夕焼けロンリネス

ぶいさん

第1話

 こんばんわ!あなたも百物語の参加者よね?

 ああ、よかった!実は私も企画を見て参加したくてやってきたんだけど、なんだか迷子になっちゃってもうこの辺30分くらい歩いてたんだあ。

 ナビ?ナビ見てるよ~!ナビがなかったらずっと迷子だよ~いやナビ見てても今は迷子なんだけどさ。なんか全然目的地にたどり着けなくって、あなたは道知ってるんでしょ!   

 そうよね!?え?あなたも道がわからないの???嘘でしょ…困ったわ…迷子が一人から二人になっただけだわ…一体どうすればいいの…



 え?百物語?私の話が聞きたいの?いやでもほかの人たちと合流しないうちに話しちゃうのってネタバレじゃない?ハラハラするの苦手だから先に聞きたいって?

 えー?じゃあ私が話す時ちゃんと怖がる演技してよね?



 前に私が先輩から聞いた話なんだけど、先輩は友達から聞いたって言ってたっけ。

 今はもう廃業してる古いボーリング場と親子の話。

 あるところに親子がいたの。阿藤さんって名前だったかな、父子家庭でお母さんとは離婚しちゃってお父さんと小学生の息子さんの利己りこくん二人きりだったんだって。お父さんは仕事に忙しくしていてなかなかおうちに帰ってこなかったけど、おうちから歩いてすぐのところにボーリング場があってそこにはお金がかからずに遊べる多目的ホールがあったからそこに利己くんはよく遊びに来てた。多目的ホールにはビリヤードやダーツなんかとちょっとしたゲーム機があったみたいだけど、利己くんが遊べるような小さい子向けのものはあんまりなかったみたい。


 私も小さい頃、もちろんこの話のとことは別だけどボーリング場って何回か行ったことあるんだけど、大人は楽しくても小さい子が遊ぶ感じのとこじゃなかったかなあ。父子家庭でどのくらいのお財布事情だったかは分かんないけど、たぶん裕福ではなかったんだと思う。


 利己くんはボーリングが出来るだけのお小遣いは持ってなくて、ゲームしてる子のゲームしてるとこをちょっと後ろから覗き見したり、ゲームが始まる前のイントロを眺めたりガシャポンのラベルや捨てられたカプセルを拾って遊んだりして、学校から帰ってお父さんが迎えに来るまでの時間を毎日そうやって過ごしてた。

 利己くんのささやかな楽しみは50円で買える自販機のヤクルト。コンビニで100円の紙パック買ったほうがずっと安いのにね、利己くんは知らないんだ。かわいそー。


 ボーリング場って間接照明で薄暗くて賑やかでわいわいしてて大人の遊びって感じしない?私はいまいち馴染めなかったかなあ。利己くんはおうちから遠くに遊びに行っちゃダメだって言われてたから毎日そこで遊んでたけど、もし近くに公園や図書館があったらそこに行ってたんじゃないかなあ。運が悪いよね。


 ある日、利己くんのお父さんがおうちに帰ると利己くんがいなかった。でもいつもみたいにボーリング場にいるんだなって思ってあんまり心配しなかったみたい。だけど待てど暮らせど帰ってこない。お父さんはその日とても疲れていて利己くんを迎えに行かないで居眠りしちゃったらしいの。

 ハッと起きた時には外は真っ暗で周りには遅くまでやってるお店もなくてボーリング場の灯りだけがぼうっと浮かんでるような状態で、利己くんはまだ帰ってきてなかった。だからお父さんは急いでボーリング場に利己くんを探しに行った。


 ボーリング場は閉店間際で、お父さんが「息子がいないんだ、お宅にいつも遊びに行ってるから一緒に店内を探してもらえないか」って頼んで、店内放送で呼びかけてもらってその場にいた数人いたお客さんも近所の人で阿藤さんちのこと知ってたから手伝ってくれてみんなで店内を探してくれたんだって。

 だけどどこにも利己くんはいない。見つからない。利己くんは(お金は落とさないけど)常連さんだったから受付さんがよく知ってて、従業員だけが通ることができる通用口も見せてくれたけど見つからない。


 お客さんが帰ってお父さんは従業員に「ここにいるはずなんだ探させてくれ」って続けたけど、ボーリング場だってお店を閉めて従業員を帰らせたいからって今日はこの辺で、あとは警察にって言われて締め出されちゃった。

 お客さんたちも大変だね心配だねとは言っても解散しちゃって、その日のうちに警察に駆け込んで「息子がいないんだ探してくれ」ってしたけど次の日もその次の日も利己くんはどこにもいなかった。利己くんは帰ってこなかった。お父さんは仕事を辞めて毎日毎日探したけど利己くんは帰ってこなかった。お父さんは今も利己くんを探してるんだって。


 え?ただの行方不明事件で、これのどこが怖い話なんだって?

 そうだね、私も最初そう思って先輩に「どこが怖い話なんですか?」って聞いたんだ。

 そしたらね、阿藤さんちの息子さん行方不明になる前、奥さんと離婚する前にね亡くなってるって話だった。

 おかしいでしょ?お父さんだけならともかく、ボーリング場の受付の人や従業員や近所に住んでる人たちも利己くんのことを離婚したあとも見てたんだ。


 一人でボーリング場に来て、遊ぶ姿を見かけてたんだってことがさ。お父さん一人ならお子さんを亡くされてってなるけどさ、何日もの間不特定多数の人々がボーリング場で利己くんの姿を見てたんだ。


 勘違いじゃないかって?そうかも。

 だけどそうじゃないかも~こわいでしょ~?利己くんはずっと迷子なのかも。どこか入っちゃいけないとこに入っちゃってそのまま出られなくなってるのかも。

 亡くなってたはずの子がみんなに見えてたって考えるのか、いなくなった子が実は亡くなってたことにされたと考えるのか私には分かんないけど、利己くんがどこかで迷子になっていまもおうちに帰れてないんだとしたら、かわいそーだよね。

 利己くん生きてたら私たちとおんなじくらいになってるかも…って、ひとしきり喋って「かわいそーだよね」って振り向いたら、誰もいないのひどくなーい?んもーっ迷子一人おいてかないでよね!


 なんだか夕焼けが目に痛い。

 あれっ?いつから夕焼けだったんだっけ…?

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夕焼けロンリネス ぶいさん @buichi

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