14話
「三日も経っても、今までノアちゃんと面会した人はいないのよ。クラディールのおじ様が、お手紙をくれただけ。それも、ノアちゃんを叱る手紙だって聞いているわ」
震える私を哀れむように、アマルダはゆっくりと首を振る。
薄明りの下で揺れる亜麻色の髪を、私は歪んだ顔で見つめた。
嘘だ、と口の中で繰り返す。
アマルダの言うことなんて信じない。
たとえ、誰も会いに来ていないことが真実だとしても。
「面会も手紙の差し入れも許されているのに、誰もノアちゃんに会おうとしていないの。ノアちゃんがさっき呼んでいたリディアーヌさんも、面会の申請はないんだって」
「……嘘だわ」
「嘘じゃないわ。だから心配して、私がノアちゃんに会いに来たのよ」
親切な顔をして、アマルダは私を覗き込む。
澄んだ青い瞳が私を映し、どこか無邪気に瞬いた。
「それに、マリちゃんとソフィちゃんも。私、ノアちゃんのことがあってから二人に会いに行ったのよ? ロザリーさんとも仲の良かった子たちだし、どうしているか気になって」
でも、と言って、アマルダは顔を曇らせる。
言っていいかと迷うように一度視線を伏せ、もう一度私を見て、それから重たく息を吐く。
かわいそうに、と声に出さずとも、その態度が告げていた。
「……でも、あの子たち、ノアちゃんのことなんて話したくないって言っていたのよ。面会どころか、ノアちゃんは関係ないって、もう口に出すのも嫌みたいな様子だったわ。……いくらノアちゃんが悪いことをしたと言っても、そこまで冷たくしないでもって思ったのだけど」
「嘘、嘘だわ!」
自分自身に言い聞かせるように、私は声を荒げて否定した。
マリもソフィも、口は悪いけど冷たい人間ではない。
私が穢れの元凶だなんて噂よりも、私のことを信じてくれるはず。
関係ないなんて突き放すようなこと、言うはずがないに決まっている。
「嘘ばっかり吐かないで! アマルダの言うことなんて信じられるわけないじゃない! 私にこんなことをしておいて!!」
「ノアちゃん、だから責任を押し付けないで、ちゃんと自分の罪を――」
「罪なんてないわよ! 冤罪だわ! こんなの許されないわよ!」
そう言い切ると、私は無理やりに顔を上げた。
信じない、認めない、このままでは終われない。
弱気な心を押しのけ、鉄格子を握る手に力を込め、縋るように声を張り上げる。
「私に冤罪を押し付けようなんて、お姉様が黙っていないわ! お姉様はルヴェリア公爵夫人なのよ! 敵に回したら大変なんだから!!」
もしも姉が同じ状況だったなら、絶対に負けないしめげない。
心なんて折れないし、諦めるはずもないし、なんなら公爵家の力なんて頼らず、自力で脱走だってしかねない。
アマルダになにを言われたって、姉ならきっと笑い飛ばすはずだ。
――はずなのに。
「…………あ」
姉のことを聞いた途端、アマルダはかすかに眉をひそめ――気の毒そうに目を伏せた。
口元に手を当て、私を上目で窺い見ながら言いよどむ。
らしくない彼女の姿に、嫌な予感がした。
「ええと、ルヴェリア公爵様は……マリオンちゃんは、その…………」
「アマルダ様」
言葉を濁すアマルダに、近くの神官が囁きかける。
神官の顔には、にやついた――底意地の悪い笑みが張りついていた。
「言って差し上げた方が良いのではないでしょうか? ルヴェリア公爵のこと」
「…………そうね。ノアちゃんはマリオンちゃんの妹だもの。この話は知っておくべき、よね」
――なに……?
戸惑う私に、アマルダは重たげに頭を振る。
ため息を一つ吐き出すと、覚悟を決めたように顔を上げた。
「ノアちゃん。言いにくいんだけど、ルヴェリア公爵様は――――」
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