16話

「あなた、馬鹿じゃないの!? この状況で『構わない』って、犯人扱いされても仕方ないわよ!」


 人だかりをかき分けて、私はずんずんとリディアーヌに向けて歩み寄る。

 周囲の視線が一斉にこちらを向くけれど、気にしてはいられない。

 だいたい、もう声を上げてしまったからには、いくら気にしたって手遅れなのだ。


「きちんと否定しなさいよ! さっきから言葉が足りないのよ! 穢れを生み出してないんでしょう!?」

「エレノア……!?」


 割り込んでくる私に顔を向け、リディアーヌが驚いたように目を見開く。

 だけどその表情は一瞬だ。

 すぐに、元の取り澄ました表情に戻ってしまう。


「なんの用かしら。いきなり話に割って入って、失礼なことばかり。わたくしを馬鹿にしているの?」


 相変わらずのツンツンである。

 突き放すような口ぶりに思わず足が止まるが、リディアーヌは気にしない。

 例によって悪役めいた態度で、ふん、と鼻を鳴らすだけだ。


「この話は、あなたには関係なくってよ。放っておいてくれないかしら」

「放っておけるわけないでしょ、バカ!!」


 かたくななリディアーヌに、私は迷わず一喝する。

 放っておけるものなら、それはもちろん放っておきたかった。

 アマルダなんかに関わりたくないし、こんな人の目を集めるのも心地悪い。


 でも――。


 ――目についちゃったんだから、仕方ないじゃない!!


「リディが悪者にされそうになっていて、黙っていられるわけないでしょう! 放っておいたら、そのまんま罪を着せられかねないんだから! この、不器用悪人顔――!!」

「エレノア……」


 リディアーヌは虚を突かれたように瞬いた。

 このときばかりはツンとした態度も消え、呆けたように私を見つめる。

 そのまま一つ、二つと瞬きを繰り返し――。


「不器用悪人顔ってなによ!? やっぱりわたくしのこと、馬鹿にしているでしょう!?」


 我に返ったような険しい顔で――今度は、声を荒げて言い返してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る