7話 ルフレ②
「る、る、るるるルフレ様…………今の話を……聞いて……!?」
「隣のテーブルにいるんだ。騒ぎ声なんて丸聞こえに決まってんだろ」
おそるおそる尋ねる私に、ルフレ様がしごくごもっともな返答をする。
――ぐう……。
の音も出ないほどの正論。なんといっても少し前まで茶々を入れられ、ヤジを飛ばされていたテーブル間隔なのである。
――……というかこれ、改めて言葉にするとめちゃめちゃ俗っぽいわね。神様なのに。
姿を取り戻して早々、言葉を交わすよりも先にヤジを飛ばされるとは思わなかった。普通に飲んで騒いでいるし、酔っているし、神聖にして厳かな神々への印象がちょっと変わってしまいそうである。
……などと逃げるように神々に思考を飛ばしたところで、ルフレ様の冷たい視線は変わらない。
彼は呆れ切ったような、うんざりしたような、『やってらんねー』と言わんばかりの目つきで、わざとらしくため息をついてみせた。
「で、どうすんだよお前」
「ど、どうと言いますと……」
どういう意味でしょう――とは、さすがに言わない。
なにせことはプロポーズ。いやまだ確定ではないけれど、プロポーズだった可能性がある重大な事案である。
『ちょっとお散歩いきませんか?』『いいですね、行きましょう!』くらいのノリで終わらせてよい話ではないのだ。
「あの、私、そんなつもりは全然なくて……」
そこをお散歩のノリで軽快に答えてしまったのが、なにを隠そうこの私。
言い訳のように言葉をひねり出しつつも、視線が自然と下を向く。とても顔を上げていられない。冷や汗も流れるというものである。
「あれって……やっぱりそういう意味なんです…………?」
それでも最後の希望に縋るように、私はルフレ様に問いかける。
聖女になってください――をプロポーズと捉えたのは、今のところ姉のみだ。たしかに聖女は神の伴侶と言われているけれど、それは人間側の考え方。神々からしてみたら、普通にこう……『穢れを払いつつ身の回りの世話をしてくれる相手』くらいの感覚かもしれない。
そんな私の一縷の期待に、ルフレ様は目を細めた。
なぜうつむく私が目を細めたとわかるのかと言えば、ルフレ様がおもむろに私の肩に腕を回し、目を逸らせないほどに容赦なく顔を近づけてきたからである。
「お前、さっき自分がリディに向かってなんて言ったか覚えてるか?」
至近距離で、ルフレ様の目が私を射抜く。
からかいと苛立ち、他なんやかやの混じった圧のある目に、私の冷や汗が止まらない。
因果応報。自業自得。まったく、無責任な発言など偉そうにするものではない。全部自分に返ってくるのである。
溶けるほどにだらだらと汗を流す私の真横。
ルフレ様が圧のある目を笑みの形に歪め、底冷えのする声で囁いた。
「こうなったら、本人に直接聞くのが一番早い――って、まさか自分はできないとは言わないよなあ?」
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