサは本当にあったのだ。

   しかも、まったく同じ魔法使いと思われる人のウワサは、かなり前からあるみたい。

烏  『カー!カー!』(SE:威嚇する羽音)

娘  あー、はいはい。キンさんもお出かけしたいのね。

烏  『カー♪カー♪カー♪』(SE:飛び去る羽音)

娘N あ、キンさんと言うのは、ウチのペットで、聞いての通りカラスなんだけど、全身真っ白、光の当たり方によっては金色にも見えるカラスなの。

   アサヒさんもミツテルさんも『キンウ』って呼んでるけど、私は小さい頃から『キンさん』て呼んでいる。

   カラスって凄く頭の良い生き物って言われるけど、ウチのキンさんは規格外かも。

   本当は、自分で鳥かごを開けられるんだけど、私がそばに居ることが分かっていると、必ず私に開けさせるの。

   それってつまり、私の事を下に見てるって事なのかも…。

娘  さて、洗濯物干して、私も取材に出掛けよっと。

娘N 出掛けて行く祖父母に向かって手を振ると、洗濯物の山に私は挑んだ。



(主題歌)



Aパート:


(SE:学校のチャイム)

(SE:引き戸を開け閉め)

娘  こんにちはー。あ、部長。ちょうど良いところに。

部長 こんにちは、アカリさん。

   お願いしていた物かしら?

娘  そうです。

   河童の出る沼のウワサ、突き止めましたよ。

部長 あら、凄いわ。

娘N この人は、新聞部の部長、月城シズカ先輩。

   おっとりした雰囲気の美人で、学校内にファンクラブがある、なんてウワサもあるの。

娘  詳しくはレポートにまとめてありますけど、かなり昔に、あの沼で水浴びをしていた人が居たんです。

   それを近所の人が見て『河童が出た』ってウワサになったみたいですよ。

部長 沼で水浴び…。よほど暑かったんでしょうか?

   ありがとう、お疲れ様でした。引き続き、他のウワサもお願いね。

娘  はい!

   それにしても、この町って変なウワサ、多いですよね。

部長 変、かどうかは分からないけど、色んな人が居るのね。

娘  そうですね。

   じゃ、私はこれで。

部長 あ、アカリさん、この後何か予定は?

娘  これと言って…。商店街の本屋に寄って行こうかなー、くらいですが。

部長 なら、ご一緒しても?

娘  でも、他の部員が…。

部長 大丈夫よ、きっと。

   それより、レポートをちゃんと提出してくれた後輩をねぎらってあげなきゃ。

   ね?(SE:キラキラ)

娘  うゎ、部長の『ね?』は、相変わらず凄い威力ですね…。

部長 じゃぁ…♪

娘  …ありがたく、頂戴いたします。

部長 よろしい♪

   アカリさんは甘いものはお好き?

娘  え、まぁ、人並みには。

   ただ、ウチ、祖父母と同居なんで、クリームとかの、いわゆる『スイーツ』が出て来る事が少なくて…。

部長 分かったわ。

   商店街ならクレープの移動販売店があったわよね。

   それでも良いかしら?

娘  むしろ、願ったり叶ったり、ですよ♪

部長 じゃ、行きましょ♪

(SE:場転)

部長 あー、良い買い物ができたわ♪

娘  それ、見た事無い雑誌なんですけど、何の本なんですか?

部長 知る人ぞ知る、超常現象や都市伝説を特集している雑誌『ラヴクラフト』よ♪

娘  部長のそんな笑顔、初めて見ましたよ…。

部長 なぁに?『名状しがたき』笑顔?

娘  いや、ファンクラブがある、なんてウワサだと思っていましたけど…。

   居るんですね。テレビに出てないけどめちゃくちゃ奇麗な人。

部長 そう?

   あ、そこのクレープ屋さんで良い?

娘  ゴチになります。

部長 …あら?お店、変わってるみたい。

娘  や、違うみたいです。

   隣にタピオカの車が居るから埋もれちゃってるみたいですね。

部長 良かったわ。

   すみません、ストロベリーと…。

娘  チョコレートで。

部長 お願いします。

店員 はい、ありがとうございます。

   いやー、良かったよ。最後にお客さん来てくれて。

娘  最後?

店員 あぁ、隣があの行列だからね。

   来週から別の町へ行くことにするよ。

部長 大変なのですね…。

娘  あのッ!

店員 ん?

娘  希望は捨てないでください!

店員 …ハハハハハ、ありがとう。

   その一言で希望が持てたよ。

部長 アカリさん、凄いんですね。

娘  (食べながら)ん?何がですか?

部長 『希望は捨てないで』って。

    なかなか言える言葉じゃないです。

娘  そうですか?

   『希望を捨てなければ、必ず道は開かれる』ってウチでは言われてるから。

部長 …なんだかカッコいいですね。

娘  え、部長にそんなこと言われると、ちょっと照れます。

部長 うん。アカリさんはカッコいいわ。

二人 (笑いあう)

部長 今日は楽しかったわ。

   また、こんな風にお誘いしても良いかしら?

娘  こちらこそ、久し振りのクレープ、美味しかったです。

   私で良かったら、いつでも誘ってください。

部長 うれしいわ。

   じゃぁ、さっそく今度の日曜日に。

   またクレープ食べましょ。

娘  はい。



(CM入り)

婆爺 『ウワサの魔法使い・シャイニング!』



Bパート:


娘  おはようございます、部長。

部長 おはようございます。時間ぴったりですね。

娘  すいません。お待たせしてしまって。

部長 だから、時間ぴったりに来てるのだから、謝らないの。

娘  でも…。

部長 (溜め息)分かったわ。言い訳を聞いてあげる。

娘  はい。

   今朝、あまりにもいいお天気だからって、祖母がお洗濯張り切っちゃって、それを手伝っていたらこんな時間に…。

部長 偉いじゃない、おうちのお手伝い。

   そんな偉い後輩には、またクレープおごってあげなきゃね。

娘  いえ、今日は…。

モブ (女性の悲鳴)

部長 何かしら?悲鳴?

娘  事件かも知れません。行ってみましょう!(SE:駆け足)

店員 うぉぉぉッ!

   なーにーがタピオカじゃー!

   イモのデンプンがなんぼのもんじゃー!

   くらえ、グルテン・ネット!(SE:網を投げる)

モブ (逃げ惑う群衆の悲鳴)

部長 なに、あれ?!

娘  蜘蛛?の怪人?!

黒  いーぞ、いーぞ!もっとやれ、ダレニェ・シュクレ!

   オマエの絶望を、みんなに味合わせてやれ!

店員 はい!ブラックシャドウ様!

娘  あの蜘蛛怪人、…もしかして、クレープ屋さん?

部長 …そうみたい。同じエプロンしているもの。

娘  どうしよう…。

部長 どうしよう、って、何するつもり?

   まずは逃げなきゃ!

娘  でも、クレープ屋さん、きっと苦しんでると思う。

部長 きっとそうね。

   でも、お客さんとして来た事のあるアナタを傷つけてしまったら、もっと苦しむと思うの。

   ね?

娘N そう言われて心がぐらついた私を、部長は強引に手を引いて歩かせた。

   その時、何かが飛んできて、商店街の真ん中に、太陽が生まれた。

(SE:スポットライト)

婆マ 『人の悲しむその姿!』

爺マ 『黙って見てはいられない!』

婆マ 『人の笑顔を取り戻す!』

爺マ 『ふたつの太陽、現れる!』

婆マ 『バーニング・サン!』

爺マ 『シャイニング・ソル!』

婆爺 『希望の光は、ここに在る!』

(SE:見得を切る)

娘N それは、まさしく『魔法使い』だった。

   くすんだ赤いローブに半ズボン、かしの木の杖をたずさえた少年と、

   緋色の袴に大きなリボン結びの羽衣、五幣の付いたステッキを持った少女だ。

黒  ぐぬぬ…、またしても現れたな、バーニング・サン、シャイニング・ソル。

婆マ ダークマターの幹部、ブラックシャドウ!その人を開放するんだ!

黒  誰がオマエの言う事なんか聞くもんか!

   それにオレ様は、コイツの願望を大きくしてやっただけだぞ!

爺マ アナタのしたことは、それだけじゃないでしょ!

   心の闇に付け込んで、それも一緒に大きくしたんでしょ!

黒  分かってるじゃないか。

   心の闇を大きくして、正しい心をねじ伏せる。

   そのねじ伏せられた正しい心から滲み出す絶望こそが、オレ様たちダークマターのエネルギーとなるのだ!

   ダレニェ・シュクレ、アイツらもまとめてやってしまえ!

店員 うぉぉぉぉッ、グルテン・ネット!

婆マ そんな攻撃、当たらないぞ!

爺マ よく見て、バーニング・サン!

   アイツの狙いは、私たちじゃないわ!

婆マ なに?!

黒  良く気付いたな、シャイニング・ソル!

   シュクレのグルテン・ネットで捕まえた人間どもから、更に絶望を搾り取るために、こうやって…。

店員 フンッ!

モブ (群衆、ネットに捕まり悲鳴)

黒  ひとまとめにして、更に恐怖を味合わせてやるのだ!

婆マ なんてことを!これじゃぁ攻撃ができない!

爺マ ブラックシャドウがそばに居る限り、心の闇に沈んでしまったクレープ屋さんは元には戻らないし…。

娘  クレープ屋さん、希望を捨てないで!

婆マ あ、キミはッ?!

娘N 八百屋さんの陰に隠れていた私は、思わず手が触れていた物、ジャガイモを投げつけていた。

(SE:ジャガイモが当たる)

店員 あた!…きぼう、キボウ、希望…。

黒  なん、だと?!ダレニェ・シュクレからダークエナジーが漏れ出している?!

爺マ お嬢ちゃん、それをコッチに投げて!

娘マ は、はい!

娘N 言われるまま私は、その人に向かってジャガイモを投げた。

爺マ 良いコース!

   ちょっと痛いけど我慢してね!

   『マジカル・ホームラン!』(SE:ホームラン)

店員 ぶぇぇぇぇ…。(SE:しぼむ)

黒  ま、まさか、オレ様の完璧な作戦がッ!

爺マ 今よ!

婆マ うん!

婆爺 『アポロン・フレアー!』(SE:燃え盛る炎)

黒  おぼえてろー!(SE:吹き飛ばされ星になる)

店員 わ、私はいったい…。

婆マ アナタは悪い夢を見ていたんだ。

店員 そうか…。とても悪い夢だ…。

爺マ それを醒ましてくれたのは、あの子。

店員 あの子…。あ、この前クレープを食べに来てくれた…。

娘  いいえ、私は何もしてない。クレープ屋さんの心に、希望が残っていたから目が覚めたのよ。

   そうだ、あなた達、いったい何者…。あれ?

部長 あー、居た居た!

   アカリさん、いきなり消えるからどこへ行ったのか心配したのよ!

娘  部長!今ここに二人組の魔法使い居ませんでしたか?!

部長 魔法使い?

   見てないけど。

娘  あーもー、スマホのカメラでも撮っておけばよかった!

   出たんですよ!ウワサの魔法使い!

   ピカッて光っていきなり現れて、怪人をやっつけて…。

部長 はいはい。分かったから、そこのお店でお茶にしましょ。


婆  ふぅ、危なかったわね。

爺  まさかアカリがすぐ側にいたなんてな。

婆  そうね。ダークマターたちのダークプリズンの中に入って来られるなんて…。

烏  でも、あの子の機転でうまく切り抜けられたんだぜ。

婆  それもそうね。

爺  ふむ。何かお土産でも買って行ってやるとするか。

烏  カー、それならこ洒落た洋菓子なんかが良いだろうな。

爺  洋菓子…。カステラとかか?

烏  アホー!そんなセンスじゃ孫の心は掴めないぜ!

婆  確かに。私たちの味覚だと、すぐにお団子とかお煎餅になっちゃうものね。

爺  そう言えば、ウチでケーキってほとんど出ないな。

烏  カッカッカー、折衷案で良いモノがあるぜ!


娘  ただいまー。あー疲れた。

婆  お帰りなさい。

   今日はお友達と出かけて遅くなるんじゃなかったの?

娘  んー、その予定だったんだけどね…。

   二人ともやけに疲れちゃって、早めに解散したの。

爺  ふむ、それは残念だ。

娘  どーゆーこと?

婆  ミツテルさんが、珍しく甘いものが食べたい、なんて言うものだから。

爺  お前が帰って来る前に二人で食べてしまおうと思っていたのさ。

娘  えー、ずるーい。

婆  でも、せっかく早く帰って来たんだから、一緒に食べましょ。

娘  やったー♪

   …え、このお菓子、なに?クレープ?

婆  ガレット、って言うのよ。

爺  クレープのモトになった食べ物らしい。

   生地は小麦粉でなくて、そば粉を使っているんだと。

娘  そば粉?そば粉って、ズルズルー、ってお蕎麦のそば粉?

婆  そうよ。ズルズルーってお蕎麦の、そば粉。

娘  そばなのに、星型してて、名前もカタカナで、カッコイイじゃん。ガレット。

婆爺 (笑う)

烏  カーカーカー♪

(ED)


次回予告:


娘  闇夜に立たずむ首なし地蔵。

   その数が、ある日だけ増えると言うウワサ。

   そこには、人知れない思いがあった。

婆マ 次回『ウワサの魔法使い・シャイニング』

爺マ 敵?味方?新たな魔法使い、サイレス・セレナ登場!

婆爺 お楽しみに!

部長 『闇の中にも、希望はあるッ!』

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