第6話 仲間

 ダマ少年が帰った後、傑は深い後悔に襲われる。


(勢いで依頼を受けたが、さて、魔物をどうやって倒せばいいんだろうな……)


「ねぇ、何で引き受けたんですか? 騎士団に任せておけば……」


 セレナは、自分よりもひ弱な傑の肉体を見て、対魔物相手のプロに任せておけばいいのではないかと疑問に思っている。


「あの目……」


「え?」


「あんな、すがるような目で見られたら、助けたくなるっしょ……。さて、その森とやらに案内してくれないか?」


 傑は吹っ切れたような清々しい顔つきになり、エレナの胸はどきりとする。


「ねぇ、その前にさ、仲間増やしてから行かない?」


「仲間って、そんな奴いるのかよ? 暇人とか……」


「いや、いるんですよ! それが!」


 セレナは傑の手を掴み、表へと出る。


「痛ええ!」


(手加減しろよ、この脳筋女……!)


 セレナの清廉な顔つきとは裏腹に、ボディビルダー並みの怪力に傑は辟易しながら、部屋を出ていく。


 ****


 丘から少し離れた下にある、いかにも魔法使いが好き好んで住みそうな、三角の屋根で壁は甲子園の壁に生えているツタ様の植物で覆われている建物の前に、セレナと傑は立っている。


「こんな所に人は住んでいるのかい? なんか、凄い怪しい雰囲気満載なんだが……」


「それがねぇ! そのまさかなんですよ! 住んでるんですよね!」


 セレナはあちこちが傷んでいる木製のドアをノックするが、中から全く返事が来ず、やはりいないんだな、この中に住んでるやつだなんて、現代で言うゴミ屋敷の住民で、大抵が心に闇や病を抱えてる奴なんだよな、相手にしたくねぇなと傑は内心ほっとしている。


「やっぱいないじゃん!」


「それがね、いるんですよ! ちょっと退いててくださいね!」


 セレナはドアノブを掴み、涼しい顔つきで軽々と扉を引き寄せて無理やりこじ開ける。

 

「……!?」


 建物の中は大きな釜が中心に置かれ、あちこちに、現代の中華街で見かけるような漢方の薬草と似ているのだが微妙に違う、何かの呪いに使う草が置かれ、部屋の片隅にあるベッドに少しぽっちゃりした半裸の体型の男がすやすやと寝ている。


「あー、寝てやがるこいつ。ちょっとそこにいてくださいね!」


 セレナはろくに掃除をしていない、埃と図鑑に載ってない見たこともない虫を踏み潰しながらその男の毛布を引っ剥がし、乳首を思い切りつねる。


「おい、起きろ!」


「あ、ああんっ! 痛てて……!」


(ある意味、効果てきめんの目覚ましだな。しかし、気持ちよさそう、いや、痛いなやっぱ……)


 性感帯が乳首であり、週末行きつけのピンサロで性行為に耽る時にいつも欠かさず責めてもらっている傑は気持ちよさそうだなと思うが、あんな、レンガを引きちぎる怪力の持ち主につねられるのは流石に痛くてちぎれてしまうなと、寝ている男を気の毒に見つめる。


「起きたよ! 何さ!」


 その男は、赤く腫れ上がった乳首に草を擦り付けると、あっというまに赤みが消えて腫れが引いていくのを傑は度肝を抜かれた表情で食い入るようにして見つめる。


(何ぃ! なんであんな腫れが一瞬で治るんだ!? 凄いぞ! いやしかし、なんで世界なんだここは……!?)


 この草があれば重傷を負っても即効で治癒できて医者いらずなのだが、なぜこんな薬草が普通に存在する時点でここは異常な異世界なんだなと、傑は現代での常識や知識の概念が崩れている、得体の知れない恐怖に襲われる。


「ねぇちょっとさ! 協力しなさいよ!」


「いや、協力ってなんだよ!? 話が見えてこねぇ!」


「マクベスさんの仕事の応援よ! ダマ君からね、ラミアを倒してくれって依頼を受けたのよ! 童貞野郎のあんたにはうってつけでしょ!?」


「童貞ってなんだよ! 俺は素人ど……んん!?」


 そいつは、傑を驚いた表情で見つめる。


「あの、以前お会いした……」


「ええ、この世界で解決屋を営むことになりました、真壁すぐ……いや、マクベスです」


 傑は、そいつに一礼をする。


「あぁ、バルデスです、バルデス・ローサード」


 バルデスは恥ずかしそうに傑にそう言った。


 ****


 バルデスはそれなりに高尚な魔導師の一族に生まれたのだが、魔法の腕前はいまいちで、魔法訓練所を最低の成績で出た後、宮廷の魔道士になろうとしたが断られ、日雇いの仕事をしながら魔法の研究に勤しみ、28歳まで生きてきたのである。


 3年前に隣にセレナが引っ越してきて、腐れ縁となった。


「……ってわけでさ、こいつ暇人なんですよ」


 セレナはバルデスの肩をバンと叩き、バルデスは苦悶の表情を浮かべ、痛そうだなと傑は同情の視線を送る。


「あんた協力しなさいよ、どうせ変な魔法ばっか作ってて暇でしょ?」


「暇人とは失礼だな。でも、その森にある草、使えそうだから一緒に行ってやるよ」


「え?」


 傑はバルデスの経歴を聞いて微妙だと思ったのだが、強力な薬草を使えるので心強いなと思っている。


「いや、ただとは言わせないぞ。1000Pでどうだ?」


「1000P……」


 ダマ少年が渡した、クシャクシャの1000P札が傑の頭をよぎる。


(これは、全くこの世界を知らない俺にとってみれば、この額の紙幣はそれなりの大金だと思うんだが、仮にこれを渡してしまったら一文無しだ、だが、仲間が必要なんだが……)


 傑の葛藤をバルデスはクククと笑い、口を開く。


「んならよ、払わないならば応援はチャラだ。他を当たってください」


「ちょっとねえ! 酷くない!? こうしてやるわ!」


 セレナはバルデスが逃げるのよりも先に、ろくに洗ってないであろう、汗の匂いが染み付いており体育会系のジャージの匂いがする服の上から乳首を掴み思い切りつねりあげる。


「あぁあ……やめて!」


(気持ちよさそうだな、想像を絶するほどに痛いだろうが……ええい! 人肌脱ぐか!)


「分かりました、1000P支払います。ご協力をお願いします」


「商談は成立ですね……痛気持ちいいよ! 決まったから離してくれ!」


(あんな、万力のような指でつねられたら相当気持ちがいいんだろうが、でも痛いんだろうな、やっぱ……)


「あんた、ダマ君が出したお金を渡したんだからね、死ぬ気で協力しなさいよ……!」


「うん、分かったよ!」


 セレナは恍惚としているバルデスを変態を見るような侮蔑の目で睨みつける。


「さてと、今日はこれから、作戦を練りましょうか……」


「え、ええ……」


 バルデスは、仕事モードになり目つきが真剣になっている傑を見て、相当なやり手なんだなと畏怖の視線をチラリと送る。

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異世界トラブルシューターマクベス〜現代世界で解決屋を営んでた俺は、異世界転移してまた解決屋をやる事になりました〜 @zero52

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