17話 ※アマルダ視点

 アマルダ・リージュのもとにも、神の声は聞こえていた。

 天上にある神の座で、彼女はすべて聞いていた。


 隣には蠢く醜い化け物。

 眼下には、目も眩むような美しい神。


 かつて無能神と呼ばれた神が、まっすぐにアマルダを見上げている。

 もしかしたら、アマルダが聖女として仕えていたかもしれない神が。


「人形…………」


 アマルダはそう呟くと、その場にへたりと座り込む。

 あまりの衝撃に、体に力が入らない。

 化け物から逃げようとしていたことも忘れ、彼女は呆然と眼下の金色の神を見下ろした。


 嘘だ――とは、言えなかった。

 否定するには、彼の存在はあまりにも大きすぎる。

 目に映る御姿が、肌に触れる神気が、こちらが見下ろしているはずなのに感じる、震えるほどの威圧感が。

 すべてが、『彼こそが真の神である』と告げている。


「で、でも……でも…………」


 それでもアマルダには、まだ受け止めきれない。

 彼が本当の神だったなら――ここにいるのが人形だったのなら、今までアマルダが見てきたものはなんだったのだろう。


「でも、それじゃあ……人形なら、どうして笑ってくれたの。私についてきて、私の名前を呼んで…………」


 聖女になったばかりのころは無表情だった『グランヴェリテ』が、いつしか笑うようになっていた。

 アマルダを見るようになり、アマルダについてくるようになり、アマルダの名を呼んだのだ。

 あれは――。


「幻覚ですよ」


 縋るようなアマルダの言葉を、神は残酷なほど短く切り捨てる。


「人形には、見た者の理想見たいものを映す魔法がかけてありました。笑顔も、声も、あなたが見たかったものにすぎません」

「でも……でも……動いて……ついてきて…………」


 神の言葉に、アマルダは首を振る。

 理想を映す魔法。見たいものだけを見せる幻覚。

 そうだとしても、納得はできない。


『グランヴェリテ』は、アマルダと過ごすうちにたしかに変化していた。

 それは、幻覚では説明できないはずだ。


「…………見たかったものを見ていたんですよ、アマルダさん」


 いまだ認められないアマルダへ、神が告げる。

 はっと目を向けるアマルダが見たのは――怒りでも、嘆きでもない。

 神の哀れみの目だ。


「あなたは――あなた方はみんな、見たいものだけを見ていたために、人形の『中身』が変わっていたことに気が付かなかったんです」


 彼はアマルダと朽ち果てた人形を見比べ、その目と同じ哀れみを込めて言った。

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