10話
もん。
――エリックが行方不明?
もんもん。
――ついこの間、会ったばっかりなのよ? いえ、会いたくて会ったわけじゃないけど。むしろ最低の記憶だけど。でも、まさかこんなことになるなんて思わないじゃない。
もんもんもん。
――どうして? なにがあったの? 神様の部屋を出て、そんなすぐに? マリとソフィは穢れが出たっていうけど……。
その穢れは、神官たちが神殿の神様方に頼み込んで対処してもらったとのことだ。
神殿に神々がいない――と言っても、もちろん残っている神様もいて、その中には積極的に人間と関わってくれる方だっている。
アドラシオン様はその筆頭のような存在だし、ルフレ様もある意味ではよく人々の前に姿を現す神だ。
それから、もう一柱。神殿ではよく知られた神様がいる。
それが、ルフレ様の双子の妹――闇の神、ソワレ様だった。
ソワレ様は、冷徹で恐れられるアドラシオン様とも、いたずれに引っ掻き回すルフレ様ともまた違う。
この神殿では珍しく、かなりはっきりと人間の味方をする神様だ。
もちろん他の神々同様に、むやみに神の力を使ったり、人間の行く末に干渉するほど手を貸したりはしないものの――こういう危機の時には真っ先に助けてくれるという印象がある。
特に若い神官たちを気にかけ、自分の聖女もそっちのけで新入り神官に会いに行ったりすることから、実は聖女の間では評判が悪かったりもする。
『男好き』だの『媚を売っている』だの『新入り神官はだいたい手を付けられている』だの、私が聖女修行をしていたころから、結構な悪口を聞いたものだ――というのは置いておいて。
とにかく、神殿に出た穢れを対処してくれたのが、そのソワレ様だったという。
そして、穢れを払った際に彼女が言った言葉が――。
――『払えた穢れはほんの一部。このままだと、神殿中が穢れに包まれる』……って、どういう意味?
神官たちは、これで『穢れの
実際、穢れを払ってもらっても、エリックも神官たちも行方不明のまま。穢れの発生源さえ見つければ、彼らも発見できるだろう――と言うのが、神官たちの主張なのである。
――大本。穢れの発生源。
頭の中、考えたくもないのに悶々と考えてしまう。
だって――。
「――さん」
だって、ほんの一部。
私たちが見たものよりもずっと強力な穢れを、『ほんの一部』と言えるくらい大きな穢れなんて、心当たりは――――。
「――エレノアさん」
「ひょあ!!」
沈み込んでいたところに声を掛けられ、我ながら信じられないくらいに変な声が出る。
驚いて顔を上げれば、これまた信じられないくらいの美形が私を見て目を細めた。
「『ひょあ』?」
そう言って、その美形が首を傾げる。
暗い日陰の部屋の中、さらりと垂れる金の髪が、なぜが眩しいくらいに鮮やかだ。
「そんなにぼうっとして、どうされたんですか」
場所はいつもの神様の部屋の中。
一晩経てば元に戻っているのでは――という私の淡い期待は叶わなかった。
今日も人型の神様は、破裂しそうな心臓を押さえる私を見て、人の気も知らずにくすくすと笑っていた。
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