5話

 というか。


 というかである。


「………………は」

「というか! あなた、足が痛いならさっさと言いなさいよ!」


 なにか言いたげなヨランを遮り、私はぐるんと彼に向き直る。

 感傷は終了。そもそも、そんな感傷に浸っている時間はない。

 現在の私たちにとって重要なのは、一刻も早く階段を見つけることである。


「どうりで、最後の方やたらと重いと思ったわ! 気づかなくて悪かったわね!」


 そう言いながら、私は仰向けのヨランの足に手を伸ばす。

 おもむろな私の手に、ヨランがぎょっと身を引こうとするが、もう遅い。

 逃すまいとぐっと掴めば、ヨランが聞いたこともない悲鳴を上げて悶絶した。


 ――ざまあみなさい!!!!


 ではなく。

 ちょっと胸がスッとしたのは置いておいて、一応これは、まじめな行為なのである。


「貴様!! なにをする!!?」

「痛み止めの魔法をかけるだけよ! 大人しくしなさい!!」

「なにが痛み止めだ! 触るな! 握るな!! ふざけるな、このガサツ女!!!」


 などとごちゃごちゃ叫ぶヨランをよそに、私は足を掴む手に魔力を込めた。

 呼び寄せるのは氷の精霊だ。特に痛そうな足首周りを中心に、冷気で痛みを麻痺させる。


 もっとも私の魔力では、少し痛みがマシになる程度だ。

 ぽつぽつと集まってくれた精霊も解散すると、私はこれで終わりとヨランの足を解放した。


「もういいわよ。少しは歩きやすくなるでしょ」

「貴様……!」


 ようやく自由になった体で、ヨランは逃げるように距離を取る。

 よほど痛かったのだろう。私を睨む目は恨めしげで、うっすら涙さえにじんでいた。


 ――いい気味だわ!


 というのも置いておいて。

 これで、多少は大人しくなるだろうと期待する私を横目に、ヨランはたしかめるように自分の体を撫でる。


「…………」


 その手が、無言で痛む足首に触れたとき――。


「………………貧相な魔法だ」


 ヨランはおもむろにため息を吐き、ふてぶてしくも悪態を吐いた。

 やかましい。

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