11話 ※父からの手紙

エレノアへ


 神殿から話は聞いた。

 いったいなんと言えばよいか……。


 まさか、この国を揺るがしている穢れの原因がお前であるとは、とても信じられない。

 お前はたしかに、少し性格に難はあるが、心の底は優しい娘だと思っている。

 話を聞いた今でも信じたくないし、嘘であってほしいと願っている。


 しかし、神殿から急使がきて、印章の入った封書を渡されてしまえば、そうも言っていられない。


 お前のことは信じている。

 いくら押し付けられた立場とはいえ、仮にも聖女となったお前が無能神を虐げていたとは、さすがに考えたくない。

 お前はなにかと問題のある子供だったが、聖女になりたいという気持ちだけは嘘ではないと思っていた。

 きっとこれは、なにかの間違いなのだろう。


 だが……だが、わかるだろう?

 お前の無実を信じているのは間違いない。

 父として、家族として、お前を見捨てるつもりはない。

 それでも、どうにもならないことはあるのだ。


 神殿がお前を疑うということは、それだけ確信があるということだ。

 その場にいない私がなんだかんだと言ったところで、実際に判断した神殿を説得することが難しいのはわかってくれるな?

 もちろんお前を信じてはいるが、実際に『見た』という人間がいる以上、お前が無能神を虐げていなくとも、似たようなことをしてしまったのは事実なのだろう?

 そうなれば私も、本当に残念だが、お前をかばいきることはできない。


 エレノア。

 父として私も心苦しいことを、お前もわかってくれるだろう。

 私に力があれば、必ずお前を守って神殿と戦った。

 お前がどんな不利な立場にあっても、きっと力になっていた。


 クラディール家にそれほどの力がないことが、私は悔しくて仕方がない。

 力のない父ですまない。

 今の私にはお前を守ってやる力どころか、この事件からクラディール家を守ることさえ難しいのだ。


 この事件とは、つまり、お前が穢れの原因として裁かれようとしていることだ。

 クラディール家から大罪人を出したとあっては、お前どころか他の家族にまで類が及ぶのだ。


 だから……こんなことは私からは言いたくないのだが……。

 エレノア……エレノア、わかるだろう?

 私はクラディール家から大罪人を出すわけにはいかないのだ。

 お前のしたことのせいで――いや、お前がしたことではないとわかってはいるが――お前が問われようとしている罪で、お前の愛する家族まで危険に晒されてしまうのだ。

 ただでさえ、お前が無能神の聖女になっていてからクラディール家への風当たりは強かった。

 これ以上は、私の力ではどうにもならいことなんだ。


 だから……すまない。本当にすまない。

 すまないが……どうか、お前とクラディール家の縁を切らせてほしい。

 この一文を書く手さえ震えている、父の気持ちをどうかわかってほしい。


 私はお前を愛しているし、お前の無実を信じてもいる。

 それでも、どうにもならないことはあるのだ。

 力ない父で、本当にすまない……。


娘を心より愛する父より

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