8話

 上手くやられてしまった。


 ――そりゃあ、まあ、そうよね。そうなるわよね。


 去り際、たしかに神様は私をかばってくれた。

 ずいぶんとアマルダにご執心で、気が急いたように忙しなく出て行ったことは、置いておく気はまったくこれっぽっちもないけどひとまずは置いておいて、あれでも一応、私のことも気遣っていたらしい。


『この姿や穢れのことでなにか咎があれば、私にお願いします。私のことは、エレノアさんには無関係ですので』


 へえ、無関係なんですか。ふーん。別にいいですけど。

 というのも置いておいて。


 神様は残していく私の無事を約束させてくれた。

 アマルダも素直に頷いて、連れてきた神官を連れて去っていった。


 ――まあ、これもわかるわ。あの子、言いたいことはいろいろあるけど、『こういうこと』をする子じゃないのよ。


 こういうこと、というのはつまり、嘘を吐いて油断させたり、納得したふりをして騙したりということだ。

 そのあと気分が変わることはあるにしても、騙そうと思って騙すタイプではない。


 たぶんアマルダは、神様の言葉に本気で頷いていた。

 彼女としては私を見逃し、本当にそのまま去っていくつもりだっただろう。


 ――というより、アマルダのことだから、単に私に興味を失くしていただけよね。


 だから、『アマルダ自身』は私を見逃すけれど、それっきり。

 その後のことは、気にかけすらもしない。


 アマルダが神様を連れ去ったあと、残されたのは数人の神官とマティアスだった。

 アマルダに良いところを見せたい神官たちと、嘘でアマルダをけしかけたせいで、引っ込みの付かなくなったマティアス。

 そして、私がうっかり漏らした『もう少ししたら人が来る』という言葉。


 それも、『神様の無実を証明する』人間と聞いて、マティアスが黙っていられるはずがない。


 その結果がどうなるかと言えば――。


 ――ふ。


 私は口元を歪ませると、重たい頭を持ち上げた。

 周囲を見回せば、見えるのは高い窓。粗末なベッドと、ちょっとした家具。

 それから、固く閉ざされた鉄格子。

 もともとの神様の部屋よりずっとマシだ、なんて思ってはいけない。


 ――ふ、ふふふふ。


 小さく肩を揺らし、口の端を曲げるけれど、もちろん笑っているはずがない。

 ふ、ふ、と息を吐きながら、私は顔を強張らせていく。


 素直に帰ってくれるとは、最初から思わなかった。

 また言い争うことになるだろうとは予想していたし、多少揉めることも覚悟していた。


 でも、まさか――。


 ――問答無用で、牢屋に入れられるなんて思わなかったわよ!!!!


「ふざけるな――――――!!!!!」


 窓から差すわずかな光の下。

 私は静まり返った牢屋で一人、腹の底からそう叫んだ。

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