13話

 翌朝の私は呆けていた。


 ――特別。


 上天気の朝。宿舎を出て、朝食を受け取りに食堂へ向かう途中。

 一緒に歩くマリとソフィの話も上の空で聞き流し、ぼんやりと考えるのは昨日のことだ。


 ――私が、特別。


 頭の中で、何度もその言葉が繰り返される。

 私の手を握り、微笑みかけ――私のことを『特別』だと、神様が言ったのだ。


 ――どういう意味? い、いえ、普通ならどうもこうもないのだけど……!


 これでも私は若い娘で、神様も――年齢はさておき、見た目は青年なのだ。

 普通に考えれば、『特別』の意味なんて決まっている。

 むしろこれで、深い意味がなかったりしたら、相手の男は末代まで祟られても文句は言えない。


 ――でも、『普通なら』の話よ? 神様が普通だと思う? あんなぽやっぽやで、天然が服を着て歩いているような方なのよ!?


 それどころか、最初は服すら着ていなかった。

 ありのままのド天然なのである。


 ――神様なら、深い意味がなくてもおかしくないわ。親愛の念を込めてとか……もっと悪かったら、単に聖女ってだけでも『特別』って言いそうじゃない!


 それに昨日、あの『おまじない』の後の神様も、普段となにも変わらなかった。

 こっちの動揺をよそにあっさりと手を離すと、あとはいつも通り。紅茶を淹れくれて、他愛無い話をして、それだけだ。

 あまりにも神様がいつも通り過ぎて、気にしている私の方がおかしいのかと思えてくる。


 ――や、やっぱり神様にはなんてことない話で、意識ているのは私だけ……!? い、いえ、意識してないけど! けど!!


 けど、と内心で叫びつつ、私は両手で頬を押さえる。

 意識してないのに、手のひらに触れる頬が熱い。

 これから神様に会いに行くことを考えて、心臓が勝手に跳ねている。


「ああああ! もう! もう!! どんな顔をして神様に会えばいいのよ!!」


 両手で頬を押さえたまま、私は内心で叫んだ。つもりだった。


 ……つもりだった。


 食堂もほど近い、朝の神殿。

 朝食を受け取りに行く聖女は多い。

 それなりに人通りのある道の半ばで、声を上げる私を、行き交う人々が訝しげに見ていた。


「……エレノア」


 中でも一番訝しそうな顔をしていたのは、一緒に歩いていたマリである。

 彼女は私を一つ首を振ると、心底冷たい目で私を見やった。


「一緒にいると恥ずかしいから離れて歩いてくれる?」


 容赦がなさすぎである。

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