第6話 異世界を裸で旅するのはキモチガイイ‼

1、


 ダンジョン発見のニュースはたちまちグリーンの街を駆け巡った。

 それは同時にグリーンの街が危険地帯と認識されることになった。

「なあ、アレがほんとに「正真正銘のダンジョン」だって保証はどこにある。」

 マッスルの疑問には元ギルド職員であったミャンマーが答えた。

「瘴気だまりのあるなんちゃってダンジョンの様な洞窟とか遺跡とは根本的に違うんですよ。ダンジョンって言うのは。」

 真面目な話なのか何時もの気の抜けた「にゃ~」という語尾がない。どっちが素なのだろうか。

「マッスル、本物のダンジョンは世界創成に関わってない神の力のよって創られたもの。その中はこの世界とは別世界なんだよ。」

 エルザの説明でスケールの違いをマッスルは実感した。

「で、ダンジョンが発見された場合はどうするんだ。」

「もちろんダンジョンの攻略です。。」

「ふーーーーーー、こうにゃってはブルーザー街道に回していた冒険者も呼び戻しての総力戦になるにゃ。」

「ブルーザー街道ってのは?」

「このグリーンの街と隣国のクリスタル王国をつなぐ街道にゃ。ここに魔物が増えたら交易に支障が出ると領主様からの依頼が出ていたにゃ。」

「あぁ、それでギルドが人手不足だったんだ。」

「いくら業突く張りの領主様でもおひざ元の街の傍にダンジョンが出来たら黙ってないにゃ。」

「それ、逃げ出すんじゃないのか。」

「可能性は無きにしも非ずにゃ。でも、この話は王都にも行っているはずだから騎士団や大手冒険者も派遣されてくるでしょう。」

「ちなみにダンジョンの攻略を成功させたらなんか報酬はあるのか。」

「そりゃぁもちろん。場合によっては領地だってもらえるかもしれにゃいにゃ。」

 それはすごい。

 領地なんて土地が余ってなければくれようもないものだ。

 つまり、ダンジョンの影響で領地の貴族が滅ぶ可能性もあるということだろう。

 それほどの影響があるものならば、一獲千金を狙う猛者たちが集まって来るだろう。

「そこで活躍すれば裸族の名声も高まろう。」

「マッスル……」

「マッスルさんもしかしてかにゃ。」

「あぁ、俺達もダンジョン攻略に挑んでみよう。」

「ヤッパリにゃ。」

「ふーー。」

「があはははははははははははははははははははははははは。」


「おい、聞いたか。また出たらしいぞ。」

「出たって何がだよ。」

 マッスルとミャンマー、そしてエルザの3人がギルド内で情報収集をしてた時だ。――――ちなみにリズはスライムの粘液でベタベタになりまっくていたので先に公衆浴場に行っている。――――その会話が聞こえてきたのは。

「あれだよ、あの冒険者ばかりが襲われる吸血鬼事件。」

「おお、あったなぁ、そんなの。」

「また死体が出たらしいぞ。」

「マジかよ。」

「しかも今度は2人だったらしい。」

「2人共冒険者だったのか。」

「いや、1人は門番をしてた衛士らしい。」


「…………。」

「マッスルさん、どうかしたかにゃ。」

 うわさ話を聞いて考え込むマッスル。

「いやな、あの話だけど。」

「あれって、吸血鬼事件とか連続不審死事件とか言われているやつかにゃ。」

「そうそれ、あれって今回のダンジョンと関係ないか?」

「どうだろうにゃぁ~。確証はにゃいけど新規のダンジョンができてるってことは強力なボスがいるにゃ。それなら人に気づかれずに街に侵入するような、知能の高い魔物もいるかもしれにゃいにゃ。」

「だよな。」

「マッスル何考えてるの。」

「いやな、そういうのうちのモンスターホイホイで釣れないかな、って思って。」

「囮とかやめてやるにゃよ。」

「分かってるよ。てゆうかほっといても勝手にホイホイしそうだけどな。」

「言えてるにゃ。」

「はははははは。」

「……だったら1人の今が危ないんじゃないのかな。」

「…………………………………………。」

「…………………………………………。」

「急いで迎えにいくぞ。」

「分かったにゃ。」

 3人は急いでギルドから飛び出した。


2、


 一方、

 時間は少しさかのぼり、公共浴場に来たリズ。

 鼻歌交じりで体を洗っていた。

 グリーンの街の公共浴場は田舎の村にあるそれよりずっと綺麗でそして広かった。そして何より、お湯が張られた湯船があるのだ。

 田舎の村の公共浴場なんていいとこ大きな釜に水が張ってあるだけだったりする。

 そもそも公共浴場がないとこも多い。

 だからこうして大きなお風呂に入れるのは贅沢なのである。

 それもこれもマッスルと冒険に出ることができたからだ。

 全裸なのは玉にキズではあるが、それでも命の恩人であり夢を叶えることができた恩人なのである。

「……………………。」

 だから恩を返したいと思うのだ。

 そう恩義だ。

 マッスルにだったら体を許してもいいと思えるのは恩義からだ。

「べ、別にマッスルさんのことが好きだからじゃないんだから。」

 誰にともなく言い訳をしてしまう。

 そんな自分をおかしいとリズは思ってしまい、こんなことマッスルに知られたら嫌われるんじゃないかと心配していた。

 しかしその心配は杞憂である。

 何故ならマッスルさんはテンプレなツンデレは十分守備範囲だからである。

「そもそもマッスルさんって女の子に…………興味有るって言ってたっけか。」

 起つもんは起つと言っていた。

 それなら自分に興味はあるのだろうか。

 リズは洗ってる途中の自分の体を見下ろす。

 そこにはしっかりと自己主張する二つの乳房がある。

「おっきいオッパイって好きなのかな……。」

 リズは周りを見回して今は自分しかいないのを確かめて、そっと自分の胸を触る。

 下から持ち上げるように触るとしっかりとした弾力を持った重さが手のひらに乗っかる。

「んっ、……こんな風に触るの初めて。」

 いけないことをしているようでドキドキが止まらない。

「こ……こうかな?」

 外側から内側に向かって寄せるように揉んでみる。

 タプン。

 と弾んで戻って来る。

 タプン、タプン。

 続けて揉んでみれば弾みがついてくる。

 タプン、タプン。

 プルン、プルン。

 タプン、タプン。

 プルン、プルン。

「はっ、何やってるんだろワタシ。」

 楽しくなって夢中で弾ませてしまった。

「コレがオッパイか、男の人が夢中になるはずだわ。」

 そうつぶやいて誤魔化しているけど、リズは意識しないわけにはいかなかった。

 先っぽに触るか触らないかを。

 先ほど胸を弾ませた時、胸の芯に振動が響いて気持ちが良かったのである。

 そしてその気持ちよさは先っぽの方へと続いていっていたのだ。

「ハァ――――、ハァ――――、………………ん、んっっっ!」

 ビクンッ!ビクンッ!

「アッ、ダメ――――、これ以上は――――」

 しかしリズの手は止まることなく――――


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。きもちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。」

 浴場にこだまするリズの声。

 リズは手足をぐっと伸ばしながら湯船に浸かっていた。

 あの後しっかりと体を洗ってから湯船に浸かった。

 お風呂に入る快楽に浸りながら考える。

「ワタシって足手まといじゃないかな。」

 それは今日までの冒険を振り返っての迷いだった。

 夢の冒険者になれたことに浮かれて見落としているのじゃないのか、自分にその才能がありはしないという事実を。

 ミャンマーは才能があると言ってくれているが、自分が1人だったらどうにもならないことを分かっている。

 いつもマッスルかミャンマーがフォローしてくれている。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。いけないな、1人でやって行けるならパティ―なんて組まないよね。」

 ベテランのミャンマーだってパティ―メンバーの引退で活動を休止していた。

 だからこの悩みは思い過ごしだ。

 それは分かっている。

「……不幸体質かぁ。」

 それが心のしこりになっている。

 こんなものはあっても皆に迷惑をかけるんじゃないのか。

「―――――はぁっ。」

 ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。

 リズはお湯に顔を付けると思いっきり息を吐き出した。

「―――――――っぷはぁ。終了。余計なことは考えない。そう、こんなことより本当に今朝のマッスルさんとエルザちゃんに、何も無かったかを考えよう。」

 改めて問いつめてやろう。そう考えながら風呂から上がったのだった。


「ふぅ、ちょっと長湯しちゃったなぁ。」

 帰り道、火照った体を夕焼け空の空気にさらしながら歩いていたリズ。

「スミマセン少しいいですか。」

 そこに声を掛けて来た人がいた。

「あれ、アナタはたしか門番の――――

「エリックです。少しお話があるのですが。」


3、


 街中を公共浴場に向かって走るマッスルら3人。

「リズの奴大丈夫だろうな。」

「不幸体質ってそんなに強い奴やレアな魔物を引き付けるの。」

「面白いくらいにはな。」

「実力的にはリズちゃんは強いにゃ。けど、なんと言うかリズちゃんと相性の悪いのバッカ来るにゃ。」

「なるほど、――――あっ、あれ、あそこにいるのリズじゃない。」

「本当だにゃ。あぁ、路地裏に入っていく。」

「っ、先に行くぞ。」

 ダッ!

 エルザに合わせて走っていたマッスルだが、ここで1人先にリズを追いかけていった。

 そして、マッスルがリズの入って行った路地裏に来ると、路地の奥にリズと衛士のかっこをした男が居た。

 マッスルが声を掛けようとしたところ、リズの前を歩いていた男の姿が掻き消える。

「え?」

 リズから戸惑いの声が漏れる。

 そのリズの背後に男はまわっていて、

「リ―――――――――――

 マッスルが声を上げるより男の口が開く方が早かった。


「血ぃ~吸うたろか~~~。」


 ズザッザッザッアアアアアアアアアア!

 マッスルは盛大にズッコケた。

「む、何やつだ。」

 そこで怪しい男、エリックはマッスルの存在に気が付いた。

「貴様は全裸のヘンタイ。」

「そういう貴様は何処のカンペーだ。」

 マッスルは立ち上がりながらエリックにツッコム。

「カンペー?あぁ官警のことか。全裸は服だけじゃなくて脳みそもすっぽんぽんなのか。」

「ちっげーし、そういう意味じゃないし。」

「あのエリックさん、今の――――

「大丈夫かにゃ。」

 リズが戸惑った声を出したところにミャンマーとエルザも路地裏に到着した。

「……なんかこうしてみると、全裸のヘンタイから女性を守ろうとしてるカッコイイ衛士にみえるよね。」

 とエルザがつぶやく。

「マッスルさん、どう見ても悪者だにゃ。」

「ほっとけ。」

「けど……」

 冗談を言ってはいるけどエルザの口調は固い。

 人見知りで緊張している、――――わけではなく。

「匂うよこの人。魔素の匂い、この人は魔物だ。」

 前髪の隙間から鋭い視線をエリックに送る。

「ちっ、鼻の利きそうなメスガキが居ないチャンスを狙ったって言うのに、慎重に観察しすぎたか。」

 とてもシリアスな場面で、悪人面になったエリックだったが、言ってることは覗きに時間をかけ過ぎて仲間がきちゃったよ。というしょうもないシーンである。

 エリックの言っていることに察しが付いたリズは怯え、「ひぃっ。」と声を出して、顔を真っ赤にした。

「げへへへへへへへ、バレちまっちゃぁしょうがねぇ。お前らまとめてつぶしてやんぜぇ。」

 ギギッギッ、ぶちぶちぶち。

 前かがみになったエリックの背中からそんな音が聞こえて、背中が破けると中からデカい蚊のような化け物が現れた。

「……こいつが吸血鬼の正体ってわけか。」

「あんなコウモリどもと一緒にするな!」


 どっかーーーーーーん!


「俺様は偉大なるエルダー・モスキートのエリック様だ。」

 エリックの攻撃で路地は破壊され粉塵と共に大通りに吹き飛ばされるマッスルたち。

「きゃああああああ。魔物よ。」

「魔物が町中に居るぞ。」

「誰か冒険者を呼んで来い。」

 一気に大通りは混乱に包まれる。

 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~~~ん。

 そんな中を羽をはためかせて飛ぶ巨大な蚊。

 エリックはマッスルたちを見下ろして叫ぶ。

「ハハハ、ダンジョンがもう少し成長したらこの街の奴全部食い尽くしてやろうと思っていたが、こうなっては仕方ない。このまま暴れてやるわ。」

「やらせはしないぞ。」

「クックック、まずは貴様から犠牲になりたいようだなヘンタイ。」

「魔物に変態と言われる筋合いはないのだがな。」

「俺様からしてもオマエはヘンタイだよ。」

「だまれ、それよりも貴様がダンジョンのボスか?」

「そうであってそうではない。」

「何?」

「俺様がダンジョンのボスだが、この体は本体ではないのだ。本体のごく一部にすぎん。まぁ、それでもオマエタチなどでは歯が立たんだろうがなぁ。ヒャーハッハッハ。」

「フィジカルシールド。」

 ガキッーン。

 喋っている間に突如消えたエリック。

 とっさにエルザが張った魔法でマッスルの物理防御が上げられて、マッスルの筋肉によってエリックの攻撃をはじいた。

「ファイヤーボール。」

「食らうにゃ。」

 攻撃後の隙を突いてリズは魔法で、ミャンマーは弓で攻撃をする。

「甘い甘い。当たらんよ。」

 それを素早くかわすエリック。その間もマッスルに攻撃が繰り出されて、マッスルは防御に専念させられる。

「くっ、強い。」

「当たらないにゃ。」

「ならば数で行くのだ。」

 そこに騒ぎを聞きつけやってきた冒険者たちによる援護射撃が入る。

「ハハハ、それでも当たらんのだよ。」

 援護により増えた攻撃の数だが、素早いエリックにはそれでも当たらない。

「貰った。」

「あっ―――

 攻撃が当たらないことにいら立ち隙ができていた皆、その隙を突いてエリックはリズに向かって触手のような針状の口を突き出した。


 ズバァアァァァァァァァァァァ!


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 鮮血が噴き出した。

 噴き出す鮮血に顔が汚れるリズが驚愕の表情で叫ぶ。

「マッスルさん。」

「ははは、馬鹿め。自ら盾になったかヘンタイめ。」

 リズの目の前にエリックによって肩を貫かれたマッスルの背中があった。

 その肩からは血が流れている。

 リズは信じられなかった。

 マッスルが負傷するところを見るのは初めてだった。

 いつもいつも魔物の攻撃を受けても傷一つなくぴんぴんしていた人が、自分をかばって沢山の血を流している。

 リズはまるで自分が血を流しているかのように頭から血の気が引いて来た。

 そこでマッスルが振り向いて、「ふっ。」と不敵に笑って見せた。」

「ダメ待って、マ――――――

「エルザアアアアア!」

 マッスルは叫ぶと同時に自身に刺さっているエリックの触手を両手でつかんだ。

「ブロックポジション。」

 そのマッスルにエルザは魔法をかけた。

 かけたのは盾役が吹っ飛ばされないようにするための補助呪文だ。

「!――――ぬぅ、抜けない。」

「今だ。やれえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」

 エリックの言葉とマッスルの叫びで、マッスルの考えを悟った皆が一斉に攻撃を放った。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお。」


 ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!


 数多の攻撃が降り注ぐも、触手を掴まれて動きを制限されたエリックは、今度は避けきることができずに攻撃を受ける。

 ドーーーーーーーーーーーン!

 爆発が起きて吹き飛ばされるエリック。

「ハハハハハハハハ、だが残念だったな。この程度では俺様は倒せんぞ。」

 しかし皆の攻撃はエリックを吹き飛ばしたものの、倒しきるには至らない。

「ハハハハ、うっとおしい魔法もそろそろ切れるだろう、そうなれば―――――

「とうっ。」

「へ?」

 吹っ飛ぶのを防ぐ魔法で動くのを押さえられているマッスルと、吹っ飛んだエリック。2人をつなぐ運命の赤い糸ならぬエリックの触手がちぎれていないのならば、その触手はゴムのように伸びっ切っているだろう。

 そして、固定の魔法が切れたマッスルがジャンプをすれば、伸びた触手が勢いよく縮むわけだ。

 ビュゥゥン!

 集中攻撃で出来た粉塵を貫いてマッスルが飛ぶ。

「ラアアアアアアアアアイイイイイイイイイダアアアアアアア、キイイイイイイイイイイイイイイイイクッ!」

「ブゲラァ!」

 光を纏ったマッスルの飛び蹴りがエリックの顔面をとらえた。

 吹っ飛ぶエリック。

「フグオオオオオオオオオ。」

 これは効いたのかエリックがのたうち回る。

 その姿はゴムパッチンを食らったダチョウ倶楽部の竜ちゃんみたいだった。

 ぐしゃり。

「ぐっ!」

 そのエリックの羽を踏みつけるモノが居た。

「く、……ヘンタイめ。」

 そう全裸のマッスルだった。

「なぜだ。何故貴様の攻撃だけこうも効く。」

「それは俺が全裸だからだ。」

「意味が分からない。」

「全裸である事は神に認められた証。全裸であるからこそ神の力を使うことができる。つまり俺は神だ。」

「こんな、こんな奴に負けるのか。」

「言い残すことはあるか。」

「ククク、俺様を倒して喜んでいればいい。ダンジョンに居る俺様の本体はこの体の何倍も強いのだからなぁ。」

「そうか。ならば死ねぇぇぇぇぇ。シャアアアアアアアイイイイイイニイイイインンンンングウウウウウウウウ、ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ。」


4、


 マッスルの輝く拳によってエリックは倒され黒い霧となって散って行った。

 残されたのはこぶし大の大きな魔石だけだった。

「……倒したのか。」

 誰かがつぶやいた。

 戦いはそれほど長い時間ではなかったが、それでも被害は大きい。

 最初の爆発で路地は吹き飛びいくつかの建物が倒壊している。

 攻撃のほとんどをマッスルが受け止めていたが、エリックの攻撃がかすめただけで建物の壁がえぐれたりもしていた。

 もしほかの冒険者に攻撃が行っていたら死人を出していただろう。

 また、路地を吹き飛ばしたのと遜色のない爆発を生んだ一斉攻撃で倒れなかった魔物。

 たった1匹でありながら数多くの冒険者が挑んでもおいそれと倒せない強さを見せつけていた。

 それが最後はあっさりとした感じで倒されたのだ。

 にわかには信じられないのもうなずける。

 だが確かに倒された。

 倒したのは全裸の漢だった。皆が事実を受け入れ始めることでざわめきが起きる。

「おい、あのすごい魔物は何だったんだ。」

「誰か瓦礫に埋もれたヤツを助けるの手伝ってくれ。」

「ダンジョンだ。ダンジョンから出てきた魔物だ。」

「あの全裸何者だ。」

「おい、さっきの魔物が吸血鬼事件の犯人らしいぞ。」

「おい、こっちだ。ヒーラーを寄こしてくれ。」

「おい、ダンジョンのボスはあれより強いらしいぞ。」

「それよりあの全裸は誰だよ。」

「勇者だ。噂になってた全裸の勇者だ。」

「本当に勇者だったのかよ。」

「すっげぇ、あのおヤバいのを倒しちまった。」

「おい、ほかに怪我人はいないか。」

「あとは全裸だ。」

「あの勇者の怪我をなおしてやってくれ。」

 ざわめきは喧騒となる。

 マッスルはドロップした魔石を拾い、そして肩の傷を見て顔をしかめる。

「マッスル。回復は任せて。」

 マッスルの傍にエルザがやって来てヒールを掛けてくれる。

 それと同時にミャンマーが包帯と傷薬で肩を手当てする。

「これにゃら2,3日で完治しそうにゃ。」

「そうか。3人は怪我してないか。」

「大丈夫にゃ。」

「ボクも無事。」

「リズはどうだ。最初の爆発で傷とか負ってないか。」

「………………………………。」

「おい、大丈夫かリズ。」

「顔色が真っ青だにゃ。」

 喧噪もマッスルたちの心配する声も遠くに聞こえて視界が狭まって、リズの意識は落ちた。



 倒れたリズを介抱するため、そして事情を多くの人に説明するため、マッスルたちは冒険者ギルドに戻って来た。

 リズはギルドの救護室に運ばれ、傍にはエルザが付いている。

 マッスルはミャンマーと一緒にギルドの会議室へと案内された。

 会議室は筆記試験を受けた部屋より広く、30人ほどが座れる大きなテーブルが中央に置かれていた。

 テキトーに座っていいのか迷うマッスルだったが、ミャンマーに真ん中あたりの席に着くよう促された。

 そしてしばし待つと、慌ただしく幾人もの人が集まって来た。

 その多くは身なりのいい人たちであり、荒くれものみたいな人物もいたりと統一感はない。

 なにより、全裸のマッスルが一番浮いていた。

「あの人はギルド長ですにゃ。あっちは町長。あっちは銀翼の剣のギルマスにゃ。」

「協会としてのギルドと大規模パーティーとしてのギルドでややこしいな。」

「つづりは違うけど発音は一緒だからにゃぁ。そう言えばマッスルさんは文字は読めるのかにゃ。」

「何となく意味は理解できる。」

「神様の加護かにゃ。便利だにゃぁ。」

「それよりこれは何の集まりだ。」

「会議室でするのは会議にゃよ。」

「それは分かるがなんで俺も参加する流れなんだ。」

「当事者だからにゃ。」

「なんの?」

「さっきの魔物退治と新しく発見されたダンジョンのにゃ。」

「寝てていい?」

「ダメにゃ。」


 さて、

 皆さまは会議の内容とか細かく見せられても面白いと思いますか?

 自分は思いません。

 国会中継とか見てもつまらないし、必要なこともニュースで要点だけ知れたらいいと思う。だからこの会議も要点だけ言おう。

 先ほどの魔物の強さが知られてダンジョン攻略に消極的な街のお偉いさん方を、全裸がなぎ倒してボスの攻略を請け負った。

 有力な武闘派ギルドはそんな全裸を「流石は勇者。こうでなくっちゃ。」となぜか絶賛。全裸コールを上げて脱ぎだす始末。

 全裸の傷が治った後の4日後攻略開始となったのである。


5、


「バッカじゃないんですか。」

 話を聞いたリズが開口一番に言ったのがこれである。

「何で他の人まで脱ぎだしてるんですか。みんな酔っぱらってたんですか。」

「それが最新の流行だ。」

「人類最古の愚行だと思います。」

 マッスルの流血を見てぶっ倒れたリズだったが、この話を聞いて心配して損した。と、思った。

「ミャンマーさんが付いていてなんでこうなったんですか。」

「にゃははははは。」

「たぶん、マッスルが居た時点でこうなるしかなかったと思う。」

 そうエルザが感想を述べて、「そうにゃ、だから私のせいじゃないにゃ。」とミャンマーが逃げる。

「そんなことより、お前の方は大丈夫なのか。」

「え?」

 キョトンとなるリズ。

「顔真っ青にしてぶっ倒れただろう。大丈夫なのか。」

 マッスルにおでこに手を当てられ顔を覗き込まれたリズは、顔を真っ赤にしてきょどる。

「なっ、なななな、だ、だっだだ、大丈夫よ。」

「何言ってんだ、今度は真っ赤だぜ。」

「だから大丈夫だって。心配いらない。そう、心配するだけ無駄だったって話だから。」

「おまえなぁ、仲間を心配するのが無駄なわけないだろう。」

「そうよね。仲間を心配するのは当然よね。」

「ホント、どうしたんだ。」

 支離滅裂なリズの態度にいぶかしむマッスル。

「……マッスルって変なところで鈍感だよね。」

「そうだにゃ。」


 調子を取り戻したリズを連れて宿屋への帰り道、4人で話し合た。

「それで、マッスルさんがダンジョンのボスを倒すって言っちゃったにゃ。」

「う~ん、あの強い魔物もマッスルさんの力で倒せたけど、でもすっごく苦戦したじゃないですか。マッスルさんが傷を負っちゃうくらい。」

「そうだね。マッスルが傷つくくらいだから他の人だと耐えられないだろうね。」

「しかもダンジョンに居る本体は数倍は強いらしいじゃないですか。」

「まあ、それも魔物の言ってたことだけどね。でもさすがに嘘じゃないと思うよ。数倍でなくともあの魔物よりかは強いはずだよ。」

 リズとエルザがそう心配していると、会議に参加していたミャンマーがマッスルに訊ねる。

「それで、マッスルさんが会議で言っていた秘策ってのは何なのにゃ。」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。実は策は2つある。その1つが多分やつの弱点だ。」

「弱点!」

「マッスル。そんなことあの短い時間に分かったの。」

「なに、俺の洞察力をもってすればたやすいことだ。」

「信じられにゃいにゃ~。」

「それはどっちのことだ。」

 ピューピューと口笛を吹いて誤魔化すミャンマー。

「ソレでその弱点って。」

「―――――――だ。」

「え?マジで。」

「間違いない。奴の行動をかんがみるにコレがやつの弱点だ。でなければ奴はかなりのバカだ。」

「あっ、確かにそうかもしれません。」

 思い当たることのあるリズが同意する。

「それで。それが分かったとしてもう1つの策ってのは。」

「こっちも問題ない。高々数倍強いだけだからな。」

「いや、それってかなりやばいよ。」

「問題ない。」

 そう言って全裸の胸を張るマッスル。

「俺が全裸である限り奴に勝てるさ。そして――――

「そして?」

 マッスルにガシッと肩を掴まれたリズが顔を引きつらせながら訪ねる。

「それをより確実にするために、リズの力が必要なんだ。」

 マッスルに真剣なまなざしで見つめられたリズの顏が――――嫌な予感でさらに引きつり冷や汗が流れ出した。


 会議の次の日にすぐ行動に移った。

「さぁもっとだ。まだまだやれるだろう。」

「いやああああああ、もうだめえええええ。これ以上は壊れちゃうううううううううううううううううううう。」

 森の中にマッスルとリズの叫び声が響いていた。

「はははははははは。いい具合だ。リズ、お前の体は最高だよ。」

「うえええええええええん。どろどろいやああああ。もういっぱいいっぱいで入らないよおおおおおおおおおお。」

「ならば一度街に戻って出直しだ。今日だけでもあと5回は回すぞ。」

「や、休ませてよおおおおおお。」

「はははははははは、休んでる暇はないぞ。まだまだ次がつっかえているのだからなぁ。」

「いいいいいいいやああああああああああああああ。」

 リズの叫びがこだまして、それが更に彼女の体に群がるモノたちの嗜虐心を刺激するのか、さらに激しくその体を揺らしてリズに覆いかぶさる。

「……鬼畜だね。」

 マッスルに付き合わされてリズを叩くエルザが嘆息する。

「うぅぅ、ホントに鬼畜だにゃぁ。」

 ミャンマーはリズの体に降りかかるドロドロを回収させらえて辟易していた。

「がはははははは。いいぞうもとだあああ。」

「いやああああああああ。」


 それから数日、ダンジョン攻略の為の準備が進められた。

 言い出しっぺのマッスルだけでなく多くの者が準備に協力した。

 そのおかげで準備は滞りなく進み必要なモノが用意できた。

 ただ、リズにかかった負担は大きかった。

「ははははは、ワタシやっぱりこの体質嫌だよぉ。」

 リズは光の無い目で遠くを見つめながらそうつぶやいたのだった。


6、


 そして、ついにダンジョン攻略の日がやって来た。

 ダンジョンの中は異界と化しているのでどれだけの規模があるのか分かっていなかったが、この準備期間に銀翼の剣が斥候として動いており、少なくない情報を集めていた。

「皆の者聞いてくれ。」

 グリーンの街の広場、そこは今は多くの人で埋まっていた。

 その中心で声が上がる。

 ダンジョン攻略のために集まった冒険者たちに、銀翼の剣のギルドマスターのユリウス・バードが声をかけたのだ。

「我々の調査ではまだボスの位置は分かってはいない。」

 集まった者たちの顏はそれでも曇ることはない。

 探索に何日もかかることは想定内。

 そのために多くのサポート人員と物資を準備しておいたのだから。

「まず、このダンジョンは正真正銘のダンジョン。魔王に連なる魔物によってつくられたものであることは分かっているだろう。」

 ここ、グリーンの街は魔王と人類の戦いの前線からは離れている。

 そのためこの街に居る冒険者達では魔王軍のものに挑むには心もとない。

 例外がたまたまこの街に滞在していた銀翼の剣と、連絡を受けて急遽駆けつけてくれた足の早い冒険者たちだ。

 それでもその数はごく一部に過ぎない。

 主力はやはり実力に劣るこの町の冒険者だ。

「しかし、このダンジョンに巣くう魔物たちには我々は戦える。噂は聞いているだろう。あの勇者の策がハマったのだ。」

 そう、噂になっている全裸の勇者、そのものが出したは策は魔物たちの弱点を突くことだった。

 そしてその弱点が有効であることは先行隊によって実証されている。

「武器は十分にある。皆が戦えるだけの数が用意できた。」

 その弱点となるモノは勇者の仲間の魔法戦士の活躍によって十分な数がそろっているのだ。

 誰もがその勇者の仲間を尊敬している。

 田舎から出て来たばかりの駆け出し冒険者のその少女は他の誰よりもその才能を生かした活躍をしたのだ。

「ふっ。」

 ユリウスがいったん口を閉じて1点を見る。

 そこには集まった者の中にいる勇者の仲間がいる。

 皆がユリウスの視線を負ってその少女、リズの方を見る。

 緊張した面差しだがそれでも皆からの感謝のまなざしに少し照れた。

「我々の仕事はこれからだ。ダンジョンの奥まで進攻してボスまでの道を作れ。勇者をボスのところまで送るのだ。」

 うおおおおおおおおおおおおおお!と気勢を上げる冒険者たちを見つめながらユリウスはその中の一点、全裸の勇者の姿をとらえる。

 この攻略戦の発案者で勝機を見つけ出して、そして最大の脅威に対する切り札。

 魔王の眷属たる魔物に最も強いアドバンテージを持ている漢。

 伝承にありながら多くのものに信じられていなかった全裸の勇者、その実証となるマッスル。

 その実力にはまだまだ未知数な部分があるがそのたたずまいに信頼に値するモノがあった。

 全裸の股間に燦然と輝く神の加護の証、「神の見えざる手」が何よりの証なのだ。

 マッスルがユリウスにしっかりと頷いて見せる。

 それを見てユリウスは最後の号令を上げる。

作戦名オペレーション・「王道ストーリートキング」。発動。」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 ダンジョンへの進攻を開始した。


7、


 ダンジョンの中は明るいピンク色の洞窟だった。

 いや洞窟というより何かの生き物の体内かと思えるような光景だった。

 そこを幾人もの冒険者が走る。

 それを迎え撃つ魔物たち。

 魔物はそのすべてが虫型の魔物たちである。

 それはこのダンジョンのボスが虫型であり、その眷属である証だった。

 そして魔物の中でも魔王軍に所属するだけある強い魔物たちでもある。

 しかし、その魔物たちが次々倒されていく。

 それはマッスルの見つけた弱点のおかげだった。

 次々魔物たちは倒され、多くの人員を動員した人間側の侵攻を止めることはできなかった。

 そして、ボスの居場所が分かるまでにそれほどの時間がかかることはなかった。


「グガガガガガガガ、ニンゲン共が良くもここまでやってくれたものだな。」

 ボスの姿は足が3対、腕が4対あるハエや蚊に似た大きな化け物モンスターだった。

「あとはお前を倒すだけだな。」

 ボスのいる部屋にマッスルが1人で進み出る。

「ガガガガガガ。できるものかよヘンタイが。この俺様は破壊の魔王「バルス」様が軍勢の幹部、その中でも四天王と呼ばれる最速のエリック様だぜ。」

「御大層な称号じゃあないか。四天王。」

 余裕の笑みを浮かべるマッスルにエリックはいら立ちを感じる。

「グガガガ、ニンゲンごときが、まして1人で俺様に勝てると思っているのか。」

 エリックの声は人間にとって不快な音だ。

 しかしマッスルはさらに不敵な笑みを浮かべてみせる。

「勝てると確信してるからここにいる。」

「ふん、愚かにも魔王様すら倒すとほざくだけあるな。良いだろう、その傲慢を俺様がひねりつぶしてやる。そして――――」

 エリックはチラリと部屋の入り口を見やる。

 そこにはマッスルの戦いを見守る仲間たちが居る。

「キサマが連れているリズという女、貴様を殺した後にいただくとしよう。」

 エリックの化け物の目に見られたリズはゾクリッと体を震わせる。

「あの旨そうな女、アイツの血を吸えば俺様はさらに強くなれそうだ。すぐには殺さず、時間をかけてタアアアアアプリと血を啜ってやるからなぁ。」

「無理だな。お前はここで俺に倒されるのだから。」

「ならば、やあってみろやあああああああああああ!」

 エリックはマッスルを捻り潰さんと真っすぐに襲い掛かった。

「喰らいやがれええええええええええええ!」

「そっちこそ喰らえ!」

 襲い掛かったエリックにマッスルはカウンターで――――


 股間からドロリとした液体を大量にぶちまけた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 その液体を頭からかぶったエリックは凄まじい叫びをあげて飛びのいた。

 その体からはジュウジュウと音を立てて白い煙が上がっていた。

「どうだ。」

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”、これはま”さ”か”―――――」

「そう、貴様らの弱点――――スライムの粘液だ。」

 そう、マッスルの股間から出たのは、”裸”パックに納められていた大量のスライムの粘液だった。

「グウウウウウウウ、オノレエエエエエエエエエ。」

「ハハハ、効くだろう。なんてたってスライムはお前等の天敵なんだろ?」

 そう。

 マッスルの言う通りスライムはエリックとその眷属の天敵なのである。

 このエリックのダンジョンの周りの森に大量のスライムが湧いていたのは、ダンジョンの魔物でなく、ダンジョンの魔物を捕食するために集まっていたのだ。

「そぉうら、ダメ出しだ。」

 マッスルがそう言うと部屋の入り口から大量の煙が流れ込んでくる。

「グウウウウウオオオオオオオオオ。」

「スライムの粘液をいぶした特製の殺虫剤だ。これで後はお前に止めを刺すだけ――――」

「グウウウウウウウウウオオオオオオオ、なあああああめえええええるううううううなああああああああああ!」

 勝った。そう確信していたマッスルにエリックは渾身の反撃に出た。

「があああああ。」

 とっさに躱そうとしたマッスルだが脇腹をかすめる。

 マッスルのわき腹から血が流れる。

「マッスル!」

 リズたちから叫び声が上がる。

「まだだ。この程度ではまだ俺様はやられはせんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 エリックの猛攻が繰り出される。

 マッスルはそれをさばくが、さばききれずに攻撃を受けて吹き飛ばされる。

「ぐぅぅぅぅ、これじゃあ足りなかったのか。」

「はぁ、はぁ、はぁ、許さんぞ。」

「ぐうっ。」

 エリックの攻撃がうずくまるマッスルに浴びせられる。

「がぁはぁ!」

「許しはせん。」

「ごはぁ。」

「きさまは――――」

「ぐぅはぁあああ!」

「簡単には殺しはせん!」

「おえええええええ!」

「俺様をコケにしてくれた礼はタアアアアアプリとしてやる。」

 ドカ!

「げほぉ。」

 バキ!

「ごぶっ。」

 メキ!

「うっげええええぇぇぇぇぇぇぇ。」

 ガッキィィィィ。

「む?」

 とそこでエリックは己の手ごたえに違和感を覚えた。

「げほぉ、おえ、うげええええええええええ。」

「なんだ今のは。」

 エリックは驚愕しながらマッスルにさらに攻撃を浴びせる。

 ガキーーーーーーーーン!

 しかしその攻撃はマッスルの肉体によって弾かれた。

「なあああにいいいいいいいい!」

「うええええええ。ごほ、うう、話には聞いてたけどホントに不味いな。」

 そう言って立ち上がるマッスル。

 その体にあった傷が少しずつ治っていく。

「なんだ、何をしたキサマアアアアアアアアア!」

「何って、これを飲んだだけだけど。」

 エリックの方を振り返ったマッスルが空き瓶を見せる。

「それは―――――」

「特製のレベルアップポーション。」

「……レベル……アップ、ポーション…………だと。」

「そうだ。最高品質で、最高に不味いレベルアップポーションだ。」

 その言葉にエリックが後ずさる。

「実はさっきまで俺はLv,1だったんだ。……この意味が解るか。」

「――――バカな、……そんなはず。」

「今の俺はLv,10。さっきまでの10倍は強いぞ。」

「あ、ありえん。さっきまでLv,1だったなんて。そんなこと。」

 必死に否定するエリックだったが、彼は確かに感じていた。マッスルからのプレッシャーがさっきまでとは違うことを。

「さぁ、ここからは俺のターンだ。」

「ふざけるなあああああああ!この俺様はバルス様の四天王、最速のエリック様だあああああ!ヘンタイごときに遅れはとらんわああああああああああああああああああ。」

 先ほどまでを上回るエリックの攻撃。

 しかしマッスルはそれをいなし防いでいく。

 ドガガッガガガガガガガッガガッガガガガガガガガ!

「ハハハハハハハ、まだ俺様の方が早い。まだ俺様の方が強いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 叫ぶエリックが渾身の攻撃を繰り出す。


脱衣キャスト・オフ。」


 しかしエリックの攻撃はあらぬ者をとらえた。

 中身のない鎧兜と武器。

「――――――!ッ奴は何処に。」

「後ろだ。」

「!」

 とっさに振り返ったエリックの顏にマッスルの拳がめり込む。

「グガアアアアアアアア!」

 吹っ飛ばされるエリック。

 しかしそこで攻撃は止まなかった。

 バキィッ!

「グオオオオ。俺様を追い越して攻撃だと。」

 マッスルの追撃で別方向に吹き飛ばされるエリック。

「!」

 ドカァ!

 さらに追撃。

「おらぁ。」

 さらに追撃。

「おらぁ、おらぁ。」

 さらにさらに追撃。

「おらぁ、おらぁ、おらぁおらぁおらぁ。」

 さらにさらに続く追撃。

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら。」

 吹っ飛ばして追い越しまた吹っ飛ばす。

 高速、否、光り輝くマッスルはまさに光速。

 部屋の外で見ていたリズたちの目には光の球体に見えていた。

 その球体は少しづつ小さくなっていく。

「オオオオオオオオオオオオオ、バカな、バカナアアアアアアアアア。この俺様がやられるなんてええええええええええええ。」

 そして拳ほどの大きさまで縮んだそれを。


 ぱぁあああああん!


 マッスルは合唱をするように両の手のひらで叩き潰した。

 ここに、魔王軍幹部の1人、四天王最速のエリックが倒された。


エピローグ、


 この日、グリーンの街から一組の冒険者が旅立つ。

 グリーンの街はここ数日お祭り騒ぎだった。

 その中心にそのパーティーの1人が常にいた。

 前線から離れた街に出来たダンジョン、そのダンジョンを生み出した魔王軍幹部、その魔物が起こした連続殺人事件。

 それらを解決したのがその漢だった。

 皆は彼を言い伝えにあった勇者だと褒め称えた。

 これが、

 これが10年、20年、さらに100年たっても語られる勇者の伝説の始まりだった。

 その伝説の最初の一文はこう語られる。

「その者、一切の衣をまとわずに、神託の地に降り立つべし。」と。

 彼は全裸の勇者である。


「あぁ、異世界を裸で旅するのはキモチガイイ‼」

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異世界を裸で旅するのはキモチガイイ‼ 軽井 空気 @airiiolove

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