第5話 初依頼
小屋につき、セレナの怪力ぶりに傑はビビりながらも何とか店らしくなり、彼等は一息入れてコーヒーらしき液体を飲んでいる。
(これは、何という液体なんだ……? まぁ、美味いからいいか……。どうせ俺毒に耐性あるし)
傑は特殊部隊の訓練で、耐毒の訓練を受けていたのである。
「明日から開店ですね」
セレナは女子ボディビルダーのような見事に鍛え上げた上腕二頭筋を袖口から覗かせながら、飲料をすすっている。
「あぁ、その前に……この国の文字を教えてくれないか? 言語は普通に理解できるんだが……」
「あぁ、いいですよ。まずはあいうえお、から」
「そうだな、んん?」
コンコンという扉をノックする音が聞こえ、傑は立ち上がり扉の方へと向かう。
「はい……」
「あのう、依頼をお願いに来たのですが……」
傑達の目の前には、10歳児ぐらいの小さな子供が立っており、すがるような目つきで傑を見ている。
「依頼? いいよ、とりあえず中に入ろうか」
「はい」
「セレナさん、この子にお茶を入れてくれ」
「はいはい」
セレナは初依頼で嬉しそうに台所へと足を進めていく。
****
セレ国のはずれには、トル森という森林地帯があり、ザリ洞窟という自然にできた洞穴があり、その奥にある泉は治癒作用がある為、医者からは重宝されている。
傑が来る2、3日前から、魔物が出るようになり、これに危機感を覚えたバデス国王は近々騎士団を派遣させる流れを取っている。
「……という訳なんです」
「ふーん、でも何で、バデス国王が騎士団を派遣するのが決まってるのに、それを待たないんだ?」
傑は、依頼に来た少年を疑問の目で見つめる。
「あの……実は僕ん家、お父さんが薬剤師やってるんですが、病に倒れてしまって、すぐにでも薬が必要なんです。なので、力を貸してもらえませんか?」
「……」
「ねぇ、君デルバさん家のダマ君だったよね? お母さんは確か魔道士だったはずなんじゃあなかったの?」
セレナはダマという少年の家庭の事情を知っており、魔道士である母親がいるのであれば魔物を駆逐できるスキルはある筈であり、わざわざ依頼に来る必要性はないと感じているのである。
「それは、その……お父さんが浮気しちゃって、愛想を尽かして実家に帰ってしまったんです……」
「……!」
ダマ少年の複雑な表情を見て、傑達はいたたまれない気持ちに襲われる。
(お父さんが浮気して、お母さんが出て行くだなんて、現代世界でも良くある話なんだが、可哀想だな……。だが、魔物を倒すなんざ、対人での格闘術しか学んでない俺にとって、無茶苦茶な難題だ。下手したらこっちが殺されかねない。断るか……)
「ねぇダマ君、もし依頼をするとしたら、一体幾ら出せるの?」
セレナの発言に、傑は飲んでいる飲料をぶっと吐き出す。
(いやいやいや、俺そんな化け物を倒す術は知らないんで……)
傑の心境とは裏腹に、ダマは一縷の望みを傑に抱いており、ポケットから財布を取り出して、一枚の紙切れと銀貨5枚を取り出す。
「あのう、これ、150Pあります。足りませんか?」
ダマはつぶらな瞳で傑を見やる。
「うーん、ダマ君、これじゃあ、ジュース一本分にしかならないのよね。親戚の人とかに……」
「いや、依頼を承ります」
「え!?」
セレナは依頼料を1000Pほど貰わなければやっていけない、いくら異世界の住民で金銭感覚に疎い傑でも、この世界でいうジュース一本分の料金では承らないだろうと思っていたのだが、傑の一言に驚嘆の声を上げた。
「え、でもさ、この値段じゃあ……」
「いや、この店の店主は俺だ、俺が決める。ダマ君、もっと詳しく教えてくれないか?」
やれやれだわ、とセレナは傑の男気に辟易し、両手を開く。
「うん、ザル洞窟にいる魔物って、なんかねぇ、ラミアらしいんだ」
「ラミア……」
ラミアという言葉を聞き、傑の頭の中には、学生時代にハマったRPGの敵キャラクターが思い浮かぶ。
「えー、ラミアってここら辺にまだいたんだ。珍しいなぁ。確か駆除したんじゃなかったっけ?」
セレナは珍しい表情を浮かべている。
「駆除?」
「あぁ、数年前に魔王が失踪していなくなって魔物を指揮するものがいなくなってから、目的を失った魔物が結構出てきて、いい機会に騎士団と魔道士部隊で駆逐したんですよ、この国をうろつく魔物達を。気性が穏やかになってたのが多くいたのでそんな苦労しなかったんですが、ここ最近凶暴化した魔物が出始めましてね……ラミアか、厄介なやつだなー」
「ラミアって確か、上半身が女で下半身が蛇だったよな? 魅惑の術を使うっていう……」
「そうなんですよ。男が多いうちの国の騎士団ではちょっと苦戦するモンスターでして、駆逐するのに苦労はしたみたいでしたね」
「そうか、魅惑の術を使うのか……まぁ、やってみるか。ダマ君、依頼は遂行するからね」
「ありがとう!」
傑はダマの、天然パーマの入った髪の毛をなでなですると、ダマは照れ臭そうに店を出ていった。
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