8話

 リディアーヌとアマルダの仲の良さは、今や神殿中で有名だった。

 序列上位の聖女同士、お互い分かり合えることも多いのだろう。大人しい性格のアマルダは強気なリディアーヌをよく慕い、リディアーヌもまたアマルダの面倒をよく見ていた。

 はじめは仕事で顔を合わせるだけだった二人も、いつしかなんでもない時にまで会うようになり――今では時間さえあれば、ずっと二人でいるのが当たり前の状態だ。

 上位の聖女だけが入れる食堂のテラスでは、いつも二人が談笑する姿を見ることができる。テラスにいないときは互いの屋敷で、神々も交えたお茶会をしているそうだ。

 自分の聖女以外に干渉しないと言われる神も、彼女たちだけは特別だ。

 なにせ最高神グランヴェリテ様と、序列二位の戦神アドラシオン様は兄弟神。愛する兄弟の聖女であれば、特別に思い入れることもあるだろう――。


 というのは、全部聞いた話である。


 ――私は知らないけどね! リディには会ってもいないし!


 二人の仲の良さはあくまで噂の中の話であり、直接本人から話を聞いたわけではない。

 相手はあのアマルダだし、勝手にくっついて勝手に仲が良い扱いされることは、私も不本意ながら経験がある。

 だから噂は、あくまでも話半分。というか、あのリディアーヌが大人しくテラスで談笑していられると思えないし、誇張も随分混ざっているとは思っている。

 でも、だからといって――ぜんぶがぜんぶ嘘というわけでもないのだ。


 ――二人で一緒にいるところはよく見かけるわ。仲良くテラスに向かっていたこともあるわね。あのとき無視されたこと、忘れてないわよ!


 食堂でばったり鉢合わせ、ばっちり目が合ったのに、リディアーヌはしかめっ面でツンと顔を逸らしたのだ。思い返してもムカムカする。

 まあ、あのときは私もまったく同じ行動を取ったのだから、人のことは言えないけど――それはそれとして、腹が立つものは立つのである。


 ――あっちから謝ってくるなら……って思ってたけど、もう知らないわ! アマルダと仲良くすればいいじゃない! 別に私も、どうしてもリディに相談したいってわけじゃないし!!


 ふん、と荒く鼻息を吐き出すと、私は大きく頭を振った。

 思考から無理やりリディアーヌを追い払えば、頭に戻ってくるのは神様のことである。


 ――そもそもリディじゃなくて、神官に相談するべきことだわ。でも、信じてもらえる気がしないわね……。


 原因不明で、目覚めたら人の姿になっていた――なんて言われて、納得できる人間がいるだろうか。

 それも相手は、神殿でも有名な『無能神』だ。神気で本人だとわかるはずだけど、それにしたってあの容姿と神気の量は、別人を疑いたくなってしまう。


 ――そもそも、どうして人の姿になったかわからないのよ? それなら逆に、明日いきなり元の姿に戻っていてもおかしくないじゃない。


 いきなり姿が変わったのなら、戻るときだって前触れなく急に戻るかもしれない。

 そう考えると、今すぐ神官に話をするのも少しためらわれた。

 それに、あのぽや――もとい神様も、態度はあれでも内心すごく驚いているかもしれないのだ。

 明日いきなり私が神官を連れて行ってしまえば、気を落ち着ける暇もなくなってしまう。


 ――まずは神様に相談して、神官にこのことを報告していいかどうか聞くべきね。神官に言うのは、許可をいただいてからだわ。


 でもそうなると、今日の私の抱く、この悶々の行き場所がなくなるわけで――。


 ――マリやソフィになら、話してもいいかしら。あの子たちとは宿舎で会えるのだし。


 あの二人だと、『美形になって、なんで悩む必要があるわけ!?』『自慢してるの!?』なんて言われそうだ――なんて思いながら、私はなんとも渋い顔で頭を振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る