10話
「あんた馬鹿じゃないの!? ていうか馬鹿でしょ!? そんな理由で神様と暮らしてないわけ!?」
「私たち、まだ神様のお姿さえ見たことがないのに! それでよく、私たちに相談しようと思ったわね!?」
マリとソフィは人目も気にせず、テーブルに身を乗り出して私に詰め寄る。
ちょっと引くような二人の勢いに、しかし私も黙ってはいられない。
こっちにだって言い分はあるのだ。
「私だって切実なのよ! 死活問題なのよ!? 未婚の身で男の人と同じベッドなんて、なにか間違いがあったらどうするの!?」
「無能神相手に間違いなんてあるわけないでしょう! あの体でどうするのよ!」
「どうって……どうって……!!」
どう――と言われて、思わず頭の中に神様が浮かんでしまう。
見た目こそ黒い塊だが、あれで意外にも、彼はただぷるぷる震えるだけの存在ではない。
横にも伸びれば縦にも伸びるし、今日は私を抱き上げさえもしたのだ。
物を掴むこともできる。手――のようなものを伸ばしたりもする。
別に人の姿でなくとも、あれならどうとでも――。
――ならない! ならないわよ!?
私は赤い頬をぴしゃりと叩き、慌てて思考を追い払う。
どうとでもならない。想像もしていない! い、いや、具体的には知らないけど!
――そ、そうじゃなくて!
「どうにもならないけど、き、気持ちの問題なのよ!」
熱い頬を手で押さえたまま、私は誤魔化すようにそう言った。
それから、自分で言った言葉に自分で強く頷く。
そう、これは気持ちの問題なのだ。
実際にどうこうという話は置いておいて、私が意識するかどうかが重要なのである。
「いくら人の姿でないからって、四六時中いたらこう……あ、あれこれ考えちゃうのよ! わかるでしょう!?」
「わかるか――――!!」
必死に言い募る私に、間髪入れず大音量の否定が返ってくる。
ついでにマリの手が伸びてきて、私の襟首をきゅっと掴んだ。
ぐえっ、と令嬢らしからぬ声が口から出るが、それを気にしている余裕はない。
眼前に、マリの怒りの形相がある。ひえっ。
「なーにが、『あれこれ考えちゃう』よ! あんた本気でそれ言ってんの!?」
「あ、当たり前で――」
しょう、とは言えなかった。
マリの次の言葉が、私の反論をかき消す。
「意識して、なにが悪いのよ!!」
耳が痛いほどの大声が、私の真正面で響き渡る。
言葉を呑んでしまったのは――だけど、その勢いに呑まれてしまったからではない。
「聖女なんだから、神様を意識するなんて当然でしょう! 間違いがあったって、神様が相手なら問題ないじゃない!!」
「そ……」
それは――そう。
マリの言うとおり。
聖女は本来、神様の伴侶なのだ。
意識することも、共寝することも、おかしいことではない。
だけど、頷くことはできなかった。
口ごもる私を締め上げながら、マリは容赦なく睨みつける。
私の言い分が、まったく理解できないとでも言うように。
「無能神だからイヤってわけじゃないんでしょう!? なのにあんた――いったい、なにをためらってんのよ!!」
――なにを。
静かな食堂に、マリの声が響き渡る。
突き刺すような彼女の言葉に、私は息をのみ――――。
「――うるさい! いい加減にしろ!!」
反論する前に、食堂にいた他の客――神官たちに摘まみ出された。
当たり前である。
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