6話

 神殿兵からかばうように、一歩前に出る神様の背後。

 神様越しに響く怒鳴り声を、私はむっとしながら聞いていた。


「エレノア・クラディールなんか、アマルダ様におすがりしただけの代用品だろうが!」


 そう言われてしまえば、たしかにその通り。正真正銘、私は代用品の聖女である。

 神託で神様に選ばれたのはアマルダのほう。

 私は、結局選ばれることのなかった聖女未満で、神殿にいるはずのない一般人。

 そればっかりは、どうやっても否定しようがない。


 とはいえ。


「アマルダ様の優しさに付け入る悪党どもめ! アマルダ様が、どれほど苦渋の思いで代理を立てたと思っている! どうにかして無能神の聖女も兼ねられないかと、毎日泣きながら悩んでおられたと、あの方はそれこそ泣きながら教えてくださったんだぞ!」


 とはいえ――。


「その悩み、苦しんでいた隙をつくなんて、恥ずかしくないのか! お前のことだ、エレノア・クラディール! アマルダ様のおかげで聖女になったくせに、ふてぶてしい顔をしやがって、チビガキが!!」


 ――なにが『アマルダ様のおかげ』よ! 無理やり押し付けてきたくせに!!


 こうも好き勝手に言われては、いくらなんでも腹が立つ。

 というか後半なんて、もはや単なる悪口である。

 私は断じてチビではなく、この神殿兵の体が大きいだけだ。


「なんだその目は! 文句があるのか!」


 ある――とは、だけど言えずに、私はぐっと口をつぐんだ。

 文句も言いたいことも山ほどあるけれど、それをこの場で言うわけにいかないことくらいは、私にもわかっている。

 これから始まる裁判は、ただでさえアマルダに有利なもの。今ここで揉め事を起こせば、細い勝目すらなくなってしまう。


「文句があるなら言ってみろ! それとも、アマルダ様みたいにお優しくてか弱いお方にしか強く出られないのか!」


 言い返せない私に、神殿兵はますますがなり立てる。

 裁判所へ向かう足もいつの間にか止まり、彼は脅すように一歩足を踏み出した。


 そのまま、さらに言い募ろうと神殿兵は口を開き――。


「そうやってアマルダ様を追い詰めたのか、この、卑怯者が――」

「そこまで」


 静かな制止の声に、ひゅっと息を呑みこんだ。


「そこまでにしてくれませんか」


 私を背に、そう告げたのは神様だ。

 口調は決して、冷たくも威圧的でもない。


 穏やかでやわらかい、優しいくらいのその声は――だけど、逆らうことを許さない。

 神殿兵の顔が、怯えたように青ざめていく。

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