13話
神気を追って踏み込んだ森の中。
私が見たのは、穢れと相対し、黒く染まるソワレ様の姿だった。
「――――大丈夫!?」
などと言いながら慌てて駆け寄るけど、どこからどう見ても大丈夫でないことは明らかだ。
ランタンに照らされるソワレ様の両腕は黒く波打ち、顔も半ばまで、侵食されるように色を変えていた。
つるんとしてぷるんとしたその黒色に、見覚えがある。
少し前までの神様と同じ――穢れの色だ。
「そのお姿、どうされたんですか!? 穢れに触れたからです!? たしか神様も、穢れを溜めすぎてあのお姿に――――って、待って待って! 待ちなさい!!」
どこへ逃げようというのか、慌てた様子で踵を返すソワレ様の腕を、私は反射的にむんずと掴んだ。
腕――とは言うものの、触れた感触はとうてい腕とは程遠い。
ぷるんとしていて少しの弾力があり、人肌よりもほんのり冷たくて滑らか。
人の姿になる前の神様みたいで、どこか懐かしさを覚え――ている場合ではない!
「その姿でどこに行くつもりですか!? 体もフラフラでしょう!」
ぐいっと引き寄せるように腕を引っ張れば、そのままソワレ様の腕が文字通り伸びる。
よく捏ねたパンの生地かというほど細く長く伸びるその腕に、私はぎょっと目を見開いた。
一見するとただの黒い腕だっただけに、この伸び方は予想外すぎる。
驚きに、つかの間呼吸が止まる。
「ソワレ様……これって……!?」
止まった呼吸とともに驚きを吐けば、ソワレ様がようやく私に目を向けた。
黒く染まりかけの顔が強張り、探るように私を窺ったのは――一瞬。
すぐにその表情は消え、代わりに以前に見たような、どこか眠たげなものに変わる。
そのまま、彼女は目を細めた。
その目つきは――いかにも『にやり』という形容の似合う、底意地の悪さがあった。
「さあ? しらなーい」
「…………は?」
「知ってても言わない。女の子に興味ないもん。みんな意地悪だし」
「は?」
――――はい?
「心配する振りしなくていいよ。それで嬉しいとか、仲良くしようとか思わないし。ありがとうなんて思わないもん」
あまりの言い草に、私は声も出なかった。
彼女を引き留める手も、いつの間にか緩んでいたらしい。
するりと私の手をすり抜けて、ソワレ様は口の端を曲げた。
それは、年下にも思える彼女には不釣り合いな、妖艶な笑みで――――。
どこか、初対面でルフレ様が私に見せた表情にも似ていた。
「だって、嘘だってわかってるから。どうせ、あなたもわたしのこと嫌いでしょ? わたし、あなたより可愛いもん」
――はあああああ!!??
さすが双子。さすがルフレ様の片割れ。
さすが、神殿中の聖女から嫌われているだけのことはある!
――このお子様! ルフレ様と別方向で生意気だわ!!!!
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