第3章
第13行目 電波パニックその1
「う?」
とある日。和室で一人お昼寝から目覚めたスズ。ムクリと起き上がり、辺りを見渡すが、誰も居ないし、音もしない。あるのは一緒に昼寝をしていたウサギのぬいぐるみだけ。
よく奈央が隣でスマホを触っていたり、千景が洗濯物を畳んでいたり、ナツキがレシートを広げていたりするのだが、今日は誰も居ない。一人だった。
一先ず部屋の外へ出てみようと、ズリズリとしながらゆっくりと進軍してみると……
「あ!」
部屋の隅、畳の上に白い四角い箱があるのを発見。これは一体何の箱なのだろう。気になって手でペタペタと触ってみる。固い感触で、ほんのりと暖かい。後ろに回り込んでみれば箱の中からコードが出ており、壁のコンセントに差し込まれていた。
「うー!」
よし、とりあえず抜いてみよう。この白い箱の正体はよく分からないけれど、これは抜くしかない。うん、そうしよう。
スズの中でそう結論づけられたのだろう。彼女はガシッとコードを掴むと、思いっきり引っ張り始めた。それはさながら株を抜くあのお話のよう。うんとこしょ~どっこいしょ~。力いっぱい込めて引っ張るも、コードはなかなか抜けません。
「んー!」
それでもスズは諦めません。更に体重をかけて、コードを引っ張ります。うんとこしょ~どっこいしょ~。
「んんー!」
ほんの少しだけ、コンセントの差し込み口が緩んだような気がします。ラストスパートをかけて、スズは先ほどよりも力を込めて引っ張ります。顔を真っ赤にしながら引っ張ります。うんとこしょ~、どっこいしょ~。
そしてついに……
「おぉ!」
格闘すること数分後、無事にコードが抜けました。抜けた衝撃とともにスズは後ろにコロンと転がってしまいましたが、頭は打っていませんし、元気そう。すぐに起き上がり、満足げにコードをブンブン振り回します。
「わぁー!」
スズは充実した達成感に包まれます。初めて自分一人で成し遂げたのです。それはもう満足げにコードをぶんっ、ぶんっと振り回しています。
「あ、こらスズ。コードで遊んではいけません。刺さりますよ、危ないでしょう」
「あー、うあー」
「こちらで一緒に居ましょうね」
しかし、そんな喜びも一瞬で奪い去られてしまった。千景に見つかってしまい、コードは没収。そしてもう悪戯出来ないように、彼の胸に抱え上げられてしまった。
「さて、この白い箱は一体なんでしたかね? コンセントは元々抜けていたでしょうか?」
「あー、んぁー!」
「スズが抜けるとは思えませんし、そのままにしておきましょう」
「ギャー!」
「はいはい、行きますよ」
いろいろ伝えたかったスズだが、千景には何一つ伝わらず。かかえられたまま、和室をあとにするしかなかった。
「さあ、ここで遊びましょうね」
「あーわー!」
「ほら、本を読むのはどうですか? これは飛び出すんですよ。海がバーンって。海は英語でseaというんですねぇ」
「うー」
千景に連れてこられたのは、リビング。コードを没収されて不機嫌そうなスズだが、飛び出す絵本を渡されて機嫌が回復。楽しそうな笑顔でババーンと出てくる海と遊び始めた。
「奈央、グググ先生に夢中なのはいいですが、どういう体勢なのですか。姿勢酷いですよ」
「んーあいあい」
そしてリビングにはスマホに夢中な奈央が居る。寝転がりながら、壁に向かって足を上げており、何かの体操でもしているのか。壁と遊んでいるようにしか見えなくもないが。眉間にしわが寄り、かなり難しそうな顔をしている。
「何か調べ物ですか?」
「んー、まあな。なかなか難解な情報を入手してしまったかもしれない」
覗いてみれば何かの記事を見ているのだろうか。細かな文字が画面いっぱいに表示されていた。奈央は眉間のしわを更に濃くして、画面に顔を近づけている。このままでは視力まで悪くしてしまいそうである。
スズが変な姿勢を真似してしまう前に、彼に正してもらわなくてはいけないなと千景が思っていれば……
「ん?」
「どうしたんですか?」
突然奈央がガバッと飛び起きる。先ほどの姿勢でよく一気に起き上がれたなという状況だったのだが、流石はドラゴン。筋肉の付き方が違うのかもしれない。
「進まなくなった」
「どういうことです?」
「ほら」
奈央に促され千景が画面を見てみれば、画面が真っ白に。ページを次に進めようとボタンを押した、こうなってしまったようだ。今まで順調に記事を読み込んでいたのに、何があったのだろう。故障だろうか。
「グググ先生に尋ねてみてはどうですか?」
「あー、そうだな……ん、グググ先生の様子が」
進化だろうか。ポ○モンのように言わないでほしいのだが。
スマホの画面を見れば、『読み込めません』の文字が。そして……
『Wi-Fiの状況を確認してください』
とのエラーメッセージが表示されている。
「ダブリュー、アイ……とはなんぞ?」
「はて? ただもしかすると記事を読み込めなくなった不調とグググ先生の異常はそのダブリューの仕業なのではないですか?」
Wi-Fiである。
皆様には数話のお話を思い出していただきたいのですが、奈央と千景の二人は人間界から離れて長い。ジッパーや切り込み付きプラスチックで狂喜乱舞だったのである。Wi-Fiという高度な人類の文明のことなど分かるはずもない。二人してダブリューアイとは何かについて、もちろん頭を悩ませる。
「何ということだ。グググ先生に尋ねようにもダブリューのせいでこれ以上は何も尋ねられない」
「困った事態になってしまいましたね。ダブリュー、アイ……んー、どこかで聞いたことがあるようなないような」
「本当か? 頑張って思いだしてくれ、千景」
「んーーーー、何だったでしょうか」
「ファイトだ、千景! 頑張れ頑張れ千景。わぁーーーー!」
「ちょっとうるさいです。集中させてください」
ギャーギャーと騒ぎながら二人で頭を捻っていると……
「奈央ー! 千景ー!」
「「?」」
廊下をドタドタと走ってくる足音が聞こえる。そしてすぐに音の主であるナツキが姿を現した。
「なぁ、テレビが壊れたかもしれない」
「えっ!?」
「なんとっ!?」
ナツキの言葉を聞き、三人は急いでテレビのある部屋へ移動する。
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