5話 ※神様視点

「いい加減、自分の立場をわきまえろ、この罪人が!」


 そう怒鳴るのは、いかにも生真面目そうな若い神殿兵だ。

 神殿兵の正装である白い衣に、腰に差した剣。神殿兵を示す徽章きしょうを胸に、彼は我慢ならないという様子で連行中の二人に肩を怒らせる。


「自分たちがしたことをわかっているのか、大罪人ども! お前たちのせいで、どれだけの人間が傷ついたと思っている! アマルダ様が、どれほど悲しんだと思っている!!」


 精悍ともいえる顔に浮かぶのは、驚くほどに素直な義憤だ。

 エレノアを悪と信じて疑わない青年は、耐えがたい様子で首を振った。


「こんなやつら、裁判なんてしないで処刑すればいいんだ! アマルダ様はお優しすぎる! ご自分こそが、一番苦しんでいらっしゃるのに……!」

「…………」


 嘆く青年に、彼は表情を曇らせる。

 この数日間、こうして身に覚えのない罪を責められることは何度もあった。

 そのたびに否定してきたけれど――。


「エレノアさんも私も、穢れを生み出してはいない――と言っても、やっぱり信じてくださらないんですね」

「当たり前だ! 無能神の言葉なんか、誰が信じるか!」


 返ってくる反応は、いつも同じ。

 聞く耳すらも持ってはもらえなかった。


「アマルダ様が間違っているなど、よくもぬけぬけと! アマルダ様のご意志は、グランヴェリテ様のご意志も同然。無能神ごときが、グランヴェリテ様を否定して許されると思っているのか!」

「…………そうですか」


 吐き捨てるような侮辱に、彼は暗い表情のまま息を吐く。

 アマルダを信じきっている青年には、どれほど言葉を尽くしても届かないのだろう。


 仕方ない、とはわかっている。

 この神殿には、目の前の青年のような人間が少なくない。

『グランヴェリテ』がいる以上、人間たちにとってはアマルダこそが絶対的な正義だ。


 だからこそ、彼はもう一度『グランヴェリテ』に会いに行く必要があった。

 すべての誤解を解き、己の聖女の疑いを晴らすために。


 人間たちが目を逸らし続けた、『最高神』の真実を暴くために。


 静かな決意を胸に、彼は目を伏せかけ――。


「お前がエレノア・クラディールの傍にいるのだって、俺は反対だったんだ! 神の行動は縛れないとはいえ――代理の女なんぞに現を抜かす奴を神扱いする必要なんてないだろうに!」


 未だ怒りの冷めぬ青年の言葉に、はっと顔を上げた。

 自身への侮辱に腹が立ったわけではない。

 それよりも、ずっと気になる言葉が聞こえたからだ。


 ――…………代理?


「もともとはお前だってアマルダ様に惹かれていたくせに。エレノア・クラディールなんか、アマルダ様におすがりしただけの代用品だろうが!」


 青年の怒鳴り声を、彼は呆けたように聞いていた。

 忘れていた、わかっていたはずの事実を思い出させられる。


 ――そうだ。


 いつの間に忘れていたのだろう。

 そもそもエレノアは、『己の聖女』ではない。


 最初から、彼女はアマルダに代わってやってきただけの、代理聖女なのだ。

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