誰がその鐘を鳴らすのか?
@smile_cheese
誰がその鐘を鳴らすのか?
この地球上の片隅には大きな鐘があるらしい。
その音は世界中のどこにいても聴こえると言われているが、その音を聴いた者は誰もいない。
その鐘がどんな形をしていて、どのくらい大きいのか、それを知る者は誰一人としていなかった。
しかし、人々は古くからその鐘の存在を信じ、誰よりも早く綱を引く権利を得ようと国を上げて探し続けてきた。
誰がその鐘を鳴らすのか?
そして、一体、誰がその鐘を守り続けているのか?
私もその鐘を探している者の一人だった。
鐘に関する噂はいくつかあった。
その鐘は一番高い山の上に吊るされているらしい。
鐘の音は聴く者によって音色が異なり、その鐘を鳴らした者は神になれるらしい。
皆、その噂を信じ、この地球上で最も高い山の頂上を目指した。
しかし、山頂に到達した者はいたものの、鐘を見た者は誰もいなかったと言う。
それでも、私は諦めきれず、今まさに山頂を目指しているところだった。
私自身、鐘を鳴らすことに対しての執着はない。
学者として神話になりつつある鐘をこの目に焼き付けておきたい。
ただそれだけだった。
苦難あってようやく山頂に辿り着いたが、やはりそこには鐘はなかった。
周囲には絶望し自ら命を絶った者たちの亡骸が転がっていた。
私も一度は落胆したが、まだ諦めたわけではなかった。
神になれるとまで言われている鐘が、そう簡単に手の届くような場所に吊るされているわけがないのだ。
私は頭の中にある情報を整理すると、一つの疑問が浮かんできた。
世界中のどこにいても聴こえると言われている鐘の音はその長さや大きさも同じように聴こえるのだろうか。
音の長さや大きさが平等に聴こえるのであれば、音の発信源はこの世界の中心に位置しているはず。
なんということだ。
この仮説が正しいとするならば、誰もその鐘を見つけることができなかった理由にも納得がいく。
いや、むしろ見つけていたのかもしれない。
少なくともこの亡骸たちは。
学者は持っていたノートに最後の疑問を記すと、自らの命を絶ち、永遠の眠りについたのだった。
『誰がその鐘を鳴らすのか?』
だだっ広い草原に一本の大きな欅の木がそびえ立っていた。
欅の側には一人の美しい女性がどこか寂しげな表情を浮かべながら空を見ていた。
「あの学者も駄目でしたね」
声をかけられた方に女性が顔を向けると、そこには27人の女性が立っていた。
「あの学者も真実に辿り着きはしたものの、その責任の重さに耐えきれず、きっと他の者たちと同じく自らの命を絶つことで権利を放棄したのでしょう。信じましょう。いつかこの鐘の音を聴き、立ち上がる愛の救世主が現れることを」
大きな鐘とは、地球そのものだった。
鐘の音とは地球が人類に向けて鳴らし続けてきた警告である。
自分たちの都合のいいように身勝手に破壊活動を繰り返してきた人類に対し、いつしか大きな災いが降り注ぐであろうという悲鳴にも近い警告だった。
世界中のどこにいても聴こえるが、その音を聴いた者は誰もいないというのは、人類が警告に耳を傾けてこなかったから。
そして、人類はその鐘を破壊するだけではなく、鐘を鳴らす権利を賭けて争うようになっていった。
権利など最初から存在しないとも知らずに。
誰がその鐘を鳴らすのか?
神の遣いたちは今日も救世主を待っている。
完。
誰がその鐘を鳴らすのか? @smile_cheese
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