大正期の日本を舞台に、資本家の男性が不可解な事件に巻き込まれていくお話。
大正浪漫、いや『浪漫』という華やかな感じではないので実質ただの大正というか、とにかくおどろおどろしい話でした。ホラー、あるいは怪談のような伝奇のような。タイトル、キャッチ、紹介文の時点ですでに雰囲気バリバリ、本文に入ってさらに倍という、この徹底っぷりが印象的でした。
いつまでたってもお嫁さんのお腹の中から出てこない赤ん坊と、ひとりひとり存在ごと消滅していく友人たち。その謎を解明するというか、この邪悪でおぞましい何者かの根源に迫るため、猟奇的な曰くのある離れ小島へと向かう、というお話の筋。
ひたすら不気味な出来事ばかりが起こる中で、とどめとばかりに雪崩れ込んだ第三話の展開が特に好きです。あの孤島の、次々目の前に広がる悪夢のような光景。その描写が非常に鮮烈で印象深く、たとえ夢でも行きたくないなと心底思いました。
夢と現実の混じり合う世界で、おぞましくも圧倒的な怪異に翻弄されるようなこの感覚。古い時代に特有の不気味さというか、独特の雰囲気にとっぷり浸らせてくれる作品でした。