41話 ※聖女視点(マティアス)
陥れられたのだ。
そうでなければありえない。
穢れを払えるのは、自分の神であるソワレだけ。
他の誰も――人間も、神も、
それこそが、ソワレの聖女であるマティアスの絶対的な価値なのだ。
――ありえない。
数時間前、マティアスは穢れの真っただ中にいた。
聖女である自分のために、ソワレは穢れを払いに来る。
神は聖女のためにしか力をふるえない。神殿を守りたいソワレは、マティアスに従う他にない。
――絶対に来る。
我先にと逃げる神官に、剣を捨てて役目を放棄する兵たち。
やっぱり、レナルドが集めた人間なんてそんなもの。
本当の聖女は、本当に神殿を思っているのは、自分だけなのだ。
そう――思っていたのに。
細い月明かりが照らす空の下。
蠢く暗闇を、強烈な力が打ち砕く。
かすかな光を後に残し、砕かれていく穢れを目の当たりにし、マティアスは呆然とした。
感じたのは、ソワレよりもなお強大な神気だ。
それがどの神のものであるか、このときのマティアスにはわからなかった。
ソワレより強い神気など、ルフレかアドラシオンか――あるいは、最高神くらいしかいないはずなのに。
――嘘だ。
リディアーヌに先導され、こちらへ向かってくる見知らぬ神に、マティアスは目を奪われた。
夜の闇にあっても、陰ることのない光。
美貌を誇る神々の中でも、ひときわまばゆい姿。
鋭い金の瞳は、冷徹なまでに迷いなく穢れを屠っていく。
無数に蠢く穢れが、光に溶けるように消えていく。
――やめろ。
我先にと逃げ出した神官が、彼によって助けられる。
――やめろ……!
剣を捨てて役目を放棄した兵が、彼の存在に力を取り戻す。
――やめろ! やめろやめろやめろ!!
歓声が上がる。
士気が戻っていく。
ソワレもいないのに。
マティアスはまだ、ここにいるのに――。
――その役目は! 僕とソワレ様が!
地下に空いた穴の前。
力なく座り込むマティアスの目の前で、その神は最後の穢れを打ち砕いた。
割れるような歓声が上がり、人々が歓喜とともに神を称える。
名前も知れない神に向け、ソワレにも見せたことのないような敬意を向ける。
一柱の神を中心に、沸き上がる人々の姿に、マティアスの頭の奥が熱くなる。
まともに物が考えられない。いつもの穏やかな冷静さを取り戻せない。
穢れを払うことはソワレにしかできないはずだ。
だからあの神は間違いで、偽りで、まやかしだ。
誰かがマティアスを陥れようとしているのだ。
そうでなければありえない。
ありえてはいけない。
あの神がいる場所に、本当はソワレがいるはずだったのに。
――その称賛は!
優しい王子様の、化けの皮がはがれていく。
――僕が、僕が、僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が!!
穢れを払うことができるのは
それだけが、聖女としての彼の価値だったのに。
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