さよならの向こう側

@submissive_takashi73

第1話

これは死後三日間だけ猶予が与えられる世界でのお話です。




梨沙はその晩、夫の亮の帰りを待ちながら、微かな胸騒ぎを感じていた。


仕事で帰りが遅くなることもあった。しかし必ずそんなときには連絡があった。


ラップに包んだ自作の晩ご飯の前でぼんやりテレビを観ていると、携帯に着信があった。


亮じゃない。


梨沙は知らない電話番号からの着信を見て、嫌な予感に血の気が引いていくのを覚えた。


「はい。」

「夜分遅くに失礼します。高天ヶ原警察署の者ですが、先ほどあなたの旦那様が、交通事故に遭われて…」


そこから先のことは、もうほとんど耳に入ってこなかった。

なんとか受け応えをした後、亮がいると聞いた病院に青い顔をしながら駆け込んだ。


受付で聞いた病室の前で、白衣を着た医者が、梨沙のことを待っていた。


「あの、亮は…」

「奥さん、最善を尽くしたのですが、残念ながら、先ほどあなたの旦那様は息を引き取られました。」


それを聞いた梨沙はしばらく目を見開いたまま動かなかった。


信じられなかった。朝にはいつも通り元気に仕事に出かけて行った。

いつもと同じ朝。いつもと同じ1日。そしてまた明日も、当たり前のような1日になると、思い込んでいた。


足元が崩れるような感覚に襲われながらも、微かな声で言った。


「亮に会わせてください。」


医者は静かに頷くと、病室のドアを開けた。


広いけれど、こじんまりとした病室。

そのベッドに亮は背中を丸めて座っていた。


バツが悪そうな顔を梨沙に向けると、

申し訳なさそうに、手を上げて、

「よっ。」

と言った。


「亮っ!!」


この数時間の悲しみが、亮の顔を見た瞬間、堰を切って溢れ出た。


「よっじゃないよ!バカ!!」


梨沙は亮に飛びついた後、罵りながら何度も亮の体を叩いた。

亮は、ごめんね。を繰り返しながら、ただ梨沙の背中を撫でるだけだった。

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