庚と竜神【2:3:0】45分程度
嵩祢茅英(かさねちえ)
庚と竜神【2:3:0】45分程度
男2人、女3人
45分程度
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●時代背景、舞台
明治~昭和、電話が一般家庭に普及していない頃の日本。
山沿いの里にある一軒家に引っ越してくる。
海沿いの町は栄え始めており、里から町へ引っ越していく人が増えている。
●登場人物
池内
野良の竜神様に気に入られた主人公。さっぱりとした明るい性格。小学校教諭。
里田 ヨシエ(イト、兼ね役)
庚の祖母。人に視えないモノが視える体質であり、軽いお祓いなどができる。温厚な性格。
池内
庚の夫。小説家。まじめな性格で、庚の自由な振る舞いに惹かれて交際を申し込んだ。
池内
庚と嘉人の子供。5歳。竜神様が視える。
田ノ中 イト
庚達が引越してくる家の隣人。息子夫婦と孫たちとともに暮らしている。
農家だったが、歳を考え自宅で消費する分の田んぼを残し、残りの田んぼは売却した。趣味程度の家庭菜園もしており様々な野菜を育てている。
田ノ中
イトの息子。農家は継がずに町で会社勤めをしている。
田ノ中
満の嫁。満とは社内結婚であり、実家は町にある。
田ノ中
満と三枝の子供。8歳。長男。
田ノ中
満と三枝の子供。6歳。長女。
田ノ中
満と三枝の子供。3歳。次女で末っ子。
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「庚と竜神」
作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)
庚♀:
嘉人♂:
奏多♀:
イト♀:
満♂:
----------
満(ナレーション)「これは
ある夕方のこと。横を向いて寝ていると、急に体が動かなくなり、ずしりと『何か』が体の上に乗る気配がした。
金縛り?初めての体験に気持ちは
動け、動け、動け。
そう思って体を動かそうとしても、動いているのか、いないのか、分からないくらいの感覚しか
長いこと格闘していると、ゆっくりと体が動かせるようになってきた。
だが、少し態勢を変えた所で、上に乗っている『何か』は、猫の様に態勢を変え、
数回態勢を変えた所で、乗っかっていた『何か』は諦めたのか、体がスッと軽くなった。
急いで起き上がると、祖母の元へ行き、今あった出来事を話した。
祖母は普通の人が視えないモノが視え、そのモノが何を伝えたいのか分かる人だった。
今さっき寝ていた所へ祖母を連れて行くと、祖母はクスクスと笑った。」
イト→ヨシエ「お前は
庚「竜神様?」
イト→ヨシエ「そうさ。水に
庚「竜神様…あっ、そういえば。」
満(ナレーション)「学校行事で、先日ある寺へ行った際に買った、龍の形を
竜神様はお守りを
わざと右に落ちるようにしても左に落ちる。『
それから十数年経って、現在。」
(間)
嘉人「海が見える所で山の近く…今回はキミの希望通りの物件なんじゃないかな?」
庚「そうねぇ!竜神様が気に入ってくれるといいんだけれど!」
満(ナレーション)「竜神様の助言もあり、こだわった立地。海側の町は賑わいがあり、山の方の里はまばらに家が建っている。新居を探すに当たり、夫婦で色々な物件を見て回っていた。
古い
竜神様はお守りからニュルニュルと出てきて物色をし始める。祖母の血を継いだのか、竜神様の姿は、
竜神様の小さな足が、床の匂いを
奏多「おかあさーん!おとうさーん!」
嘉人「ん?どうした?その皿は?…小魚?そんなもの、どこで見つけてきたんだ?」
庚「どうしたのー?」
嘉人「
奏多「飼ってもいーい?」
庚「んー、竜神様に聞いてごらん」
満(ナレーション)「一人息子の
奏多「りゅうじんさま、おさかな、飼ってもいーい?」
満(ナレーション)「竜神様が魚の入った皿に顔を近づける。モゴモゴと口が動き、何かを
と、思うと家の中にも関わらず、強い風が吹き、
奏多「わぁっ!」
嘉人「なんだ、どうした?!」
満(ナレーション)「勢いよく飛ばされた
奏多「…うわーん!!りゅうじんさまのばかぁー!!!」
嘉人「なんだったんだ…?」
庚「…きっとあの魚も『良くないモノ』だったのよ」
満(ナレーション)「竜神様は、魚のことなど無かったかのように、家のあちこちをせわしなく見て回っている」
嘉人「
庚「ごめん、お願いね。こっちは片付けておくから」
(間)
嘉人「おーい、
奏多「ぐずっ」
嘉人「なんだ、泣いてるのか?」
奏多「だってりゅうじんさまがぁ!」
嘉人「
奏多「…ぐずっ、おさかな、かわいそうだもん…」
嘉人「吹き飛ばされた時、
奏多「うん、だいじょうぶ」
嘉人「竜神様は、
奏多「…でもさぁ、おさかなかわいそうだよ…おさかな飼いたかったぁ…」
嘉人「そういえば、さっきの魚はどこで見つけてきたの?」
奏多「お外においてあった」
嘉人「そんなものあったかなぁ?気付かなかった」
奏多「ぐずっ」
嘉人「
奏多「…なってないけどさぁ…」
嘉人「なら、今度川で魚を獲ってこよう!」
奏多「ほんとう!?」
嘉人「ここに住むことに決まったらね」
奏多「やくそく!」
嘉人「あぁ、約束。その時も竜神様に見てもらってね」
奏多「う…うん…わかった…」
嘉人「よし、いい子だ!」
満(ナレーション)「そう言いながら
竜神様。
夫の
(間)
庚「
嘉人「あぁ、大丈夫。怪我もないし、今度、川で魚を獲りに行く約束をしたら、機嫌も直ったよ」
庚「そう、なら良かった!」
嘉人「ところで、この物件はどうなのかな?」
庚「あぁ、ここに決めた!竜神様、屋根の上で寝ちゃったみたい!
すっかり気に入ったのねぇ…」
嘉人「僕にも視えたらいいのになぁ…」
庚「いいものばかりが視える訳じゃないわ。
嘉人「まぁ、そうなんだけどね。
さて、決まったのなら紹介してくれた知人に知らせて来ないと。どこかで電話を借りてくるよ」
庚「ありがと!」
(間)
庚「んー!とにかく引っ越し先は決まった!荷物を持ってくるのも大変だけど、その前にキレイにできるところはキレイにしておかなくちゃ!」
奏多「おかあさん、おとうさんは?」
庚「電話を借りに行ったよ!それと、ここに住むことにした!」
奏多「ほんとう!?」
庚「本当!」
奏多「じゃあ川でおさかな、とるんだ!川をさがさなくちゃ!」
庚「あまり遠くに行っちゃダメよー!」
奏多「はーい!」
庚「さて、とりあえず部屋を物色して…」
イト「こんにちはぁ」
庚「!こんにちは!」
イト「ここに引っ越してくるのかい?」
庚「はい!」
イト「若い人がこんな山へなんて珍しいねぇ。みんな町の方に行ってしまうのに」
庚「そうなんですか?私はここ、好きです!」
イト「そうかい、何か手伝えることがあれば遠慮なく言っておくれな」
庚「ありがとうございます!荷物を運ぶ前に、家をキレイにしたいんですけれど、バケツと
イト「あぁ、構わないよ。少し歩くが、取りにおいで」
庚「ありがとうございます!」
イト「ここに来る途中、小さい坊やを見かけたが、息子さんかい?」
庚「ええ!川を探すって。魚を飼いたいらしくて」
イト「それならちょうどいい。近くに
庚「魚ってエサ、何をあげればいいんですかねぇ?」
イト「虫やミミズをあげればいい。ここらは魚のエサになるような虫も捕れる。坊やも退屈しないで済むだろうさ」
庚「なるほど…」
イト「さぁ、アレがウチだ。」
庚「わ!立派なお
イト「昔はね。ここの他にも、裏庭に野菜がなっているよ」
庚「素敵!私でもできますかねぇ?」
イト「手間をかけてやれば、よく育つさ。さて、ホウキとバケツはこれ、っと。
庚「はい!ありがとうございます!
(息を吸う)…やっぱり空気が美味しい。ここに決まって良かったー!!」
イト「よいしょ、お待たせ。バケツに入れておこうねぇ。
うちの息子夫婦は、町で仕事をしていてね。」
庚「そうなんですね!」
イト「おっと、そういえばまだ名乗ってなかったね。
庚「池内です!よろしくお願いします!」
イト「旦那さんは?」
庚「今、電話を借りに出ています。すぐ帰ってくるかと」
イト「そうかい。旦那さんも町で仕事をするのかい?」
庚「いいえ、旦那は物書きなんです。なのでずっと家にいる予定です。」
イト「なんと、先生かい!お近付きのしるしにサインでももらっておこうかねぇ」
庚「あっはっは!まだ
イト「これから有名になるかもしれないだろう?」
庚「だといいんですがねー!」
イト「お嬢ちゃんはどうするんだい?」
庚「お嬢ちゃんはよしてください!小学校の教員免許を持っているので、赴任先を探します!」
イト「夫婦して先生かい!こりゃあうちの孫がお世話になるかもしれないねぇ」
庚「お孫さんはお
イト「上が8歳、真ん中が6歳で、1番下が3歳だよ」
庚「3人も!すごい!」
イト「ここらじゃ珍しくもないさ。坊やは
庚「5歳になったばかりです!もー、ヤンチャで!」
イト「子供は元気すぎるくらいがちょうどいいさぁ」
嘉人「あっ!いた!誰も家にいないから心配したよ…あ、どうも、こんにちは!」
イト「どうも、隣の田ノ中と言います」
嘉人「池内です。」
イト「作家の先生だそうで!」
嘉人「いやぁ、先生はよしてください、照れます」
庚「バケツとか借りたの!」
嘉人「そうだったんだね、ありがとうございます!」
イト「いいや、これからよろしくねぇ」
嘉人「こちらこそ!ところで
庚「川を探しに行くって出てったよ」
嘉人「えっ、1人で行かせたの?」
庚「うん」
嘉人「迷子になったらどうするの!」
イト「ここらは危ないところは少ないから大丈夫だろうけど、慣れない土地だからねぇ」
嘉人「ちょっと探しに行ってくるよ」
イト「あぁ、じゃあこれを…魚を獲るんだろ?
庚「やだ!そんなものまで用意してくださってたの?本当にすみません!」
イト「いいよいいよ、うちの孫たちの物だ。いずれ一緒に遊べるといいねぇ」
嘉人「すみません、じゃあお言葉に甘えてお借りしますね」
イト「はいよ、たくさん獲れるといいねぇ」
嘉人「ははっ、頑張ります!」
イト「さて、じゃあ外はホウキで
庚「えっ!そんな、悪いです!」
イト「なぁに、暇な老人の相手をしてもらってるだけだよ、気にしなさんな」
庚「何から何まですみません、それじゃあ私は
イト「旦那さんに呼び水の用意を頼めば良かったねぇ」
庚「あはは!確かに!出ることを祈っていてください!」
満(ナレーション)「出ない訳がない。そう確信しているのは『竜神様』がいるからだ。ポンプのハンドルを上下させ、しばらくすると勢いよく水が出てきた」
(間)
イト「水は出たかい?」
庚「はい!たっくさん!」
イト「そりゃあ良かった。
庚「あっ、そういえばこんな立派な家なのに、空き家だったのが不思議で」
イト「なぁに、町に引っ越して行ったんだよ。珍しくもない理由さ」
庚「なるほど…でもそのお陰でここに住めるならありがたいです!」
イト「住む人がいれば、家も喜ぶってもんさ」
庚「はい!私、この家も、里も、海も気に入りました!!」
イト「あっはっは!そりゃあいい!里も賑わってくれれば嬉しいよ。
荷物はいつ持ってくるんだい?」
庚「うーん、来週辺り運ぼうかなぁ。それまでに家をキレイにしておかなくちゃ!」
イト「楽しみだねぇ」
庚「ええ!じゃあ私、廊下を水拭きしてきますね!」
イト「はいよ、外を
庚「ありがとうございます!
さて、掃除のし
(間)
イト「おおーい、外の掃除、終わったよー!」
庚「わぁ!ありがとうございます!」
イト「そうしたら、ハタキをかけられるところをかけて回るかねぇ」
庚「お願いします!」
(間)
嘉人「ただいまー」
奏多「ただいまー!」
庚「あら、おかえりー!」
イト「おかえり、魚は獲れたかな?」
嘉人「たくさん獲れました!色々貸して頂いて、ありがとうございます!
奏多「こんにちは、ありがとう!」
イト「あらぁ、いい子だぁ。どれ、魚は…こりゃあ大漁だ!良かったねぇ!」
奏多「うん!!りゅうじんさまにも見せてくる!!」
イト「…竜神様?」
嘉人「あっはは、まぁ、なんというか…」
イト「ここらの里は田舎だからねぇ、
そうか、坊ちゃんは竜神様を
庚「私の祖母が、視える人だったんです。私は…竜神様しか視えないけれど、ずっと世話になってるんです」
イト「なんとまぁ!それじゃあ里にも恵みがあるかもしれないねぇ!」
奏多「おかーさーん!りゅうじんさまが、飼ってもいいって!」
庚「良かったねぇ!って、小魚の他にも大きな魚がいるじゃない!」
嘉人「そうなんだ、大きい魚は田ノ中さんに。ぜひもらってください」
イト「いいのかい?なんだか悪いねぇ」
嘉人「いえいえ!道具を貸して頂いたお陰で獲れたんですから!」
イト「じゃあ、ありがたく貰っていくよ」
庚「ぜひ!たくさんお手伝いしてくださって、ありがとうございました!」
イト「いいのいいの、また何かあったら頼ってきなね。
さて、そろそろ息子夫婦も帰ってくる頃かな。良かったら夕飯を食べに来なさい」
庚「えっ!いいんですか?!」
嘉人「ちょっと、
イト「あっはっは!遠慮はなしだよ。孫たちも喜ぶさ。私は先に帰るから、ひと段落したらおいで」
庚「はい!ありがとうございます!」
(間)
嘉人「竜神様のこと、言って良かったの?」
庚「大丈夫でしょ!都会で言ったら変な顔されるかもしれないけど!この里は良いところだわ!」
嘉人「君がそれでいいのなら、いいけどさ。あんまり誰にでも言うのはよしなよ」
庚「大丈夫よ、私、この里が気に入ったもの!竜神様も気に入ったみたいだし!」
嘉人「理由になってない」
庚「きっと皆、いい人よ」
嘉人「ふぅ…そうだね」
(間)
庚「お邪魔しまーす!池内でーす!」
イト「やぁやぁ、待っていたよ。さぁさ、お上がりなさい」
庚「お邪魔します!」
嘉人「お邪魔します、ほら
奏多「おじゃまします!」
イト「ほんと、坊やはいい子だねぇ!」
奏多「えへへ!」
満「こんばんは!母から話は聞きました!里に引っ越してくるんですって?」
嘉人「ええ、よろしくお願いします」
満「こちらこそ、よろしくお願いします!おーい!
奏多→三枝「はーい!」
満「こちら、妻です」
嘉人「急に
奏多→三枝「いいえー!子供たちも喜びます!ささ、立ち話もなんですから、中へどうぞ!」
満「お二人とも『先生』と聞きましたよ」
庚「あははっ!私は教員ですが、夫は物書きなんです!」
奏多→三枝「凄いですねぇ!
嘉人「いやぁ、まだまだ
満「いやいや、
嘉人「安定した職も考えたんですけど、妻が自由にさせてくれているんですよ」
奏多→三枝「あら、素敵!」
庚「あははっ!楽観的なもので!…んっ!いい匂い!」
嘉人「わぁ!豪華ですねぇ!!」
奏多→三枝「田舎料理ですが、お口に合うと嬉しいです」
奏多「おいしそう!」
満「
嘉人「ええ、好奇心旺盛で」
奏多→三枝「いい事です、うちの子たちとも遊んでくれると助かるわ!」
庚「うちも落ち着いたらぜひ遊びに来てください!」
奏多→三枝「ふふっ、そうさせて貰います!楽しみ!」
イト「ささ、こっちに座りなさい」
庚「失礼します!」
イト「待ってたよ、どれもうちで採れた野菜を使ってるんだ、たくさん食べていっておくれ」
庚「はい!」
奏多→三枝「さ、みんな座ってー!ご飯食べるよー!」
満「じゃあ、いただきます!」
皆「いただきまーす!!」
奏多→三枝「
庚「はい!」
満「じゃあ
奏多→三枝「
庚→雄太「田ノ中
イト→比奈「田ノ中
イト→麻衣「……」
奏多→三枝「まーいー」
イト→麻衣「…まい、3さい、です…」
嘉人「おー!みんないい子ですね!!
奏多「池内
奏多→三枝「
嘉人「これから仲良くしてやってください!」
庚「でもお子さんが3人もいたら大変でしょう?」
奏多→三枝「田舎では普通ですよ!それに子供たちは外で遊んでくるから手間も掛からないし、あっはは!」
嘉人「川に行きましたが、本当、この里は良いところですね」
奏多「おさかな、いっぱいとれたよ!」
満「あそこの川は深くもないし、子供たちもよく行っていますよ」
嘉人「そうなんですね、今度はみんなで川に遊びに行こうか、
奏多「うん!」
(間)
庚「はぁー、たっくさん食べたぁ!!」
奏多→三枝「お口に合いましたか?」
庚「ええ!とても!どれも美味しくてついつい食べすぎちゃいました!」
嘉人「今日は本当にありがとうございます!」
満「いいえ、引っ越しは大変かと思いますが、落ち着いたらまた来てください!」
嘉人「こちらこそありがとうございます!では今日はこの辺で帰ります」
イト「おや、もう帰るのかい?泊まっていけばいいだろうに」
嘉人「いえいえ、そこまでお世話になる訳には…!それに、一度家に帰らないといけないですから」
イト「そうかい、今日は来てくれてありがとうねぇ」
庚「こちらこそ!ありがとうございました!」
嘉人「
庚「うん、お願い」
イト「気を付けて帰りなさいねぇ」
庚「はい!では、お邪魔しましたぁ!」
(間)
嘉人「いい人達だったね」
庚「えぇ、ほんと。里も人も、気に入ったわ!」
嘉人「さ、じゃあ一度家に帰るよ。忘れ物はない?」
庚「うん、大丈夫。遅くなっちゃってごめんね」
嘉人「いや、
庚「そうさせてもらうわ!でも、しばらくは景色を見ていたい気分」
嘉人「こんな真っ暗なのに?」
庚「そうね…でも海の方は月明かりがとてもキレイよ」
嘉人「そうだね。もうまとめてある荷物は車に積んで持って来てしまおうか」
庚「ええ。里での暮らしが楽しみだわ…」
(間)
嘉人「
庚「…ん、ふぁ〜…ごめんなさい、私ったらいつの間にか寝ちゃってたのね…」
嘉人「割とすぐに寝たみたいだよ。疲れていたんだね」
庚「
嘉人「ベッドに連れていくよ」
庚「うん、お願い」
嘉人「
庚「そうね。…ふぁ〜、まだたくさん寝れそう」
嘉人「寝過ぎも良くないよ」
庚「たまにくらい、いいのよ」
嘉人「ふふっ。起きたら大仕事だからね。ゆっくり寝よう」
庚「うん…」
(間)
庚「里で暮らし始めたらさぁ…」
嘉人「ん?」
庚「小説も書きやすくなるかしら」
嘉人「…さぁ…でも、里にも町にも、いい刺激が貰えそうで。…らしくないかもしれないけれど、今、とてもワクワクしているんだ」
庚「そう…いい話が書けるといいわね」
嘉人「そうだね。さて、じゃあおやすみ」
庚「うん、おやすみなさーい…」
(間)
イト「ありゃあ!こりゃあすごい荷物だねぇ!」
嘉人「ほとんど僕の持っている
イト「作家さんは色んな本をたっくさん持っているもんなんだねぇ」
嘉人「まぁ、書くこと以前に、本が好きですから」
イト「なるほど、言われてみれば
嘉人「絵本や児童書などもあるので、お孫さん達とぜひ読みに来てください」
イト「そりゃあ、お仕事の邪魔になっちまうよぉ」
嘉人「構いませんよ!
イト「そうかい、なら、お言葉に甘えようかね。ヤンチャな孫たちだから、たまには本を読んで静かにしてくれればいいんだけれどねぇ」
嘉人「今日、お孫さんたちは?」
イト「息子と川に行っているよ、魚を獲る仕掛けを作るってさ」
嘉人「へぇ、仕掛けかぁ…気になるなぁ」
イト「田舎では珍しくない事さぁ、私も子供の頃はよく作ったよ」
嘉人「へぇ、荷物を家の中へ入れ終わったらちょっと行ってみます」
奏多「川に行くの?」
嘉人「うん、この
奏多「
イト「そうだよ、一緒に行ってみるかい?」
奏多「行きたい!」
イト「坊やは荷物も運べないだろう、先に行ってこようかねぇ」
嘉人「すみません、いつも世話になってしまって…」
イト「いいんだよ、やりたい事をやってるだけさ」
奏多「お父さんは?」
嘉人「荷物を運び終わったら行くよ、先に行っておいで」
奏多「分かった!」
イト「じゃあ、行こうかねぇ…よいしょっと」
嘉人「お世話かけます」
イト「はぁーいよ」
(間)
庚「あれ、
嘉人「田ノ中さんと一緒に川に行ったよ」
庚「川に?」
嘉人「田ノ中さんちのお孫さんたちが行ってるみたいで。魚を獲る仕掛けをしてるって」
庚「へぇー、楽しそうね!」
嘉人「うん、僕も興味あるから、荷物を運び終わったら行こうかなと思ってるんだけれど」
庚「こうやってみんな、土地に
嘉人「なんだか
庚「うん、なんだか調子がいいみたい!キッチンの荷物
嘉人「分かった、じゃあ僕は川に行ってくるよ」
庚「気をつけてね」
嘉人「はーい」
(間)
奏多「おかあさーん!」
嘉人「ただいまー」
庚「おかえりなさい!川、楽しかった?」
奏多「楽しかった!お魚獲るやつ川に置いてきたの!」
庚「置いてきた?」
嘉人「仕掛けをね、置いて、明日獲れたか見にいくんだよ」
庚「なるほどねー」
奏多「いっぱい獲れるといいなー」
嘉人「そうだね、明日が楽しみだ」
庚「お
奏多「食べる!」
嘉人「僕も」
庚「…あら、なんだか雨が降って来そうね…」
嘉人「本当だ…たくさん降るのかな…」
庚「
嘉人「雨が降り出したら確認しようか」
庚「そうね」
満(ナレーション)「
空は段々黒い雲に覆われ、食べ終わる頃には大雨になっていた。」
嘉人「すごい雨だね…家の中をみて回ってくるよ」
庚「じゃあわたしは後片付けでもしようっと」
満(ナレーション)「そう言って食器を台所へ運ぶ。
嘉人「うん、
庚「そう、よかった!」
嘉人「
庚「…あれ、
嘉人「いや、僕一人だけど?…いないの?」
庚「うん、どこに行ったのかしら…」
満(ナレーション)「外は相変わらずの大雨で、水溜りがあちこちに出来ている。
大きな
嘉人「まさか…」
庚「なに?」
嘉人「川に行ったのかも…」
庚「ええ?」
嘉人「ちょっと川を見てくる!」
庚「分かった!気をつけてね、私は田ノ中さんのお
満(ナレーション)「大雨の中、二人は外に出る。傘は差す意味を
田ノ中の家に着く頃には、体が冷え切っていた。」
庚「すみません!
イト「なんだい、こんな雨の中…ずぶ濡れじゃあないかぁ」
庚「
イト「本当かい!?(家の中に向かって)おおーい!!
満「なぁに、どうしたの?そんな大声出して…」
イト「
庚「気がついたらいなくなっていて…夫は川へ行ってます!」
満「川に!?」
イト「この雨じゃあ危ないだろう、お前、行ってあげな」
満「分かった。」
庚「私も行きます!」
イト「危ないよぉ!」
庚「大丈夫!早く見つけないと!」
満(ナレーション)「
庚「
嘉人「見つからない!とにかく、手分けして探そう!」
満(ナレーション)「三人が分かれて
その時。
竜神様はとぐろを巻いて、何かを囲み、守っているようだった。
すぐさま駆け寄ると、竜神様に抱えられ、横たわる
庚「
満(ナレーション)「
懸命に声をかけると、その声に気付いた
奏多「……おかあ…さん…?」
庚「
満「よかった!とりあえず
満(ナレーション)「竜神様がしゅるしゅると空へ昇り、川の上流に飛んで行く姿を見送ると、
(間)
イト「ああ、よかった…坊や、見つかったんだねぇ。
早く体を拭いて中へ入りなさい。」
庚「なんで川になんて行ったの!!!」
奏多「…だって…おさかなとる、しかけ…」
庚「だってじゃない!!すごく心配したのよ!!みんなにも迷惑かけて!!」
満「まぁまぁ、今は体を拭いて。体が冷えているから」
奏多「ぐずっ…ごめんなさぁいぃ、うわぁぁぁん!!!!」
嘉人「仕掛けが心配で見に行ったのか…何も言わないで行っちゃ駄目だろう…
おかあさんが怒ったのは、
奏多「うん…ぐずっ、うぁ…りゅうじんさまがぁ…」
嘉人「竜神様?」
奏多「川を見にいって、みずいっぱいで、すべって…みずに入っちゃって…
…いっぱい流されて…そしたらりゅうじんさまが、来てくれたのぉ…ぐずっ…」
嘉人「そっか…竜神様が助けてくれたんだね。」
奏多「うん…」
イト「とにかく無事で良かったよ。ホラ、雨が
庚「たくさんご迷惑をかけてしまって…すみませんでした!」
イト「いいよいいよ。みんな無事だったんだ。良かったじゃないか。」
庚「
イト「うんうん、坊ちゃんもよぉく分かっただろう。」
庚「まったく…本当に…はぁぁ…」
イト「あっはっはっは!」
嘉人「みんな見て!虹が出てる!」
満(ナレーション)「雲の裂け目から太陽の光が差し込み、大きな虹が出ると、竜神様が気持ちよさそうに飛んでるのが見えた。
これまで
太陽の光を浴びた竜神様の
庚と竜神【2:3:0】45分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly
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