30話

 これは死んだ。

 絶対に死んだ。


 目の前で弾ける魔力に、瞬きをする時間さえもない。


 そもそも、冷静に考えなくても、この状態のロザリーに立ち向かうなんて無理があったのだ。

 結局、ソフィを助けるどころか、単純に犠牲者を一人増やしただけである。

 ソフィを助ける義理があったわけでもないし、どうして考えなしに飛び込んでしまったのだろう。


 ――こんなことになるなら。


 魔力の爆発に巻き込まれる寸前。私はソフィの体を抱きしめながら、心の底から叫ぶ。


「こんなことなら、さっさと逃げておけば良かったわ!!」


「――――本当にな!!!!」


 口から溢れた本音に、予期せず返事がくる。

 ぎょっとするよりも先に腕を掴まれ、私はソフィごと乱暴に後方へ投げ捨てられた。

 私のいた場所が次の瞬間には爆発し、地面が丸ごと抉り取られる。


 ――なに! なに!?


 と驚いて顔を上げるよりも早く、ロザリーの魔法が立て続けに爆発する。

 爆風がテラスの椅子やテーブルを薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。


 だけど、ロザリーからそう離れてもいないはずの私の周囲だけは、奇妙なくらいに静かだった。

 爆発も爆風も、すべてがここだけかき消される。


 ――どうして……?


 そう思う私に、苦々しい声が落ちてくる。


「様子なんて見てないで、さっさと逃げておけばよかった! くそっ!!」


 苛立ちに満ちたその声に、私は視線を持ち上げた。


 そこにあるのは、男性――というには年若い、少年の背中だ。

 爆発が続く中、私たちを庇うように立っている。


 爆風に、鮮やかな金の髪がなびく。

 いつもは憎らしい背中。

 だけど、今はひどく頼もしく見える、あの背中は。


「ルフレさ――――」


 ま。


 と言うよりも早く、ひときわ強い爆発が起こる。

 目の眩むような爆発に、しかし目を閉じる猶予はない。

 私なら一瞬で吹き飛ばされるような爆発だけれど、ルフレ様なら、きっと大丈夫――――。




 ではなかった。

 目の前でルフレ様の体が吹き飛ばされ、私たちから離れたところ――リディアーヌたちの傍にぐしゃりと落ちる。


「……」


 先の大爆発で、ロザリーの魔力は切れたらしい。

 爆発が止み、つかの間テラスに物音が途絶える。


「…………」


 倒れたルフレ様に、リディアーヌが慌てて駆け寄る姿が見える。

 どうやら五体満足で、血が出た様子もないことに、まず安堵。

 それからゆっくりと瞬き、しばしの沈黙。


 のち、私は大きく息を吸い込んだ。


「ルフレ様――――!!!??」


 弱っ!?――――とは言わない。

 だって助けてもらったのは事実だし、私ではロザリーの魔力を防ぐことはできなかった。

 もちろん感謝している。命の恩人である。


 ――けど!!!!



 一瞬、『助かった!』とか思ったけど――。



 ――――犠牲者が増えただけだわ、これ!!

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