6話

「…………この程度なのか。穢れをばらまいた魔女が……」

「悪かったわね、この程度で!」


 しみじみとつぶやくヨランに、私は「けっ」と吐き捨てた。

 この状況でまだ減らず口を叩けるとは、さすがは神殿兵。ずいぶん余裕があると見える。

 もちろん、これも褒めていない。


「嫌味を言うくらい元気があるなら、もう行くわよ! さっさと階段を見つけなきゃいけないんだから!」


 はー! と聞えよがしにため息を吐くと、私は大きく頭を振った。

 これ以上、ヨランの文句に付き合ってはいられない。

 どうせ私の魔力は『この程度』。もたもたしていたら、すぐに効果が切れてしまうのだ。


「あなたも、立ち上がれるわね? 肩を――」


 肩を貸そう――と重い腰を上げようとしたとき、私はふと違和感に気が付いた。

 ちょうど、地面についた手の袖の中。なにかが腕に触れている。


 大きさは親指程度。丸みのある、少し冷たくて硬い、小石めいた『なにか』は――。


「……そうだわ。忘れていたわ、ヨラン。これ」


 言いながら、私は袖から『なにか』を取り出した。

 訝しむヨランの目の前。手のひらに乗せて差し出すそれは――私が目を覚ましたとき、最初に掴んだもの。

 思わず拾って、今の今まで袖の中にしまい込んでいた――神殿兵の身分の証。


 鈍く光る、オルガの徽章だった。


「私たちが倒れていたところに、一緒に落ちていたのよ。ずっと私が持っていたけど――たぶん、あなたが持っていた方がいいでしょう?」


 二人の仲が良いことは、この短い間にも見て取れた。

 それなら、オルガの徽章を持つべきは私ではない。

 オルガだって、きっと私よりもヨランに持っていてほしいと思うだろう。


「…………」


 そう思う私に、ヨランは無言だった。

 彼は私の手から徽章を受け取ると、しばらく口をつぐんで目を伏せる。


 薄暗い小部屋の影の下。徽章を見つめるヨランの表情は読めない。

 ただゆっくり瞬きを繰り返しながら、鈍い光を確かめるように、手のひらで徽章を転がし、転がし、転がし続け――――。


 長い長い間のあとで、彼はきつく唇を噛み、徽章ごと自身の手を握りしめた。

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