2話 ※???視点

 彼はゆっくりと目を覚ます。

 カーテンの隙間からは、すでに朝の日が差していた。


 体は重かった。

 見たばかりの奇妙な夢がただの夢なのか、遠い記憶なのかも判然としない。

 夢の内容さえも今はおぼろげで、ほとんど思い出すことさえできなかった。


 頭を振って、彼はベッドから体を起こす。

 周囲を見回せば、慣れた部屋の、いまだ慣れない景色が目に入った。


 うずたかく積もっていた埃は、今はもうない。

 腐りかけのテーブルも椅子もすべて外に運び出され、代わりに置かれたのは部屋に不釣り合いなほど上質な家具だ。


 狭い部屋を満たす、二人分の椅子に、二人掛けのソファ。

 他の神々と比べれば粗末な部屋なのだろう。だけど彼には、これで十分だった。

 そう思う自分が、彼自身でも不思議だった。


 彼にとって、穢れとは相変わらず醜悪な存在でしかない。

 穢れを吐き続ける人間たちは、ひたすらに哀れな生き物だ。


 だが――。


 部屋の外、聞き慣れた足音が聞こえてくる。

 彼は自分でも知らず、口元に笑みを浮かべると、ベッドから降りて歩き出す。


 向かう先は、狭い部屋のただ一つの入口。

 待ちきれないかのように扉に向かう自分が、ますます奇妙に思えてくる。


 扉に手をかける頃には、もう夢の中身も忘れていた。

 今の彼の姿を見たら――あの男は、なんと答えていただろう。


 扉の外にいるのは、ありふれた人間の一人。

 神を魅了するほどの美貌も持たない。特別な才能もない。

 人並みに穢れを抱え、人並みに善良。


 凡庸。そうとしか言いようのない娘に、彼は今、心揺れていた。

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