16話 ヨラン(オルガ)①
そういうわけで、
しかもこの必死さは、最初に飛び出したときを上回る。
なんと言っても、神様が追われているという情報を得てしまったのだ。
――み、み、み、見つかってるじゃない! あのぽやぽや!!
いや、ここは神様を責めるより、逃げた神様を見つけ出した聖女団を讃えるべきだろうか。私でも行方が追えないくらいに神気を抑えた神様を見つけるとは、恐るべき執念である。
――やっぱり、別行動しなきゃよかったわ……!
思わず頭を抱えたくなるけれど、今さら後悔したところでどうしようもない。
とにかく今は、怯えてどこかで震えているだろう神様を探すことが最優先だ。
そんなことを考えながら、レナルドが示した方角を頼りに、祝勝会のテーブルも途切れた暗がりを走っていたときだ。
「――――おっと、エレノア・クラディール……様? そんなに急いでどうしたんですか?」
暗闇から響いたのは、これまた聞き覚えのある声だ。
ただし、なじみ深いわけではない。つい最近、どこかで聞いたなあという程度である。
申し訳ないけれど、さすがに今は緊急事態。顔見知り程度の相手と立ち止まって話をしている余裕はない。
話があるなら後にしてもらおうと、私は速度を緩めないまま通り過ぎようとして――。
「もしかして、グランヴェリテ様をお探しですか? ちょうどよかった」
キッ、とつんのめるように急停止した。
そう言われてしまっては話が別。神様の行方を知っているのかと、私は声の聞こえた影の方へと視線を向けた。
現在、私がいるのは祝勝会の外れ。
と言っても、騒ぎ声は遠くない。むしろレナルド達がいた場所よりも、騒ぎの中心に近いくらいだった。
このあたりは祝勝会の外れではあっても、広場としては中心部。生垣や花壇、噴水が配置された、昼間は見た目にも華やかな場所だ。
ただし、夜は段差が多くてつまずきやすく、酔っ払いを歩かせるなんてもってのほか。花壇の配置も複雑で道も狭いということで、テーブルの並びもこの場所を囲うように避けられている。さらには、うかつに明かりが見えると酔っ払いが虫のごとくフラフラ寄ってきかねないため、周辺には蝋燭ひとつ置かれていない。
おかげでここだけは、騒ぎからくりぬかれたようなぽっかりとした暗闇が満ちていた。
その暗闇の中、不意にほのかな手燭の光が浮かび上がる。
生垣の影にでも隠れていたのだろう。光に照らし出された顔を見て、私は「お」と小さく声を上げた。
意外な顏だ。少し角ばった温和そうな顔立ちの、大柄な青年。たしか彼は――。
「オルガ……だったわよね。ヨランの友達の」
「はい。覚えていてくださったんですね」
私の言葉にそう頷くと、兵装を解いた私服のオルガが、顔に似合いのやわらかな笑みを浮かべた。
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