第8話(初キッス)
スカイの手を引っ張って小走りしていたのは、オズだった。
「オズ部長、何? 何?」
「いいから来て」
スカイは神社の裏手まで連れられて来た。他に人は居ない。
「幼なじみを独りに出来ない」
「良いものあげる。目を閉じて」
「分かった。こう?」
スカイは目を閉じると、唇に生暖かいものが触れる。オズはスカイにキスをした。…………2人は我に返り、一歩下がる。
「私のファーストキスだからね」
「オズ……部長…………」
「瞳が綺麗なブラウンね。明日は土曜日だけど部活に来て。それじゃ、幼なじみのところに戻りなさい」
オズは走って行ってしまった。
(これがキスの味? レモンの味しないぞ。ネイビーの浴衣が似合ってたな。魔性の部長だ。いかんいかん! メルの元へ戻らないと)
メルがスカイを探しにウロウロしてると見付けた。
「スカイ、こんなところに居た。急に居なくならないでよ」
「すまんすまん」
「何してたの?」
「え、あ…………。部活のブリーフィングだよ。さあ、花火が見える土手に行こう」
「変なの。行こ」
スカイとメルは丘に座り、打ち上げ花火を観ながら焼きそばを食べる。
「1万円だけあって、かなりのボリュームだな」
「私、もういい」
「5分の1くらいでいいのか?」
「お腹いっぱいだよ~。あと食べて」
「仕方ないな」
スカイは焼きそばを食べながら、花火を観る。スターマインが始まった。2人は迫力に圧倒される。何千発の打ち上げ花火が、復興の意味も込めて盛大に開花する。
「凄いね」
「ああ。メル?」
メルの頬に涙が伝っていた。
「私、何で泣いてるだろ? 変だよね、フフフ」
「そういう時もあるさ」
祭りのシメは一発の特大花火で終わった。帰り道。人混みが散っていく。
「メル、ちょっとスーパーマーケットに寄るから」
「うん。何買うの?」
「お惣菜。2万5000円もあるから、もっと良いものが買えそうだ」
「お肉が買えるよ」
「おっ。モツでも買うかな」
スカイとメルはスーパーマーケットの精肉売り場へ行く。客は疎らだ。浴衣を着た家族もちらほら居る。
スカイはスーパーマーケットの肉をじっくり品定めする。
「スカイ、この味付けモツが安いよ。300グラムで1万7000円だよ」
「寿命なら25分ってところだな。早く15歳になりたい」
「食べ物を買うのに命を削るなんて怖いよ」
「15歳になれば、嫌でもGLのお世話になる。メルの親の漫画は紙媒体でも重版されてるでしょ。将来安泰じゃん」
「祖父がギャンブルで使い込んでるけどね」
「GL依存症か」
スカイは、メルが提案した味付けモツを手に取り、レジへ行く。AIロボットの店員だ。スカイは現金支払いして店を後にしようとした時、AIロボット店員は「チッ」と舌打ちをした。大人に使われてるAIロボットは寿命支払いでないのが気に入らないようだ。
スカイはメルを自宅まで送る。
「また来週ね。おやすみ」
「おやすみ。じゃあな」
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