第4話 脳筋女
ダバルが傑に与えた、傑の住居兼店舗は小高い丘にあり、少し歩けば飲食店や服屋、雑貨店に役所、病院など生活に欠かせない店があり、ダバルからもらった1000P(パキラというこの国での通貨)を使い、傑はセレナと町に買い出しに行くことにした。
「……ってよお、なんで君がここにいるんだい?」
「え!? 私邪魔者でしたか!?」
「いや、逆に助かるんだが、君画家だろ? 仕事とかしなくっていいのか?」
「いやそれがですねぇ……」
「さあ! このレンガ3枚を壊せる奴はいるかい!? できたら、500Pをくれてやるってんだ!
」
頭に鉢巻きをして、現代ではセクハラなのだが上半身裸で肩に竜のタトゥーらしき彫り物を入れている壮年の男は、ハリセンをバンバン叩き、周りに何かを叩き売っているような気が傑には見える。
(こんなん無理だろ……)
(鼻が折れてしまうったらありゃしねぇよ……)
周りの客がこの無茶苦茶な要求をされるのに、裏があるのを気がつかないでいるのを傑は疑問にしか思えないでいる。
「はぁい、やります!」
「はい!?」
セレナの一言に、傑は耳を疑い、余裕たっぷりのセレナの表情を見てこの女恥をかきたいんだなとため息をつく。
「割れるのか嬢ちゃん。割ったら特別に1000Pやるよ」
「本当ね」
(この女気がおかしいぜ……)
(馬鹿だな)
周囲の嘲をよそに、セレナは手袋を外すと、空手タコのあるゴツい手が出てきて、傑はギョッとする。
「えいっ」
セレナはレンガを掴み、真っ二つに引き千切ぎる。
その様子を彼等はぽかんと、阿保面をして見ている。
「はいこれで、1000P確定ね」
「あ、あぁ……そうだったね、ほらよ……」
そのテキヤ風の男は、恐怖を感じながら、革製の財布から500Pに相当する銀貨二枚を取り出してセレナに渡して、そそくさと店じまいをする。
「それと、斧かなんかを売りつけるのはやめてくださいね。バレバレですからねー」
「ひ、ひえぇ……は、はいい!」
そいつは店をかなり急いで畳み始め、それを横目で見ている傑は、この女何者だと恐怖の視線を送りながらセレナを見ている。
「さて、行きましょう」
「あ、あぁ……」
セレナは家具売り場の方へと足を進めるのだが、傑はセレナへの恐怖を隠しきれずに歩みが遅くなる。
「どうしちゃったんすか? キョトンとしちゃって」
「あ、いや、君は一体何者なんだ?」
「あー私ね、昔から筋肉質なんですよ」
セレナは袖をめくり、ボディビルダー並みにむくむくと盛り上がった筋肉を傑に自慢げに見せる。
「!? す、凄え!」
(んな、あんな分厚いレンガを軽く割るだなんて尋常じゃねぇや、俺ですら無理だ……。逆らったら殺されてしまう……!)
「?」
傑は自分の心の声を悟られぬよう、セレナに連れられて家具売り場の方へと足を進めていく。
****
傑達はデパートのような幾つかの店が同じ建物にある中、家具を売ってる店で必要な家具を買い揃えた。
檜のような材木でできたテーブルとタンス、本棚とクローゼット、ベット、店の看板は全て合わせ、丁度2000Pで購入できたのである。
「さて、買ったのはいいんだが、これを一体どうやって持っていけばいいんだか……」
傑はこれらのものをどうやって丘の上にある小屋に移動させればいいのか頭を悩ませているのだが、店主の男はニコニコと笑いながら、一枚の紙切れを傑の前に見せる。
「サービスで配達をやっております」
「え!? マジっすか!」
(配達サービスなんざ、元の世界でもあったが、魔法かなんかなんだろうか?)
「ええ、この紙に住所を書いていただければ、お客様と一緒に
「そうですか、有難うございます、お代の方は……」
「当店では1500P以上のお買い物をして頂いたお客様は無料でサービスの提供をさせて頂いております」
「え!? 有難うございます、でも住所がなあ……」
当然の事ながら傑はこの世界の住人ではなく、文字の読み書きは出来ないし、小屋の住所など知らないのである。
「あぁ、それなら私書きますよ」
セレナは店主から筆ペンのようなペンを貰う。
「え? いやでも俺の住所なんざ知ってるのか……」
「国王様から当面の間は世話をしてくれって頼まれてるんで、手伝いますよ。私も仕事は最近暇なんですよ、魔王がいなくなってしまって魔物退治の仕事が激減したんです」
「そうなんだな、ではお願いします」
(魔王がいない……? 本当にここの世界は、典型的なRPGの世界だな、ゲームの世界みたいだ。だが、魔王っていう厄介な存在がいないとなると、少しは楽になれるかな……)
傑は、魔王という異世界では定番の圧倒的存在がいない事はダバル国王から聞き薄々知っており、討伐して世界平和をもたらしてくれという王道RPGにありがちなパターンをしないで良いのにほっと胸を撫で下ろす。
「でも最近物騒な事件多いんで、後処理お願いしますね! 書き終えました!」
(嗚呼、やっぱり俺はこの世界でも、ダーティな事をやる羽目になってしまうんだなあ……!)
傑の悩みとは裏腹に、セレナは傑を恋する乙女のような目つきで見ており、店主は魔法の詠唱を始めている。
「
「うおお!」
グニャグニャした世界観になる魔法を傑は嫌いなのか、情けない声を上げて、このビビった顔が可愛いなと思いながらスグルを横目で見てクスリと笑うセレナと共に、亜空間に消えていく。
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