7話

 ――天然ぽやぽやなんて大嘘だわ!!!!


 神様の部屋を出てからの私は荒れていた。


 ――なにあの態度! 顔は真っ赤なくせに、め、め……めちゃくちゃ要点を押さえているというか……!


 恥ずかしがっているように見えて、神様は言葉をためらわない。

 不意打ちでさらりととんでもないことを言う彼に、いっそ弄ばれている気がしてくる。


 ――妬いているのが嬉しいとか、普通言う!? 妬かせたのは誰よ! い、いえ、別に妬いては……!


 ない――とは言えず、私はぐっと唇を噛む。

 私の中に穢れがある、と神様が言った以上、私自身がどんなにそのつもりはなくたって、無意識に悪い感情を抱いてしまったのは確実なのだ。


 そのうえ、あの場に限っては無意識でもない。

 私は間違いなくソワレ様にもやっとしたし、神様にイラっとしてしまっていた。


 ――で、でも! あんなところを見たら誰だってもやっとくらいするわよ! いきなり人の神様にキスしようとして! ……って、待って待って!


 頭の中で八つ当たりをしているうちに、私ははっと気づいてしまう。

 神様はあのとき、なんて言った?


 ――『エレノアさんがお嫌でしたら断ります』……?


 それはつまり、嫌がらなかったらキスを受け入れていたということだ。

 ソワレ様に抱きしめられている間も平然としていたし、私の姿を見ても、動揺するどころかぱっと顔を明るくしたくらい。

 ……それくらい、誰かと抱き合うのも――キスをするのも慣れているのだろうか?


 ――そりゃあ、何百年、何千年と生きている神様だし……なにもないなんて思わないけど……。


 黒いぷにぷに姿が長かったとはいえ、かつては神様も人の姿をしていただろう。

 あれだけの美貌なら、喜んで仕えた聖女も少なくないに決まっている。

 そうなると、神様だってそれなりの経験をしてきたわけで――。


「て、天然なんて大嘘だわ……! ――――って、あいたっ!?」


 自分の想像に自分で愕然としていると、横から誰かの肘が私を小突いた。

 痛い、と言ったけれど、実際にはそこまで痛くない。


 それよりも、我に返った私に向けられる視線の方が痛かった。


「……エレノア、わかっていて? いくらわたくしが原因とはいえ、これはあなたが言い出したことなのよ」


 そう言ったのは、私を小突いた張本人。私の隣に座るリディアーヌだ。


「赤くなったりにやけたり。神様がお傍にいてくれる聖女は良いご身分ね」

「あーあ、馬鹿みたい。まじめにやる気がないなら帰ろうかしら」


 と白けたように言い合うのは、向かい側に座るマリとソフィである。

 三者三様、私に向けるのは非難のこもった鋭い視線だった。


 時刻は夕食時を少し過ぎたころ。

 場所は、例によって食堂の一角。

 神様のお世話を終えたあと、私たちはまっすぐ宿舎には戻らず、人の出入りの減った夜の食堂に集まって顔を突き合わせていた。


 その目的はといえば――。


「穢れが増えている原因を突き止めるのでしょう? さあ、今日も作戦会議でしてよ!!」


 というわけである。

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