三話 『サイヴェルの街並み』
「さて、今回の報告はこの辺りかな」
書類にまとめた内容をカザネはその言葉で締め括った。
ハヤトの件は結局、処理ができない案件として扱われることとなった。まあ、当然と言えば当然である。
「さて、改めて確認ですが、このあとハヤトさんは、カザネに街の案内をしてもらうんですよね?」
ヨシュアのその確認にハヤトは一つ頷いて肯定する。
当初の予定では、その後はカザネの要件が終わるまで街を散策して、一緒にジュエン壁林の小屋に戻るという予定だった。予定だった、と過去形なのはもちろん変更があったからだ。
一つは、カザネが運び込んだ機材の解析をヨシュアとレナが受け持つことになったため、サイヴェルの案内を終えた後、カザネはそのまま小屋まで戻ることになった、ということ。
もう一つは
「で、終わり次第、ハヤトくんは僕と別れて、ここに戻ってくる」
そう。急遽、ハヤトに予定が入ったのだ。
結論から説明してしまえば、ハヤトは、現状まともに生活できる状態ではなかった。
基本的に、魔法は置いておくとして、魔術はマナを使用者自身が、その魔術を発動させる媒介に流し込む必要がある。
そしてハヤトは、そのマナが圧倒的に不足していたのだ。具体的に言ってしまえば、ハヤトが測定器を使用した際に流し込まれた分だけである。
つまりは、手首から先の痺れが残っている部分のみ。
しばらくすれば、痺れは消え、体全体にマナが行き渡るとのことだが、それでも取り込むことができているのは、ごく少量である。故に、その少量のマナだけでは、魔術を使用して、生活するということすら不自由になるということだった。
たしかに時間をかければ、不自由ない程度に回復するらしいが、それを待つくらいなら、ということで話が決定したのだ。
例えて言えば、脱水症状を起こした人に点滴をするようなもの。
外部からマナを流し込んで、一般的なレベルまで回復させるということだ。
「一晩くらいかかるんでしたっけ?」
「そうだね。マナ濃度を高くした部屋で一晩過ごして、取り込む量を増やすの。まあ、ちょっと気分が悪くなるだろうけど、そこは我慢してね」
おそらくは、気圧差で気分が悪くなるのと同じような理由だろう。レナの言葉にハヤトは、元いた世界での現象と照らし合わせて、なんとなくの理解を示す。
しかし、その程度でなんとかなるのであれば、ハヤトとしては願ってもないことには違いない。
聞けば、完全にゼロになったマナをフルに戻すには数ヶ月程度の時間を要する場合もあるということなのだ。それが一晩でなんとかなるのであれば、多少の不調など受け入れるというものだ。
「それ以外に問題がないなら、俺は大丈夫です。それより生活に支障が出る方が問題ですし」
「そうだね……というか、改めてだけど、私も初めてマナがからっけつになった人を見たよ。ハヤトくんが何らかの方法を利用したと仮定したとしても、そんなにマナを消費する方法なら、汎用性もあったもんじゃないね」
軍事利用などの観点での問題だろう。
ハヤトからすれば、世界すら股に掛けて転移しているのだ。リソースをどれだけ消費したらそんなことができるのかすら想像できないその行為。しかし反面、その問題すら解決してしまえば、加えて、転移者の意図する場所への転移を可能とするのであれば、それは十分利用できる代物と化す。
ともあれ、そんな心配をしないといけない程度には、安穏とした世界ではないのだと言外に理解したハヤトは、一人安堵の息を漏らしていた。
それも当然のことである。今回はカザネに助けられたからこそ、こうして身の安全は保てているが、少しでも間違えていれば、こうはならなかったかもしれない。もしかしたら、命だって失っていたかもしれない。
元いた世界で、どこか生きることを諦めていたからと言って、現状を考えてしまえば、生存の目を掴むことができたことを喜んでいいはずだ。
そんなハヤトの安堵を知ってか知らずか、カザネは話が脱線し始めたところで手を打った。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。僕も日が落ちてから街の外に出るのは避けたいし、少し巻きで案内するけど、いいかな?」
「はい、行かない方がいい場所があれば、そこだけ教えてもらえるだけでも十分です。それ以外は自分で散策することもできますし」
そのハヤトの言葉に、カザネは頷き返して、その手にカバンを持った。
そうして、短い挨拶だけ交わして、ハヤトとカザネは研究所を後にするのだった。
* * * *
サイヴェルの街は基本的に三つのブロックから成っているらしい。
一つは居住区。街の中央に位置するそれは、その名の通り、街で暮らす住人、加えて、街に訪れた者にとっての一時的な滞在場所となる区画らしい。
「ここの道を挟んで向こう側がそれ。僕個人としては、あまり訪れるのはおすすめしないかな」
緩やかにカーブしている道の先。研究所を出て、歩いてすぐの場所。表情を消して、若干険のある雰囲気を作りながらカザネが指した先が居住区ということらしかった。実際にその先には街に入った時に見かけた商店のような建物や研究所のような建物は存在しておらず、煙突やベランダなどを備えたあからさまな住居が立ち並んでいた。
「いきなり行かない方がいい場所ですか……ちなみにただの居住区ですよね? なんでまた?」
治安が悪いとは到底思えない。いや、多少のいざこざはあるのかもしれないが、それが横行しているような環境ではないだろうことが、少し見ただけのハヤトにも理解できる。
だと言うのに、なぜそんな環境で住んでいる者たちがいる場所に、足を踏み入れることをおすすめしないのだろうか。
「当然だけど、何があるかわからないからね。万が一があった場合、誰かの目に留まる可能性が少しでもあった方がいい。だったら、お世辞にも道が広いと言えない居住区に足を運ぶのは悪手ってことだよ」
「なるほど……どこにもそういう輩はいるってことか……」
そういう場所に足を踏み入れない限りは、多少なり身の安全が保証されているだけマシなのだろう。
そんなことを考えながらのハヤトの呟きに
「それに、キミの服装はそれだけでお金を持ってそうって連想されかねないからね。キミがどうであれ、上等な服を着ているっていうのはそれだけで、そういうステータスを持ってるということと同義なのさ」
苦笑を交えながらのそんな一言にハヤトは、言葉に詰まると同時に、はたと一つの結論を導き出した。
「それってつまり、是が非でもって考えてる奴らからしたら、一人になった瞬間、俺は格好の餌ってことですよね?」
「うん、だから僕としては今のうちに服だけでも買っておくことをおすすめするよ。もちろん、建て替えておいてあげるからさ」
借金ということか、という言葉は口には出さない。
無一文であることは確かだ。言葉の節々から、今着ている服を売ればある程度の資金は補充できるのだろうが、それでもそれが最後の手段であることには違いないだろう。
この先、万が一があった場合に、そういう手段が残っていた方がいいことは容易に想像できる。
その保険が残せるのであれば、ハヤトからすれば、その提案は渡りに船だった。
「もちろん、ハヤトくんの状況も理解してるから、返すのはいつでも構わないよ。どうする?」
「正直、ここまでしてもらって申し訳ないですけど、お願いできますか?」
「うん、わかった。それじゃあ、早速だけど向かおうか」
にへら、と相好を崩して、カザネはその先にあるだろう商業区へ足を向けるのだった。
さて、これはどうしたものだろうか。
商業区は居住区の目と鼻の先にあった。おそらくは、生活における動線の効率化を図った結果なのだろう。街の中心にある居住区を囲うようにして、ずらりと立ち並んでいた建物。そのいずれもが、何らかの商店だったというわけだ。
そして現在、ハヤトは渋面を作りながら、カザネの腕に乗せられていく布の量に頭を悩ませていた。
カザネの案内で服飾を取り扱っている店舗に足を踏み入れたハヤトは、そのまま店員の勧められるままに、カザネが抱えていく大量の服を眺めていたのだった。
布を専門に扱っている人間である。当然、ハヤトの着ている学ランが、この世界で上等な部類に属しているのを、一目見て理解したのだろう。それを身に纏っている人物がどのような人間であるかも、理解したのだろう。
自分の店のアピールをしようと、躍起になっている女性を前に、当然ではあるが、そんな身分ではないハヤトは頭を抱えるしかできなかったのだ。
いや、確かに否定してしまえばよかったと言えばそれまでだろう。
だが、そんな隙など、一ミリ足りともなかったのだ。入店して開口一番、いらっしゃいませの言葉と同時に少々お待ち下さいからのカザネハンガー化である。
断る隙などなかった。気がついたときには断りづらい雰囲気すら出ていた。
そうして、カザネに追加で一着の服が乗せられ、更に服を店の奥から持ってこようとしたのだろう。店員が奥に引っ込んだ辺りで、カザネが服の向こうから声を掛けた。
「どう、する……? 全部試着、してみる……っ?」
声が震えている。見ればわかる。相当な重さ故に体が震えてしまっているのだ。当然、声が震えるというものだ。
そんなカザネに憐れみを感じつつ、ハヤトは
「いや、流石に、その中から選ぶって言っても、よくわからない状態になってますし……」
そう言いながら、ハヤトはぐるり、と店内を一望。
ショーウィンドウの脇に掛けられていたモノトーンで統一されたシャツとズボンを手にとった。
「これでいいかな。ちょっと試着してきます」
「お、おいおいおい……待ってくれ。待って。ねえ、待って? そんなに簡単に決まるなら僕の今まで苦労ってどうなるの? これ、持ってた僕の労力ってどこにいったの?」
自分の苦労が水の泡になることに気がついたのだろう。まくし立て始めたカザネを尻目にハヤトは店のカウンターから身を乗り出して店員を呼ぶ。
「すみません、店員さん。これ、試着させてもらえますか?」
「はい! って、こちらでよろしいのですか!? もっと上等な物を用意することもできますが――」
「いえ、動きやすさを優先しようと思っていたので、こちらで大丈夫です」
「おーい、ハヤトくんー?」
カザネには申し訳ないが、ハヤトとしては、あの量の服から一着を選ぶなど土台無理な話なのだ。
正直、夢に出そうなほどである。よって、ここは無視して自分で選んだ服で勝負を仕掛けるという判断に出たのは、何も無理のないことと言えた。
* * * *
「いや、まじで申し訳なかったって思ってるんですって」
取り急ぎの服を手に入れることに成功したハヤトは、現在、店の前でカザネに向けて平謝りを敢行していた。
一方で、カザネは明後日の方を向いてへそを曲げている。内心、誰得なんだろうか、という考えが頭をよぎるが、そんなことを口にして、さらにヘイトを溜めては意味がない。というか、こんな状況でも律儀にお金を出してくれたこと自体が驚きである。
むしろ、キミが決めたんだから自分で払えばいいんじゃないかな? とか、そういうことを言われるんじゃないか、と思っていた節もあったハヤトからすれば、この場でご立腹な態度を取られているだけ、まだマシだったのかもしれない。
とは言えである。
「居住区と商業区は紹介してもらえましたけど、その他って何かあるんですか?」
「つーん」
いい歳した男が何をしているんだろうか、と思いっきり漏れそうになったそんな言葉とため息を、必死の思いで飲み込んでハヤトは
「ホント機嫌直してくださいって……俺に手伝えることがあるなら、手伝いますから……それでなんとか手打ちにしてくれませんか?」
手打ちとは、なんとも物騒な言葉ではあるが、言い得て妙である。
そんなハヤトの言葉に思わず吹き出して、カザネは破顔した。
「仕方ないなぁ……とりあえず、ハヤトくんのマナの問題が片付いたら、魔術の使用の練習も兼ねて、フィールドワークの手伝いでもしてもらうからね?」
「その程度でいいなら、いくらでも。というか、もしかしてそんなに機嫌損ねてなかったです?」
「なんのことやら。あぁ、ちなみにさっきの他にはないのかって質問だけど、主要な場所としては、行政区ってのがあるよ」
あからさまに脱線した話を戻して、カザネは指を立てて残る場所の名を告げた。
行政区。おそらくは、サイヴェルにおける法的処置を取り仕切っている場所だろう。ともすれば、それなりに街の中心付近に位置しているはずではあるのだが、その中心自体が居住区となっていたはずだ。
そして、その外縁部分が商業区であるなら、その他にはどこがあっただろうか。
あるとしたら、研究所があった一画だろうか。しかし、あそこは、ほぼ居住区に隣接しているような場所だったはずである。周りの建物も、行政を取り仕切っているような雰囲気のあるようなモノではなかったと記憶していた。
そんな疑問にハヤトが首を傾げていると
「まあ、区画と言うと語弊があるかもしれないね。役所とも言えるんだけど、僕らが行った研究所がサイヴェルの役所に当たるんだよ。ちなみに、隣接してる建物はすべて衛兵とかの駐屯所だったり、仕事を斡旋してくれるギルドだったりする。だから、居住区と商業区に隣接してはいるけど、実質、あそこが行政区ってわけだ」
なるほど。要塞都市であり、学問を主とする都市であるサイヴェルならば、そうした場所が行政の中心を担うこともあるのだろう。
こうして、サイヴェルを見てみれば、ふと疑問に思うことがいくつかあった。
確かに、人が住む場所があり、物資を手に入れる場所があり、それらを取りまとめる役所が存在している。それだけを見れば必要なものは揃っているようにも見える。
しかし、それでは足りないのだ。
所謂、生活感。ライフラインと言うべき、ソレが一切見当たらないのだ。言ってしまえば、サイヴェルの街はまさしく、機械の街というような印象を持ってもおかしくはなかった。
「カザネさん。サイヴェルって水源とかどうしてるんですか? まさか、毎日街の外に出て、汲んで来るとか言いませんよね?」
「えっ? あぁ、うん。それは違うよ。この下。サイヴェルの外壁と街の中っていうのかな。そこで地面から水を汲み上げて、各建物へ供給するパイプが敷かれてるんだよ。まあ、こういう立地だから、作物とかはさすがに外で作るしか方法がないみたいだけどね」
「だから、ほとんどの場所が土じゃなくて、石畳なんですね。それにしても……パイプで水源から供給してるんですか……」
一体、どれだけのパイプがこの下には張り巡らされているのだろうか。
そのことに若干の気味の悪さを感じながら、ハヤトはそのイメージを頭の片隅に押しやるのだった。
「さて、案内としては、大体このくらいかな。詳しいところは、あとで自分で散策してもらうとして……一応、三日が滞在期間だけど、ヨシュアくんに言えば、取り次いでくれると思うし、慣れるまではお世話になるといいよ」
おおよその案内が終わり研究所の辺りまで戻ってきた頃。日が傾き始めている時間帯。
カザネの言う通り、日没前に小屋に戻ろうと言うのであれば、そろそろサイヴェルを発たなくては、間に合わないだろうということが、行きにかかった時間から予想できる。
「あれ? マナの回復が終わり次第、小屋まで向かわなくていいんですか?」
当初の予定は、ジュエン壁林の前の小屋で生活をする、ということだったはずだ。
いつの間にそれが変更になったのだろうか、とハヤトが首を傾げているのに対して、カザネは困ったように頭を掻きながら
「いや、見晴らしのいい草原とは言え、誰の案内もなく、一人で歩くような場所でもないからね。僕が次の報告をしに来るまでは滞在してくれると僕としては助かるかな」
「えっと、それってヨシュアさんたちは知ってるんですか?」
「多分わかってるんじゃないかな?」
つまりは、伝えてないがそうなるだろうと理解してるということだろう。なんとも無責任ではあるが、その辺りは互いに理解しているからこその対応なのだろうと、ハヤトは無理矢理に納得して、一つ息を吐き出した。
「ついでに魔術の指南も受けておけってことですか」
「まあ、何もしないで日がな一日を過ごすよりは有意義になるんじゃないかな? ハヤトくんとしても、居心地が悪くはならないと思うし」
それもそうだろう。厄介になっているにも関わらず、何もせずダラダラと時間だけを浪費するというのは、居心地が悪いことこの上ないことが容易に想像できた。
だからといって、二人に時間を割いてもらって魔術の指南を受けるのも、なんというか、それもそれで居心地が悪くなりそうではあったが、何かしているということが前提にあるのであれば、まだ後者の方が幾分マシというものである。
そのことに、ハヤトは降参と言わんばかりに両手を挙げて、カザネの提案を受け入れたのだった。
「それじゃ、僕の方もそんなに時間は空けないようにするけど、くれぐれも気をつけてね。やたらめったら、居住区に足を踏み入れるのもやめておいた方がいいってのは服装を変えても変わらないからね?」
「あー、はいはい。わかってます。というか、保護者ですかって」
「現状、保護者みたいなもんだろう?」
あながち、全くの見当違いではなく、むしろ正しいとすら思える言葉に、ハヤトは口をへの字に結んだ。
そんなハヤトの顔を面白そうに眺めながら、一言、別れの挨拶を交わして、カザネはラプトが引く荷台に乗り、ソレを走らせはじめた。
――その姿が見えなくなった、その直後のことである。
これらから数日、厄介になるということを伝える必要があると、若干憂鬱な気分になりながら、ハヤトが踵を返すように、その足を研究所に向けたところで。
その扉が開け放たれ、ヨシュアが転がるようにして外に出てきた。
「ハヤトさん、カザネはすでに!?」
「えっと、ちょうど今さっき、竜車……でしたっけ。それに乗って小屋に戻って行きましたけど……」
「くっ……今から追いかけて……間に合うはずもないか……だからといって、明日に回して何も起きない保証も……」
頭を掻き毟りながら、ヨシュアは状況の整理に努めようとしているが、その言葉の節々からわかる程度には、その努力は無駄に終わっていた。
堂々巡りに陥っている思考。
何も知らないハヤトですら、察することができる。逼迫している可能性が高いという状況と、ソレに対する対抗策が現状、見いだせていないという状況。
「落ち着いてください! 何もわかっちゃいないですけど、話すことで整理が着くこともあります。順序がめちゃくちゃでも、とっ散らかった内容でも、わかってることを独り言でもいい。話してください!」
だからこそ、ハヤトはヨシュアの肩を掴んで、言葉を投げつける。
そんなハヤトの言葉に、ヨシュアも多少の冷静さを取り戻したのだろう。
渋面はそのままに、その足を研究所の中に向け
「ハヤトさんも中へ。緊急ミーティングを開きます」
「えっと、俺も参加していいんですか? 何も専門的な知識を持っては――」
「今は少しでも意見が欲しいんです。申し訳ありませんが、巻き込まれてください」
そうして、カザネはハヤトの返事を聞かず、研究所の奥へと進んでいってしまう。何がどうあれ、発端はハヤトである。発破を掛けた本人が、そして掛けられたヨシュアが参加することを望んでいるにも関わらず、それを無視するのはハヤトにはできないことだった。
だからこそ、研究所に入っていったヨシュアの背中を眺めていたハヤトは、しっかりと気を引き締め、置いていかれないように、と足早にその後を追うのだった。
そして、一つの異分子を孕んで、事態は急変していく。
いや、あるいは一つの異分子が組み込まれたがゆえに、事態が急変した、と言えるかもしれない。
そのことを今は誰も知らない。
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