夏至祭と花(台無し)

 エレノアが買ってきたのは、本当に食べ物ばかりだった。


 異国の菓子であるという、丸くてもちもちとした団子。

 黒くて丸いあんころ餅に、やっぱり真っ黒な水ようかん。

 ぷるぷると揺れる……水まんじゅう?

 ぶどう味のババロアにゼリーもある。


「…………どこかで見た形ばかりですね」


 見た、と言っても目が見えないというのは置いておいて。


 並べられた食べ物は、どれもこれもなんだか妙に既視感がある。

 既視感と言うべきか、親しみと言うべきか、同族意識と言うべきか。

 ぷるぷる震える品々を前に、自身もぷるぷる震える彼の横で、エレノアはなんとも難しい顔をした、ような気配がした。


「…………どこかで見た形ばかりですね。……なんででしょう、なんか見ていると買いたくなってしまって」


 声には、彼女自身も不思議だと言いたげな響きがある。

 小首を傾げるような声音で、まるで自問でもするように彼女は一人つぶやいた。


「ついつい……いつの間にか手に取っていたんです。この形を見ていると無意識に……なんだか神様に……似ている気が……して…………」


 そこまで言ったところで、エレノアの言葉が止まった。

 なにかに思い至ったかのように目を見開き、はっと自分の胸に手を当てる彼女の姿は――。


「エレノアさん、まさかそれって――」


 しかし、視界のない彼には見えないのである。


「私のことを食べてみたいと思っている、ということでしょうか……?」


 怯えたように尋ねた瞬間、エレノアの表情がスン……と消えたこともまた、彼には知る由もなかった。





――――――――――――――――――

・ここからエレノア視点



 ちなみに。


 私が神様を食べてみたいと思っているかというと。


「……」


 いや、食べたいとはさすがに思わない。相手は神様――というのを差し引くまでもなく、いろんな意味で問題がある。

 私に猟奇的な趣味はない。食べるなら、ちゃんと料理された普通のものがいい。当たり前である。


 でも、食べるのではなく、ちょっと軽く齧ってみたいかどうかと言われると……?


「…………」

「エレノアさん?」

「……………………」

「あの…………?」

「……………………………………」


 無言の私に、神様はぷるんと一つ身を震わせる。

 それから、その柔らかな体を強張らせ、ススス……っと逃げるように距離を取った。


「…………………………………………………………………………」


 その様子は、買ってきたぷるぷるの水まんじゅうに、そっくりだった。

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