28話
「お昼時なのに食堂に来ないし、どこにいるのかと思ったら! こんな外れで能天気にお茶会をしているなんて聞いてないわ!」
「だって言ってないもの」
「おだまり!!」
聞かれたから答えたのに、なんという理不尽。
むっと顔をしかめる私など気にもせず、取り巻きその一は大股でこちらに歩み寄ってくる。
「こっちはさんざん探し回ったのよ! おまけに、ルフレ様も一緒ってどういうことよ!」
「どういうことって言われても」
私の知ったことではない。
そもそも彼は私が誘ったのではないのだし、文句があるならルフレ様自身に言ってほしい。
なんて考えながら、私はリディアーヌと騒いでいたはずのルフレ様に振り返る――が。
――は?
いない。
きれいさっぱりルフレ様の姿は見えず、リディアーヌだけが一人、無言で首を横に振る。
「…………」
一度目を閉じ、ひとつ深呼吸。
もう一度目を開けても、ルフレ様の姿がないのを確認すると――私は、大きく息を吸い込んだ。
「――――逃げやがったわね!! あの神!!!!」
どうりで、妙に静かだと思ったわ!!
もっとも、まだ神気は感じるので、そう遠くに行ったわけではないようだけれど――。
――ここで消えるとか、無責任すぎるわ! 神のくせに!!
どうせ、取り巻きがいるってことは近くにロザリーもいるのだろう。
危機察知能力が高くて素晴らしいが、私の信頼は最底辺まで失墜した。
もともとほとんどなかったのに、今となっては完全にゼロである。
許すまじ!!
……とわなわな震える私をどう思ったのか、取り巻きの一人が顔をしかめる。
怒りに満ちた表情で、彼女はガッと私の肩を掴んだ。
「――やっぱり、ロザリーの言った通りだわ!」
真剣そのものの表情で私を見やり――告げるのは、とんでもない言葉だ。
「最悪! あんた、本当にルフレ様に色目を使っていたのね!!!!」
「はあああああ!!??」
今の見た!? なにを見た!?
今の発言、どこから出て来た!?
「あり得ないわ! ない! ないない絶対にない!!」
私は首が取れるのではないかと言うほど、全力で横に振った。
今の行動でもあり得ないけど、これまでのことを考えても、絶対にそれはない!
「どうして私が、ルフレ様に色目なんて使わなきゃいけないのよ! あんな生意気で、口の悪いお子様に!!」
「どうだか! ずいぶん仲が良いようじゃない! 夜も二人っきりでいたところ、ロザリーが見ているのよ!!」
「それは不可抗力で……!」
アドラシオン様の計らいによって、ルフレ様が荷物持ちに任命されてしまっただけだ。
仲が良いと言うけれど、実際のところは喧嘩ばかりで、色っぽいことなんて、これまで一度もなかった。
――い、いえ! 一度はあったわね、はじめて会ったときに……!
あれを色っぽいと言っていいかはわからないけれど――妙に大人びた顔で、耳元に囁かれたことはある。
たしかに、あれはちょっと、かなりドキッとした。けど!
――ノーカンだわ! 結局蹴り出したし!
思い出し掛けたルフレ様の顔を振り払い、私は断固取り巻きを見上げる。
「本当になにもないわ! ロザリーが勘違いしているのよ!」
「どうだか! そうでなくたって、今のロザリーに言い訳なんか通じないわ! あんた、絶対に痛い目に遭うわよ!!」
「痛い目ってなによ! そんな目に遭わせるために、あなたは私を探していたの!?」
最低!――と私は吐き捨てる。
どうせロザリーの差し金だろう。
取り巻きたちを使って、私を探させていたに決まっている。
そう思う私の肩を、取り巻きは乱暴な手つきで揺さぶった。
「馬鹿! 馬鹿!! ――逆よ!!」
「馬鹿ってなによ! …………って、逆?」
思いがけない言葉に瞬く私へ、取り巻きはぐっと顔を寄せる。
その、妙に必死な彼女の表情に、私はようやく気が付いた。
息を切らせ、どこか顔を青ざめさせ――――。
怯えた声で、彼女は叫んだ。
「あんたに会わせないために探していたのよ! 今のロザリーに会ったら――もう生ゴミじゃ済まないわ!!」
明るい空。暖かな日差し。穏やかな午後の空気が、彼女の悲鳴じみた声に凍り付く。
早く逃げよう、と強張る私を引っ張る彼女の――その、後ろ。
「そう」
深い影の中に、誰かが立っている。
一瞬、そこだけ物陰にでもなっているのかと思ったが――違う。
遮るもののない場所で、彼女は影に覆われていた。
「あなたも、私を裏切るのね」
低く、囁くような声でそう言うと――ロザリーは、影の中で静かに目を細めた。
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